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待宵メロドラマ

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☆共犯者 (カイトとレンの話)

強引に首を引き寄せられて、唇を塞がれた。それは、月の陰る静かな夜のことだった。

優しく啄むような愛情はそこに無くて、まるで獣が餌の息の根を止めようとしているかのようだ。始めは長期戦を覚悟して、乱雑なキスも甘んじて受け入れていたわけだが、そろそろ苦しくなってきた。なんとか押し戻そうと突っぱねてみるけれど、ほぼ全体重で下から引き寄せられているから、いまいち効果がない。このまま窒息するのは御免だし、まァ、仕方ないか。僕は熱いそれに歯を立てた。唇を裂く音と、互いの歯がぶつかった音は、行為(ゆめ)から醒めることができる程度に、色気がない。慌てて飛び退いたその子は、切れてしまった唇を片手で覆いながら、僕を無言で睨み付けていた。一つも灯るものがない暗い部屋の中に、空色の双玉がぽかりと浮かんでいる。冷たい春空に映える清い青色は、酷くこの場に不釣り合いだった。

「お行儀が悪いよ、レンくん」
「……アンタが教えたんだろ……兄さん」

確かにそうだと、僕は嘲笑った。嘲笑いながら、彼の喉がこくりと血痰を飲み込む様を見つめていた。それがとても扇情的に見えて、今度は僕が喉を鳴らす。出逢った当初、何も持っていなかった少年に、求めることを教えたのは、確かに他ならない自身だ。けれど、こんなに無謀な接吻も、猛獣のような瞳も、漂う色香も、僕は知らなかった。

暫く無言で僕を睨め付けていた彼は、ふらりと横をすり抜けて、きっちり閉められていた障子を開けた。外も室内と同様、漆で塗りつぶされているかのようだ。ただ、雨上がりのじとりとした風だけが流れ込んでくる。頬を撫でる湿度が、知らない体温のようで、少し気持ちが悪い。何もない空っぽの闇を見つめている背中に、おざなりの台詞を突き立てた。

「いきなり、こんなことをして。どういうつもりだい?」

答えなんか聞くまでもないことだと、口端を上げる。「欲しい」からだ。全身にどろりとしたものが積み重なった時、僕らはそれを吐き出さなければ生きていけない。僕は、そうだった。だから、レンを引きずり込んだ。この夢の中は、心地良いのだと。

「腹が立つんだよ」

そう思っていたのに、彼の言葉は僕の予想とは遥かに違う色をしていた。

「この家を継ぐんだって、聞いた。……アンタ、ふらふら自由に生きる方が、自分には合ってるとか言ったくせに!なんで、ヘラヘラ受け入れてんだよ……!」

まるで悲鳴のような言葉に、僕はただ茫然と震える彼の背中を見つめた。

言いたいことは分かる。僕の実家は分家を多く抱える大本山で、その家を継ぎ当主の椅子に座るということは、籠の鳥になるということだ。きっと、レンとこうして会うことは、ほとんど出来なくなるのだろう。それを憂いているのならば、欲望に忠実だと言えなくも無かった。ただ、僕が茫然とした理由は、レンが怒りという感情で向かってきたことだった。彼は本当に、「何も持っていなかった」のだ。僕の知と情と性を受け入れる、大きな瓶には、憎悪を注がなかったつもりだったのに。

「全く、僕の知らないところで、ませたガキになったものだ」
「…………話を逸らすな」

「僕は家を継ぐけれど、この現状を手放すつもりは無いよ」

彼が振り返るよりも早く、一周り細身の体を後ろから抱き締める。肩越しに覗きこんだ表情は、凄くばつが悪そうだった。真っ直ぐに睨みつけてくる憤慨の爽青が、嗚呼なんて愛しいことだろう。レンは未だ、何も分かっちゃいない。籠の中に収まることを、僕が敢えて選んだ理由も。君が思うより遥かに、世間は意地汚く傲慢と計算で満ち溢れているのだということも。僕が教えなかったからだ。嘘ばかりだと拗ねる頬に唇を寄せて、嘘じゃないさと囁く。

「まだまだ教えることがあるようだね。……手のかかる子は嫌いじゃないよ」
「教わることなんか、」

言葉の続きを封じ込めて、喉の奥で笑う。兄さん、と袖口を辿って縋る指に自分のそれを絡めれば、そのまま全てを繋ぎとめられる気がした。近い未来、僕は必ず全てを手に入れる。地位も、権力も、自由も、そしてレンも。その時は、「籠」の鍵を決して開けたりしないだろう。

君は、僕の全てを受け止めて、大人になる。
嗚呼、可哀想で可愛い、僕の小鳥。
作品名:待宵メロドラマ 作家名:四季