こらぼでほすと 再来9
「それ、明日の衣装だろ? イザーク。なんで、今頃? 」
「それは付いて来ればわかる。ヒルダさん、行きましょう。」
すでに、店が終わろうとする時間だから、イザークやディアッカが顔を出すのは、おかしくないのだが、なぜ、明日の衣装を着て外出を誘いに来るんだろう、あたりで、ニールの思考は停止している。ほら、行くぞ、と、寺の門の前に停車していた、ヒルダ曰く、「かぼちゃの馬車」という名のディアッカの愛車に押し込められた。
『吉祥富貴』では、本日の業務を十一時前に終了して、お客様を送り出した。さあ、はじめるぞー、と、アスランが叫ぶと、おーと呼応するように叫んでいるのが、年少組だ。日頃のご愛顧に感謝するため、この日だけは、はりきって接待する。
「イザーク、ディアッカ、ネズミ役よろしくね。」
「キラ、ケーキは、ぎりぎりまで冷蔵庫に寝かせて置け。というか、きさまは、絶対に触れるな。いいな? 」
「遊んでる暇なんかないよ。ほら、行って。」
キラが、年少組ではないメンバーを出迎えに指名して送り出す。後は、大急ぎで、ホールの配置を変えて、軽い食事やスイーツを運び、それらを並べる。
「アレルヤ、ティエリアを起こしてこい。」
体力的に、保たないティエリアも、ニールと同様に昼寝をさせておいた。こちらは、一服盛らなくても、九時ごろに沈没したので、二時間たっぷり寝たから問題ないはずだ。
「アスラン、ラクスは? 」
「ああ、そろそろ来る。」
「三蔵さん、トダカさん、着替えてください。みんな、手が空いたのから着替え開始。」
アスランが指揮して、順番に着替えもしていく。明日のイベント用の白の長い裾のスーツだが、せっかくだから、それで迎えることにした。中は、今まで着ていたものだから、この後の無礼講の時は脱ぐ算段だ。
「こんなもんですか? アスラン。」
だいたいの配置が終わって、八戒が確認した。まあ、身内のはぴばなんだから、大仰にすることもない。ケーキを置く位置だけ空けて、それ以外は、きっちり並んでいる。アレルヤが、寝ぼけているティエリアをだっこして戻って来た。そちらには八戒が、おしぼりを配達して覚醒の手伝いをしている。ダコスタが事務室から、大きな花籠を運んで来た。
「アスラン、フェルトちゃんからの花束は、誰が渡します? 」
「はーいはーいはーい。」
組織に居るフェルトから、花束を、と、メールが来たのでダコスタが用意した。今回は、ポピーやストック、デルフィニウム、オンシジュウムなんて華やかなことになっている。寺には大きな花瓶がないので、花束でなく花かごにしたのは、ダコスタの判断だ。それを、鷹が立候補するのだが、みな、スルーだ。絶対に贈呈時にやらんでいいことをやりやがる。
「トダカさん、娘さんに贈呈役はお願いしてもいいですか? 」
「ああ、引き受けるよ。」
そして、一番安全なところへアスランも依頼する。ちゃんとしたお祝いの席なので、ニールを怒らせるわけにはいかない。
「アスラン、俺も渡していいか? 」
紅が、何やら持って頼みに来た。手にしているのは、ラッピングされた松の実とかクコの実、乾燥した棗なんかだ。滋養のあるものにしたらしい。
「ああ、じゃあ、シンとレイの後で渡してくれ、紅。」
プレゼントの順番なんてものもあるので、ここで申請も受け付ける。無造作に渡すと、感謝の言葉とかママに言えなくなってしまうからだ。一年に一度くらい、ちゃんとお礼を言おうよ、と、キラが言うので、この日にそうしている。紅も、なんやかんやと構われているから、そのお返しだけはする。
「そろそろ、ママが到着します。キラ、出迎えをいたしましょう。」
バンッッと盛大に扉が開いて、歌姫様がやってきた。ディアッカから出発したという連絡が入ったので、慌ててやってきたらしい。背後には、マーズとヘルベルトだ。
「みんな、ママ到着したら、まず、はぴばソング行くからねーっっ。」
「キラ、ラクス、これ、忘れてるぞ。」
悟空が、事務室から急いで、ピンクのガーベラを持って来た。みんな、一輪ずつ持って、ママに手渡すつもりだった。毎年、ママのはぴばだけは、派手にできなかったから、今年は派手にやることにした。ようやく、落ち着いて、おめでとうが言えるからだ。「スタンバイッッ。」 と、アスランが叫ぶと、スタッフも一斉にホールに並ぶ。
キラとラクスがエントランスに立っていると、ディアッカが外から扉を開いた。そして、腕をヒルダとイザークに捕まれて、困惑気味に連行されて来たニールは、首を傾げている。用意しておいたスーツは身につけているが、なんで店に連行されているか気付かなかったらしい。どこまでも、おかんニールは自分に興味がない。キラとラクスの顔を見ても、ピンとはこないらしい。
やっぱり気付いてない。毎年のことながら、笑えてしまう。だから、言葉でなくて、キラとラクスから唄いだす。それで、ニールも気付いたのか、ふわりと微笑んだ。
エントランスから、ホールへと、キラとラクスが腕を取って誘導し、バースディーソングを唄っている。それと、同様にホールにいるスタッフも歌って出迎える。全員が手に、色とりどりのガーベラを持って微笑んでいた。
「おめれとうにゃ、にーりゅ。」
ホールに入ってきた途端に、てけてけとティエリアが、ニールに歩み寄って、オレンジのガーベラを差し出す。それから、アレルヤ、じじいーず、と、プレゼントとは逆の順番で渡して声をかける。さすがに、もう祝ってもらう年齢でもないから、じじいーずのほうは、「愛してるよ? 麗しの白猫ちゃん。」 とか、「今年こそ、無事息災でな? 」 とか、「今年一年も幸せに暮らしなさい。」 とか、言う台詞にはなっていたりする。
全員が声をかけて、花を渡し終わると歌も終わる。ニールの腕には、たくさんのガーベラだ。それを見て、それから亭主をちょっと見て、軽く会釈する。
「ごめん、全然気付いてなかった。」
「なんで忘れてるんだろうね、ママ。ほら、座って、イザークがケーキを運んでくるから。」
ホールの真ん中の席にニールが座ると、その横に三蔵が座る。夫夫なんだから、並べ、と、キラと歌姫様が命じたからだ。
「すいません、三蔵さん、寝過ごして。あんた、限度は守って晩酌したんですか? 」
見張っていないと、酒量を越してしまうので、そういう意味でも心配したのだが、三蔵は、滅多にない笑顔で、となりの女房に笑いかける。肩に手を回して、自分のほうへ引き寄せる。そして、耳元で、とてもいい声で囁く。
「愛してるぞ、ニール。・・・・今夜、最後の贈り物は俺がたっぷりとしてやるからな。」
「・・・・え?・・・・・・」
「どうした、亭主の愛は欲しくないのか? 」
「・・・は?・・・・・・あああーーーーっっ、、うわぁーーーっっ。」
キッチリ酔っ払っていることに気付いて、ニールは慌てているが、周囲は大爆笑だ。
「どうした? ニール。恥ずかしがるな。おまえは俺のもんだろ? 」
さらに、坊主が迫ってくるので、悟空に助けを求めて逃げ出した。いい声だ。低音のとてもいい声なのだ。それも、口説き魔モードだと、ものすごい台詞も吐きやがるから、ノンケのニールでも怖い代物だ。
作品名:こらぼでほすと 再来9 作家名:篠義