黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 7
第23章 希望の力、タイタニック
爆発が収まる頃、土煙から露わになったのは地に伏したサテュロスと剣を振り抜いた姿のロビンだった。
誰が見てもどちらが勝ったのか一目瞭然だった。
「やった!サテュロス達を倒したぞ!」
ジェラルドは喜んだ。
メナーディも既にリョウカとジェラルドが協力する事で倒している。
ロビン達の勝利に違いはなかった。
立ちはだかる敵は倒した。残るはシバをヨデムやギョルギスとの約束通り連れ帰るのみである。
「シバ、こっちへ来てください!」
イワンが呼んだ。すると、シバの前にガルシアが立ちはだかった。
「ガルシア、どういう事ですか?」
ガルシアは静かに言った。
「シバは渡せない…」
「何だと、お前オレ達に助けてもらったくせに!」
ジェラルドは言った。
「助けてくれ、と頼んだ覚えはない」
「てめ…!」
ロビンはジェラルドの前に手をやり、彼を制止した。
「ガルシア、それはお前が絶対に火を灯すつもりだと取っていいのか?」
ロビンは訊ねた。
「ああ、灯台は灯さねばならん…」
ロビンは手を下ろした。
「だったら、ガルシア…、お前はオレの敵だ」
ロビンはガルシアを睨んだ。しかし、ガルシアはそれに怯むことなく言い返してきた。
「望むところだ、ロビン。俺を倒すというのなら相手になってやる…」
ガルシアが剣を抜いた瞬間、呻くような声がロビン達の間にした。
「我々を…倒した…つもりか…?」
倒れていたサテュロスとメナーディが起き上がった。同時に立ち上がろうとするも、すぐに膝をつく。
「倒したつもりかって、よろけているではないですか」
メアリィは言った。
「今は…な…」
ごほ、とメナーディが咳をすると、同時に血が飛んだ。
「だが、すぐに回復する。あれを使えばな…」
サテュロス、とメナーディが叫ぶとサテュロスは懐から何か取り出し、それを火口へ投げ込んだ。
黄色く輝く球体は火口の周りを数回弾んだ後、球体、ヴィーナススターは火口へ落ちていった。
「しまった、ヴィーナススターが!」
瞬間火口より極太な光が上空へ伸びた。
「灯台のエネルギーは我々のパワー回復の源になるのだ」
「火と地はお互いが助け合う関係となる、だから私達は回復できるのさ」
サテュロス達の傷がみるみるうちに塞がっていった。
「何度戦ったって、オレ達は負けない!」
ロビンは身構えた。
「この姿では負けた、それは認めよう。だが、北の火の一族が真の力を出せばこの程度ではない…」
サテュロス達のエナジーがどんどん大きくなるのを感じた。
「行け、ガルシア。シバを連れてここから離れろ!」
メナーディは叫んだ。
「行って、いいのか?」
「早くしろ!戦いに巻き込まれたくなかったら急いでここを離れるのだ!」
ガルシアは躊躇していた。
「いや、こいつらとの戦いに背を向けるわけには…」
「何言ってんだ、これは本当にヤバい。奴らの言うことを聞いておくんだ!」
ガルシアとシバはシンに引き連れられていった。
「待て!ガルシア」
「待て、シン!」
ロビンとリョウカはそれぞれを引き止めようとした。
「ふふふふ…貴様らの相手はガルシアでも、シンでもない…」
サテュロス達からものすごいエナジーの波動が発せられた。それは少しでも気を抜けばあっさりと吹き飛ばされそうなほどである。
『大地に宿る地の神よ』
『烈火に猛る火の神よ』
サテュロスとメナーディは二人それぞれに詠唱し始めた。
『我が身、己が力に捧げよう』
サテュロス達の体が眩しく輝いた。
『ブレイズ・フュージョン!』
完全な光の塊となったサテュロス達の姿が重なり合っていく。さらに光は一度大きな球体になり、小山程の大きさにまで膨張していった。
次第に球体から四肢が現れた。それは岩のように大きく、丸太ほどありそうな爪が伸びている。
さらに、長年生きた老木よりも太い尾が伸びていく。次第に紫がかった胴体も露わになり、背中からは巨大な膜を張った羽が広がった。
伸びて現れた首は二本あり、それぞれサテュロス、メナーディの髪型の面影ある鬣を生やしていた。
「グオワアアア!!」
あらゆる物を平然と噛み砕いてしまいそうな牙を覗かせつつ発せられた咆哮は大地が割れんばかりだった。
北の火の一族達は禁呪『ブレイズ・フュージョン』を使い、竜化した者達をこう呼んでいた。
ユニオンドラゴンと。
「な、何だあいつは…!」
ロビン達は圧倒されていた。
小山程もある巨大なドラゴンを相手にして、戦慄さえも覚えていた。
「あんな奴と、一体どうやって戦えってんだよ?」
ジェラルドは足に震えを感じた。
「ボク達でどうにかなるんでしょうか?」
「く、私があの時メナーディを殺していれば…」
リョウカは拳をきつく握り締めた。爪が食い込んでも痛みよりも悔しさ、後悔の感情が勝っていた。
「私達、ここで負けるというの?」
メアリィは死を覚悟しているようだった。
「バカやろう!オレ達が諦めてどうするんだ!」
ロビンは仲間達を叱責した。
ジェラルド達ははっとなったが、すぐにまた諦めの表情を浮かべた。
「ロビン…、お前の気持ちも分かるがあれほどの敵、私でも戦えない…」
いつも好戦的なリョウカでさえ諦めていた。メナーディを殺さなかった事の後悔の気持ちが何より強かった。
ロビンは他の仲間を見た。皆一様にロビンと目が合うと同時に視線を逸らす。
「ああそうかい、オレはお前たちがそんな腰抜けだったとは思わなかったよ!」
ロビンは仲間達に背を向け、まっすぐにユニオンドラゴンを見据えた。
「腰抜けはそこで見ていればいい。オレ一人でも戦う、最後までな!」
ロビンは剣を構えてユニオンドラゴン目掛けて駆けた。
「おおおお!」
力を込めてユニオンドラゴンの足に斬りかかった。しかし、全力で剣を振ったというのにユニオンドラゴンには傷一つ付いていない。
「うわ!」
ユニオンドラゴンは前足を振ってロビンを薙払った。
ロビンは飛ばされながらも再びユニオンドラゴンに立ち向かった。
「どうだ!」
再び斬りかかる。だがやはり斬れない。
ユニオンドラゴンの反撃を受ける。
「がっは…!」
ロビンは地面に強かに打ちつけられた。
血の混じった唾を吐き飛ばし、ロビンはまた立ち上がる。
「まだ…まだぁ!」
ロビンは何度でも立ち上がる。やられては起き、またやられては立ち上がる、そうしているうちにロビンは服も体も全てぼろぼろになっていた。
「ごほ…」
顔中を血まみれにし、血の混じる咳をしながらも何度でも立ち上がる。
「まだ…だぜ!」
ロビンはさっきからずっとこう言って立ち上がっている。体の限界はとうに過ぎているというのに。
ジェラルド達はロビンの言っていた通り、ただ見ている事しかできなかった。しかし、次第に心が咎め始める。
――このままでいいのか――
友が一人で戦っているというのに、自分は傍観しているだけでいいのか。
友がどんどん傷付いているというのに、自分はただ見ているだけなどとは間違っている。友を助けられずただ立ち尽くしていて、何が友だというのだ。
「うおおお!」
ロビンの攻撃とユニオンドラゴンの攻撃が重なった。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 7 作家名:綾田宗