Wizard//Magica Wish −9−
見滝原総合病院の一室、一人部屋のベッドに さやかちゃんが安らかな寝息を立てて横になっていた。そこには俺の他に杏子ちゃん達、それに、恭介の姿があった。
「………。」
「恭介…」
つい先ほどまで さやかちゃんの両親が来ていたようだ。俺たちは入れ違いで会えなかったが、恭介はずっとこの病室にいたらしい。きっと、さやかちゃんが病院に運ばれた時からずっとここにいたのだろう。
「恭介、どうしてこうなったか、俺に聞かないのか?」
「ハルト!きょ、恭介っていったか?ハルトは さやかを救おうとして…」
「大丈夫、僕は別に…」
恭介は、目にかかっていた さやかちゃんの前髪を避け、近くにあったパイプ椅子に腰を下ろした。
「もし さやかが酷いことをされたなら、こんな安らかな寝顔をして眠っていられるわけありません、それに僕はハルトさんの事を信じてます。だから、僕は怒ってなんていないし、絶望してもいません」
「恭介…」
「それに、僕は さやかと約束したんです。ずっと、さやかの帰りを待ち続けるって…だから、僕はこれから さやかが起きるのを待ち続けます。どれだけの時間が流れようが、関係ない。さやかが僕にしてくれたように、今度は僕が さやかを待つんだ」
「そっか…わかった」
もう、恭介は大丈夫だ。
さやかちゃん、やっぱり恭介は強くなったよ。
俺が直接言わなくても、問題ないみたいだ。
「帰ろう、皆」
「ハルトくん…でも」
「大丈夫、さやかちゃんが強いのを一番知っているのは まどかちゃんでしょ?なら、信じようよ、さやかちゃんを」
「…うん、そうだね。さやかちゃん、早く起きてね?私達はずっと待っているから」
俺は まどかちゃん達を連れて病室を後にする。病室のドアを閉め、俺たちは歩き始める。
「ハルト」
「何?杏子ちゃん」
「ハルトは…ずっとあたしの傍にいてくれ」
「…え?」
「ハルトは、もうあたしにとって大切な存在だ。だから…絶対に、どこにもいくな」
「っ…そう、だね。頑張ってみるよ」
約束はできない。
俺だって、まだ皆に話していない秘密がある。
いつ、何時話そうと試みたが、全てが変わってしまいそうな恐怖を感じて口がそれ以上開かない。
「操真ハルト、この件であなたの指輪はどれだけ溜まったの?」
「えっと…わかんない、沢山」
「そう…なら良いわ」
ほむらちゃんは、何か知っている。
俺の正体、そして俺が知ってしまった真実。
もしかして彼女は俺の全てを知っているのか?
暁美ほむら…君は一体何者なんだ?
運命の時が、また一刻と進む。
止めることのできない時間が進み、全ての終焉の時が近づいてくる。
俺は、あと何人の絶望を希望に帰ることができる?
俺は、あとどれだけの時間が残されている?
窓から俺を照らすかのように、綺麗な夕日が光り輝いていた…。
作品名:Wizard//Magica Wish −9− 作家名:a-o-w