待宵メロドラマ
話したいこと、話さなくてはいけないことだって、たくさんあるだろう。少なくとも、一朝一夕で終わらせていい夢(はなし)では、無かった筈だ。このまま終わりにして良いのかと、息巻いて抗議する俺を、灰藍色の双眼が瞬きを繰り返しながら見つめる。暫くぱちぱちと繰り返した後、それはふわりと優しく緩んだ。ご理解頂けていたようで良かったですと笑われたって、コチラとしてはちっとも宜しくない。
「飄々としているようなつもりでは無かったのですが……もし、そのように見えるのでしたら、自己完結しているから、なのかもしれません」
「あァ?」
「青さんは、きっと驚くだろうなと思っていました。最悪、答えを貰えることは無いだろうとも。僕は、それでも良かったんです」
両思いになった後より、片想いの頃の方が幸せだとか、偶に聞いたりはしませんか。コロコロと無邪気に笑う低めのアルトが、囁いた。
「探り合いで想いを馳せるのも、なかなか趣がありましょう?」
お互い腹の探り合いとは言えども、相手の「手札」は既に見えている。恐らく、こちらの「手札」も同様だろう。あの夜を境に、確かに始まってしまったのだから。ただ想っていたいだけなら、なんでキスなんかしたんだよ。じとりと睨め付けると、眉間に皺を寄せて怒るほど大した理由じゃあ無いのですと藍鉄は苦笑した。
「片想いのままで構わないとは言いましたが、僕ばかり想いを寄せるのでは不平等でしょう。……きっかけが欲しくて。ほんの少しでも、僕のことを気にかけて貰えるような。」
それに、青さんの困り顔って、なんだか可愛く見えて好きですし。
「ッこの!性悪!!」
声を荒げた俺とは逆に、そんな性悪の家に飽きずやってきて、特に何をするでもなく、話し相手になってくれて、感謝しているのだと涼しげな声音が告げた。「飄々としているつもりは無い」なんて、嘘八百にも程がある。勢いに任せて立ち上がり、向かいに回ると、座っている藍鉄の腕を強く引いた。よろりと反動で立ち上がって、こちらを見やる瞳は、ただ驚きの色で潤う。青さん、と。俺を呼ぶ声もか細く、先程までの余裕はどこへやら、雑音に消されてしまいそうだ。
「お前ほどではないけど、俺も性悪なんだ」
こくん、と。藍鉄が、息を飲む。ゆっくりと、脈打つように動く白い喉から目が離せない。
痺れる夢に魘され続けるなんて、御免だ。
「感傷に浸る趣味もない。だから、」
残念ながら、想いを馳せるだけの時間(ドラマ)は、これでおしまい。
乾いた唇をゆっくり舐めて、口端を上げる。睫毛と睫毛が重なって、諦めたように瞼を閉じた藍鉄に、唇と同時にその囁きを落とした。なあ、藍鉄。恋は、落ちた方が負けなんだよ。