黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 6
第18章 血戦
――絶対に勝ってやる!――
一回戦第一試合が終わるところで、まもなく第二試合が始まろうというところでシオンは会場へ繋がる通路にて誓いを立てていた。
シオンの対戦相手は第五戦士、デッカである。
彼とはトライアルで戦い、そして惜敗した。実力差がそれほどあったような気はしない。むしろあのような負け方をするはずがなかった。
だからこそ、悔やまれてならなかった。しかし、悔やんでばかりいられない。自分は今まさにファイナルに出場しようとしている。まだ勝負が決まったわけではない。そう、次に勝てればいいのだ。次に、
「やあ、シオン君」
シオンははっとした。つい深く考え過ぎていた。
自身を呼ぶのは誰か判断するのに時間はかからなかった。
「デッカ…!」
シオンは振り向いた。そこには屈強な顔つきながらも、穏やかな表情のデッカがいた。
「君ならトライアルを勝ち抜くと信じていたよ」「デッカ、言っておくぞ。勝つのはこの俺だ!」
キッと、睨むようにデッカを見つめた。
「うん、いい目だ。きっといい勝負になるだろう」
会場の方から大歓声がわいた。第一試合の勝敗が決まったということであろう。
「さあ、私達の出番だ。存分に楽しもう、シオン君」
「ああ」
シオン達は会場へと進んだ。
※※※
第一試合が終わり、リョウカは一度宮殿に戻ってきた。
「よう、ご苦労さん!」 ロビンは言った。ご苦労、などと言ったが、リョウカには疲れの色は全く見えなかった。
「見てたぜ、すごかったなあのエイヤ」
ジェラルドは嬉々とした様子である。
「本当にすごかったですね。相手の方、気絶してましたよ」
イワンも言った。
「あれでも手加減した方なんだが…」
リョウカは苦笑を浮かべた。さすがに普通の人間相手に力を入れすぎたと思ったからだ。
「ま、次も頑張れよ」「ああ、そうだな。次の相手は…」
ウラヌスと共にトライアルを戦ったシオンか、あるいは、そのシオンを打ち破った寡黙な戦士、デッカか。雌雄を決する試合はそろそろ始まった頃か。
「どちらが勝つか、楽しみだな」
リョウカは笑みを浮かべた。
ロビン達はその後コロッセオへ向かった。外から向かうと若干遠い上に人混みでろくに前にも進めないだろうが、宮殿からの直通の通路を行くと、すぐに会場までたどり着ける。
ロビン達がコロッセオに着くと、試合場でシオンは細身の剣を、相手のデッカは長剣を持って戦っていた。このことから競走はシオンが負けたということは容易に判断できた。
シオンは攻撃を仕掛けた。
「とう!」
元々細身の剣の使い手であったので、デッカと目立った戦力差は無かった。
デッカはシオンの剣を受け止めるのが精一杯だった。ヒュンッ、ヒュンッという音と共にデッカに掠り傷を与えていく。
「おら!」
シオンは剣を突き出した。デッカは受け止める。
「どうした、かかってこいよ!」
シオンは言った。シオンは挑発のつもりだったが、デッカは怒るどころか笑っていた。
「シオン君、やはり君は私の思っていた通りの男だ。とても強い」
シオンはデッカの意図が読めなかった。
あれほどまでに傷を与えたというのに、怒り狂って攻撃するわけでもなく、声を荒げるなどもせずにただ笑って、シオンを賞賛している。「それでこそ、私も本気を出せるというものだ」
デッカの目つきが変わった。すると凄まじい速さでシオンに攻め入り、剣を振るった。
シオンはすんでのところで受け止めた。
――何て重たい一撃なんだ…!――
デッカはかち合う刃の向こうで恐ろしい笑みを浮かべている。
「悪いとは思ったが、今までは君の力を計らせてもらっていた。ここからは本気で当たらせてもらう!」
まるで人が変わったようだった。力もである。
かち合う刃を弾くと、互いに距離を取った。
「シオン君、君になら見せられる。私の正体を…」
デッカはふっと、目を閉じるとすぐにカッと見開いた。獣のような瞳がそこにあった。徐に口を開くと犬歯が伸び始め、牙になった。手の爪も鋭く伸びていた。
「お前、デッカ…なのか?」
「月明かりがないので、完全にはなれないが、これが私の正体だ」
そこにいるのは最早人間などではない。アンガラより遥か南東の大陸、オセニアの奥地に隠れ住むというヴァンパイアであった。
ヴァンパイアとは呪われた民として、周囲の村に迫害を受け、ついには山奥まで追い込まれ、村の外に出ることはなくなった。
そんなヴァンパイアが外の世界に出るばかりか、こうして正体までさらしている。会場はどよめきに包まれた。
「デッカ、お前は一体?」
「私はヴァンパイア、呪われし村、ポーピーチーよりやって来た」 耳慣れぬ村にシオンは目を細めた。
「私は強い者と戦いたくて、村を出た。私の姿を見て臆することなく立ち向かうような。シオン君、君こそが私の望む強気者だ」
デッカは手に持つ長剣をシオンの足元目掛けて投げた。
長剣は土埃を上げて地面に突き刺さった。
「良かったら使いたまえ。私にはもう武器は必要ない」
シオンは突き刺さる剣の柄を握り、地面から抜くとそれを試合場外へ投げつけた。
「悪いが俺も重たい剣は苦手でね」
「ふ、そうか…」
審判、とデッカは呼んだ。
「その剣はもういらない。片づけておいてくれないか」
「よろしいのですか?」
「早くするんだ」
「は、はい」
獣のような瞳に審判は怯えたようだった。係員を呼びつけると、剣は片づけられた。
「さあ、早く続きをしようか。この姿になると血が騒いで仕方がないんだ」
デッカは爪を突き立てた。
「ああ、かかってこい。そして俺が勝つ!」
シオンは剣を構えなおした。
「全力で行くぞ。シオン」
最早今までの紳士的な雰囲気は心身ともになくなっていた。
「うおおお!」
「ぬんっ!」
シオンの剣をデッカは素手で受け止めた。受け止めた手は傷一つ負っていない。しかも、握る手の力も強く、刃を握られたまま抜くことができない。
「その程度の攻撃では私は斬れぬぞ」
「ぬかせ!」
シオンはデッカの腹を蹴って、剣を放させた。
デッカは平気な顔をしている。相当体が丈夫なようだ。
シオンは休みなく攻めかかった。それを見据えていたかのようにデッカは手をかざした。
「ふんっ!」
小型の竜巻が巻き起こり、シオンに襲いかかった。
「あれは、『スピン』!」
観客席からジェラルドが叫んだ。
「あのデッカという人、エナジストだったんですか」
イワンも言った。竜巻がエナジーだと判断できるのはエナジストであるロビン達だけであった。竜巻が出る寸前にエナジー特有の光がデッカの体から出るのが見えた。
シオンは竜巻を避けきれず、まともに受けてしまった。
「うわあああ!」
シオンは吹き飛ばされ、風に切られた切り傷だらけになり倒れた。
「くっ、そう…」
シオンは剣を杖にして立ち上がった。立ち上がったところに容赦なくデッカの爪が襲いかかった。
「くらえ!」
「ぐわ!」
シオンは肩口を引っかかれた。デッカの爪は刃のように鋭利で、傷口は剣で斬られたかのようになっていた。
「よそ見をするな!」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 6 作家名:綾田宗