黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 6
人の心を読む力、未来を予知する力である。特に予知能力はそれによってラリベロの人々を災害から救った事もある。いわば彼女はラリベロの人々にとって救世主でもあるのだ。
そんなシバが何故トレビにいたのかというと、バビの差し金である。
バビはレムリアを探すためにその財力にものを言わせ、バビ灯台なるものを造らせていた。
それはラリベロの北にあり、作業はトレビの者だけでなく、ラリベロの者も使役されていた。そこでバビはシバの守護役達も作業に参加させるために彼女を預かったのである。悪く言えば、作業を急がせるためにシバを誘拐した、とも出来なくもない。
そんなシバが二日前から行方を眩ましている。このことがラリベロの人々に知れれば反乱を起こされるやもしれないと、ヨデム達は秘密裏に捜索していた。
「どうするのだ、事が知れればラリベロが」
「あ、ですが、一つ情報が。これはシバ様がいなくなられた日の事ですが、市中にてシバ様らしき人を連れた男が目撃されています。また、その男はゴンドワナ通行ゲートで戦士達を不思議な技で一瞬にして倒し、仲間とともにゴンドワナへ渡ったとのことです」
ロビン達は驚いた。それはガルシア達の事ではないか。
「して、その男の特徴は?」
「はい、長い黒髪を後ろで留めていて、二本の剣を武器にしていました」
「シン…!?」
リョウカは驚いて言った。
「リョウカ、その者を知っているのか?」
ヨデムは訊ねた。
「ああ、私達が追っている者だ…」
「シンだけじゃない。ガルシアって奴もオレ達は追っていたんだ」
ジェラルドは言った。
「ヨデムさん、急ごう。オレ達はガルシア達を追わなきゃいけない。シバという人が捕らわれているなら尚更だ」
ロビンは言った。
「奴らシバって人をどうするつもりか知らないが、奴らの中には無事には済まさないかもしれない奴がいるんだ」
ジェラルドは言った。
「それはまことか!?それなら急がねば。お主、このことはこれから先も内密に頼むぞ!」
「はっ!」
戦士は去っていった。
「急ごう、ゴンドワナへ!」
ヨデムとロビン達は急ぎ足で宮殿を後にし、ゴンドワナ大陸を目指していった。
※※※
広大な砂漠は砂嵐に包まれていた。
外套に身を包んではいるが、隙間から砂が入り込んでくる。できるだけ下を向くようにはしているが、それでも長い間目を開けている事はできない。
スハーラ砂漠、ゴンドワナ大陸にある巨大な砂漠である。
「暑さはそうでもないが、この砂嵐はちょっときついな」
シンは言った。
彼の言うとおり暑さは大した事はない。それこそラマカン砂漠に比べればよっぽど涼しい程である。
外套を纏った小さめの少女が膝をついた。ガルシアはすぐに駆け寄った。「シバ、大丈夫か?」
「ええ…、ちょっと砂に足を取られただけです…」
シバは遠慮がちに言った。
外套のフードが取れて覗いた顔はかなり幼さを残している。鼻も口もとても小さい。まるで帽子でも被っているかのような金髪をしており、瞳の色は風の力を操る者特有の薄紫色をしている。
ガルシアはシバにフードを被せてやった。
「無理するな、こんなに酷い砂嵐だ、ゆっくり歩けばいい」
「はい、すみません…」
シバは視線を落とした。
その後、ガルシアはシバを自分の後ろで歩かせ、シンと並んで歩いた。
「へへ、なかなか上手くいかないもんだな?」
シンは茶化すように言った。
「何がだ」
「シバの事さ。優しくしてるつもりが引かれてんじゃねえか」
「まだ馴れてないだけだろう。誰でもそういうものだ。ましてや、ほとんど誘拐したように連れてきてしまったのだからな」
シンは口を尖らせた。
「人聞きが悪いなぁ、ただ一緒に遊びに行こうって言って連れてきただけなのに…」
「…それが誘拐と言うんじゃないのか?」
「まあまあ、これから先ずっと一緒に来てもらうんだから。固い事言うなって!」
シンはガルシアの肩を叩いた。
でもよ、とシンは言った。
「ガルシア意外とああいうのが好みだったんだな」
「…どういう意味だ?」
「ま、そういう意味だ。別に年下の子もいいんじゃないか?」
「シン…!」
ガルシアは真っ赤になって怒鳴った。シンはケラケラと笑っていた。
ガルシアがふと後ろを見るとシバは心なしか距離を置いているようだった。
「ありゃりゃ、聞こえちゃってたのかな?」
ガルシアはシンを睨むのだった。
「大丈夫?疲れてない?」
シバに彼女の後ろをスクレータと一緒に歩いていたジャスミンが歩み寄ってきた。
「はい、大丈夫です。トレビに来るときもこの砂漠は歩きましたから」「ごめんね、シンが変な事言ったみたいで」
ほとんど人さらいのように連れてきてしまった事をシンに代わってジャスミンが詫びた。
「シン、あんなだけど悪い人じゃないの。嫌わないであげてね」
「いえ、むしろ感謝しています」
シバの意外な言葉にジャスミンは不思議に思った。
「どうして?」
「私、トレビに行ってからずっと一人だったんです。宮殿の人は良くしてくれるけど、やっぱり寂しかった。だから、連れ出してもらえて嬉しかったです」
シバは笑顔を見せた。
「シバ、とても寂しい思いをしたのね。私で良かったらあなたの友達になりたいわ」
え、っとシバは驚いた。
思えばシバはラリベロにいる間もずっと一人であった。民は皆、シバを神の子として崇め、親に咎められているのだろう、子供達でさえシバ様と呼び、対等には接してくれなかった。
「いいんですか?」
「もちろんよ」
シバは嬉しかった。友達になれたことはもちろんのこと、自分に対して対等に接してくれた事がとても嬉しかった。
「ありがとう、ジャスミンさん」
「ううん」
ジャスミンは首を横に振りながらシバの鼻先に人差し指を差した。
「ジャスミンでいいわよ。それと、敬語じゃなくていいのよ」
シバは一瞬戸惑った。しかしすぐに戸惑いを捨て、呼んだ。
「ジャスミン」
「そうよ、それでいいのよ」
そして二人笑い合った。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 6 作家名:綾田宗