黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 7
「それがあったのだ。それも驚くことにこの町の中に」
ロビン達は案の定驚いた。まさかこの様な町中に、それも海から多少離れた所に船があるとは夢にも思わなかった。
「船は町外れの川に面した倉庫にしまってある。トレビの戦士が門番をしているから行けば分かるだろう」
ロビンは視線を落とした。
「どうしたんだ、ロビン?」
「いえ、『レムリア』を探すのは約束ですから探しますけど、ジャスミン達も探さないと…」
「ふむ、そう言うと思っていた。しかし、すぐには行けないというのも私は困るのだ。まあしかし仕方ないか」」
「え、それじゃ…?」
「うむ、バビ様には黙っておくことにしよう。だが、ジャスミンも『レムリア』も急いで見つけてもらいたい」
「任せな、オレ達にかかればすぐだぜ!」
ジェラルドは胸を張った。
「では、頼んだぞロビン、みんな。気を付けて旅を続けてくれ。必ずや『レムリア』を」
ロビン達は皆そろって頷いた。
「では成功を祈っているよ」
ヨデムは去っていった。
その後ロビン達はヨデムに言われたように町外れを目指した。川沿いに大きな倉庫がある、その扉の前には槍を持ったトレビの戦士が門番をしていた。
ロビンが声を掛けると、戦士は話が通っていたらしく、倉庫の重々しい扉を開け放った。
倉庫の内部はとても広かった。内部にも川が流れており、船は川の底に沈んでいた。しかし、それは壊れて、沈没しているのではなく、意図的にこうなっているように見えた。
まるで封印され、解放の時を待っているかのようだった。
ロビン達は陸と船を繋ぐ階段状になった橋に登り、橋の切れ目まで進んだ。
徐にロビンはブラックオーブを取り出した。ブラックオーブに込められた不思議な力が、淡い光を帯びていた。
ロビンはブラックオーブを川底の船に向けて掲げた。ブラックオーブが一瞬輝くと、この辺り一体が震え始めた。
長い眠りから覚めるように、川底に沈む船が沢山の水泡を浮かばせ、ゆっくりと浮上していった。
次第に露わになる船はとても立派だった。カラゴル海で乗った定期船とは比べ物にならない。
大きな船体に巨大な帆を張って、先端はドラゴンの頭を模している。
ついに全ての船体が浮上した。その姿は勇壮、そんな言葉のよく似合うものだった。
「ついにゴンドワナを去る時が来たんだな」
ジェラルドが嬉々として言った。
「本当ですね。これまでの旅、長かったような短かったような…」
イワンもしみじみと旅の思い出を振り返った。
「思えばいろんな事がありましたわね…」
「ああ、辛いこと、苦しいこと、色々あったが、楽しかったな」
リョウカから楽しかったなどと言う台詞が出たのが意外で、変わったなあ、とロビンはクスリと笑った。
「何が可笑しい、ロビン」
「あ、いや、本当に色々あったなあって…」
リョウカは尚も疑いを込めた目でロビンを見る。
「あ、そう言えばオレ達初めての海だよな」
ロビンは無理やり話題を振った。
「そうですね、海、荒れてますけど大丈夫でしょうか」
メアリィは言った。海もまた地震の影響で荒れているのだった。
「長生きの薬を作れるレムリアの船だ。きっと大丈夫だよ」
「そうですね」
「おい、いつまでもくっちゃべってないで早く乗ろうぜ!」
ジェラルドは待ちきれないようだった。
「ああ、そうだな…」
ロビンは声を張り上げた。
「オレ達の新しい旅がこれから始まる。行こうみんな、新しい何かがオレ達を待っている!」
「おーー!!」
ロビン達は船に飛び乗った。ブラックオーブを舵の中心にはめると船は動き出した。
「行くぞ、出航だ!」
船は川を一気に下ると、すぐに河口へさしかかり大海原へ進んだ。
「みんな、すまない。頼みがあるんだ…」
甲板でロビン達が初めての海にはしゃいでいる所にリョウカが突然切り出した。
「どうしたんだよリョウカ、急に改まっちまって?」
ジェラルドが訊ねた。
「ヴィーナス灯台が灯ることでイズモ村で魔龍オロチが復活するということは前に話したと思うけど…」
「確かに何回か聞いたな」
リョウカは突然懇願した。
「頼む、ジャスミンや『レムリア』を探す前に、私をイズモ村へ送ってほしい。厚かましい、身勝手な願いだとは思う。けど村が心配なんだ!」
送り届けるだけでいい、そうリョウカは付け足した。ただひたすらに村が心配だった。伝説だと思っていたあまくもの剣、即ちガイアの剣が現れた以上、オロチが復活するのも必然だったからだ。
ロビンの答えは拒否のものだった。
え、とリョウカは顔を上げた。そしてすぐに視線を落とした。
「…そうだよな、私達には使命があるからな」
「そうじゃない」
リョウカは再び視線をロビンに向けた。
「オレは送り届ける事はできないって言ったんだ。たった一人で行かせるなんてな」
「え、それって!?」
「そう、オレ達も一緒に行くよ。イズモ村に」
「水くさいぜ、今更一人で行こうなんてよ!」
「ボク達、仲間じゃないですか」
「どこまでもご一緒いたしますわ」
送り届けるどころか、皆ついて来てくれるとの事だった。
「みんな…」
「ジャスミン達を探すにしてもまず情報が欲しかった所だし、向かう途中の町や村で何か聞けるかもしれない」
それに、とロビンは肩越しに背中のガイアの剣を一瞥した。
「オロチとかいう奴を倒すにはこの剣が必要なんだろ?だったら尚更だ、一緒に戦うよ」
「ロビン…」
「よ〜し、オレ達の新しい旅の最初の目的地は決まった。目指すは『イズモ村』だ!」
ロビンは大声で宣言した。船に乗って僅かな時しか経っていないというのに、その姿はもう船長そのものだった。
「ありがとう、ロビン、みんな…」
リョウカは言った。
その時ロビンとジェラルドが舵の取り合いをしており、その様子を見てイワンとメアリィは笑っていた。どうやら聞こえていないようだった。
「ん、何か言ったかリョウカ?」
ロビンには僅かに聞こえていたようだった。
ロビンが目を離したその隙にしめたとばかりにジェラルドは舵を握った。
あ、ずるい、と二人は再び取り合う。
「いや、ジェラルドの船酔いは大丈夫なのかと思って」
「そう言えば…」
ジェラルドの顔が一瞬で青ざめた。
「ははは、船酔いしてるようじゃ船長は無理だなジェラルド!」
ロビンは高笑いしながら舵を握った。
「ちきしょう、覚えてろよロビン…うえ…」
ジェラルドはイワンに船室まで運ばれていった。
「ロビンも金槌じゃなかったか?」
ロビンははっとなった。確かに考えてみれば目の前には巨大な水たまりが広がっている。
「な、何言ってんだ…ここは船の上だぜ…?」
「でも沈没したら?」
ロビンの脳裏に嵐に遭い、難破し、船が沈没して自分が溺れる情景が浮かんだ。
全身から鳥肌が立つような気がした。
「メアリィ、舵は君に任せた。オレはもう寝る…」
「え、ちょっと待ってくださいロビン!」
ロビンは大急ぎで船室へ駆け込んだ。メアリィが船室のドアを開けようとしたが中からロビンが押さえているらしく開かない。
開けなさい、ロビン、とメアリィがドアを叩くと、嫌だ、水怖?い!などと駄々っ子のようなロビンの声が響いた。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 7 作家名:綾田宗