黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 6
バビはレムリアの民に命を救われ、そしてその地に住み着いた。それから十年の時が流れ、バビはエナジーを授かった。
しかし、特別に訓練したわけではないので、『シャドー』のみしかエナジーを得なかった。
民から施されたレムリアの薬のおかげでバビは60を過ぎても若々しい姿のままだった。
それからさらに二十年の時が経った。レムリアには訪ねてくるような客もおらず、争いもなければ楽しいことも、悲しいことさえもない。バビは変化のない毎日に遂に嫌気がさし、レムリアの薬を盗み、レムリアの船をも盗んで島を飛び出した。
外の世界へ舞い戻ったバビはその後富を得て、アンガラに町を作った。120年前、バビが86歳の事であった。
その後バビはレムリアの薬を盗まれまいとアルタミラ洞窟の奥深くに封印した。そして、
「今、薬は僅かを残し、底を尽き始めてしまったというわけじゃ」
ヨデムは驚いていた。
「では、バビ様が時折いなくなられていたのは薬を取りに行く為だったのですか?」
「ああ、そうじゃ」
「そして薬が無くなってきていると…」
「その通り、薬が無くなれば、ワシは死ぬ」 ヨデムは顔面蒼白になった。
「どうして今までその事を仰ってくれなかったのですか。急いでレムリアへ船を出させましょう」
「無駄じゃ」
ヨデムが戦士達を呼び出そうと動き出した瞬間バビは言い放った。
「無駄とは、どういう事です?」
バビは目を閉じ静かに言った。
「レムリアが、見つからぬ…」
「何故です、バビ様は確かにレムリアに行き、そして帰ってきたはず!」
「そう、帰ってはこれた。じゃが、行った時の事は分からぬ」
バビは難破した事で偶然にレムリアにたどり着いたにすぎない。そう、気が付けばレムリアだったというだけである。
さらに悪いことがあった。
「どこにあるのかも今となっては分からぬ」
バビが齢150を迎える頃、彼は何隻もの船を出し、レムリアを探させた。しかし、そのどれもが見つける事は愚か情報すらも得られず、遂に発見されることはなかった。
「ではどうすれば、バビ様をお救いする事はできないのですか?」
「方法は一つだけ…」
バビはロビン達を見つめた。
「ロビン達にはヴィーナス灯台に行ってもらい、レムリアの場所を探し出してほしい」
バビの考えはこうである。
海上からは遂に見つかることはなかった。そこで今度は空から探す事を考えた。神が建てたという世界一高い灯台の上からならば位置を定めることができるのではないかと考えたのだった。
しかし、とヨデムは食い下がった。
「ヴィーナス灯台には登るどころか入り口を開くことすら今まで誰もできていないではないですか」
これまでも何人もの戦士が灯台に登ろうと挑んでいったが、その誰もが灯台に入ることも出来ていない。
「普通の者ならば無理であろう、じゃがロビン達は違う。あ奴らにはエナジーがある。どうじゃロビン、行ってはもらえぬか?」
再びロビンを見る。
「はい、僕達も今まで灯台を目指し、旅をしてきたのでそれは構いません」
ロビンは答えた。
「おお、そうであったか。ならば話は早い、レムリアを見つけ出したならそのままレムリアを目指してほしい」
急な要求に、ロビンは困った様子を見せた。何せ彼らには灯台の守護という役目があるだけでなく、そもそも船がない。
ロビンはその旨を話した。
「大丈夫じゃよ、船はこちらで用意しよう。それに船がない事にはこれから先旅をするのが難しくなるぞ」
この先行くことになるゴンドワナ大陸は砂漠や、山脈ばかりの険しい大陸である。また、ロビン達はまだ知らないが、ジュピター、マーズの灯台は船を使わなければ行けない大ウェスト海にあるのだ。
「行ってくれるならば船はその後お主らの自由にしてよい。だからどうか行ってはくれぬか?」
ロビン達はしばし相談した。
確かにこれから先は険しい道のりとなる。船があれば海を楽に進むことができる。そもそもまずはヴィーナス灯台へ行くことになっている。どちらにせよ灯台には行くのだ。それにこれほどまで頼まれていては、断るのは酷だ。
ロビンは答えた。
「分かりました。レムリアへ行きましょう」
バビは喜色を浮かべた。
「おお、行ってくれるのか。ならばすぐにでもヨデムと共にゴンドワナ大陸へ向かってくれ。大陸に入るにはワシの許可がいるのじゃ」
ヨデム、とバビは執事を呼んだ。ヨデムは承知した、と会釈をするとロビンの前に立ち、布にくるまれた物を差し出した。
「ヴィーナス灯台に向かう前に、お主にこれを授けておこう。コロッセオ優勝の褒美じゃ。遠慮なく受け取るがいい」
ロビンはヨデムからそれを受け取った。
包まれる布を取り去ると出てきたのは剣である。
「それはバビ様が建設なされているバビ灯台の地下から見つかった剣だ。名をガイアというらしい」
ロビンは剣の柄を見た。装飾は質素であるが、神秘的な造りである。何やら文字が刻まれている。
「ガイアの剣…?」
ロビンは剣を鞘から抜こうとした。
「あ、あれ?くそ、抜けない…」
剣は錆びているのか、どんなに力を入れて引いても抜けない。そこで脚の間に挟み、両手で柄を握って引いてみたが、それでも抜けなかった。
ロビンは顔と手を真っ赤にして言った。
「はあはあ…、あの、これどうやっても抜けないんですけど…」
「何やってんだそんな剣ごときに、貸せよ」
ロビンはジェラルドにガイアの剣を渡した。そして今度はジェラルドが手を真っ赤にする番だった。
あの力自慢のジェラルドでさえも抜けない。もしかして不思議な力で人を選ぶ剣なのかと思い、イワン、メアリィ、リョウカと順に試したが結果は変わらなかった。
「やはり抜けぬか…」
バビは洩らした。
「おいちょっと待てよ、やはりって何だよ?」
ジェラルドが食い下がった。
「その剣は一度も抜けた事がないのじゃ」
「そんなもんをオレ達に押し付けようってのか」
「押し付けるなどではない。エナジストであるお主らならもしやと思って授けたのだ。今は無理やもしれんが、いつか必ず役立つはずじゃ。努々手放してはならぬぞ」
正直ただ荷物が増えてしまっただけのような気がしたが、ロビンにははねつける事はできなかった。
「全く、甘すぎるぜロビン…」
ジェラルドは言った。
「ではそろそろゴンドワナへ向かおう」
ヨデムが言うと、彼はバビに一礼した。
「ではバビ様、行って参ります。必ずやレムリアを探し出して参ましょう」
「うむ、頼んだぞ。ヨデム、ロビン達よ」
ロビン達はヨデムに引き連れられ、謁見の間を後にした。
「ヨデム様!」 ロビン達が部屋を出てすぐにトレビの戦士が駆け寄った。
「一体どうした?」
「ご報告いたします。シバ様捜索の件ですが、市中を探し回り、町の周辺も捜しましたが、とうとう見つかりませんでした」
「なんだと!?」
シバとはゴンドワナ大陸の北東部の町、ラリベロにて神の子として崇められている少女である。
彼女は14年前にラリベロの空より赤子である時に降りてきたのだという。また、シバには不思議な力があった。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 6 作家名:綾田宗