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【黒バス/黄黒】傍にいる不幸

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その端正な顔が笑うと、よくもまあ本当にいい遺伝子がかけあわさったものだと思う。優れた遺伝子の、その表現型が一体どれほど多くの女性たちを惑わせてきたのだろう。
黒子は彼のほほえみが好きだった。
けれども、時折見せるしまりのない笑顔も、とてもいとおしかった。彼は本当にうれしかったとき、少しだけ間をおいてからその笑顔を見せる。その一拍は、自分の職業柄の癖なのだと苦笑して彼は言っていた。
なんかつい、普通に笑うのってためらっちゃうんスよね。普段の笑い方って、なんかよくわかんなくなっちゃって。
呟いて見せた苦笑までもが愛おしい。髪色のせいかとてもまぶしく見える彼には、笑顔がなにより似合っている。
「なんか、うれしそうっスね」
「……そう、でしょうか」
「うん。なんつか、幸せオーラみたいなのが出てるっていうか。うまくいえないけど」
「僕、変な顔をしてましたか」
「えぇ?なんで、変な顔って」
「……にやけていたりしたのかと」
彼がまた笑う。不思議だ、彼が笑うと、泣きたくなってしまう。この輝きは、決して自分だけのものにはならない。そんな思いがずっと黒子の心を占めているから。
彼の笑顔はたくさんの人のためにある。普段の笑い方、それっていったい何かしら。この端正な顔を好きだという女の子は多いのだから、日常においてだって、彼はみんなのものであるべきだ。
たとえば青峰が黒子ただ一人を照らすスポットライトなら、黄瀬は陽光だと思った。誰にも等しく降り注ぐけれども、それはつまり、同じ分量しか光を与えない。特別に誰かを強くは照らさない。
だから彼は、決して黒子の光にはなりえない。
どれほど黒子が彼に焦がれても、手に入れたくても、とてもそんな願いは叶いそうもない。
自分はきっと闇に立っている。スポットライトを浴びなければ影を生み出すことができないほど、とても深い闇の中に。
強く強く自分だけを照らしてくれないと、天井よりも遠い空、そのさらに上の宇宙に浮かぶ何光年も離れた太陽の光では役不足だ。
自分のものにならない分、自分も、彼のものにはならない。……なんて烏滸がましい考えだろう。つい自嘲の笑みが漏れた。
「どうしたんスか」
「え?」
「……いや、なんかさ、黒子っちって、いっつも控え目でちっちゃく、でも幸せそうに笑うんだけど。今、なんか……寂しそうに見えたから」
「……そう、でしょうか」
頬に触れてみる。この顔が寂しそうにしていたのか、物欲しそうに、彼を見でもしたろうか。
ぺちぺちと柔く叩いて、きっと彼は、自分の瞳を見ていたのだろうと理解した。目は口ほどにものをいうとは、なるほど本当にそうらしい。笑っていたはずなのに、自嘲の中に、寂しさが滲んでいた。
ならばそれはきっと、彼の笑顔について考えていたからだ。黄瀬の笑顔は、いつも黒子を、幸せにする。けれど同じだけ、悲しくもさせる。それが何故かは、あまりよくわからない。
「ね、黒子っち。もっかいやって、今の」
「いまの?」
「うん。ほっぺた。こうやって」
「……はぁ」
黄瀬の大きな手が黒子の頬を包んで、二、三ゆっくりと叩いた。あたたかな彼の手はしっかりと男らしくて、自分の手とはずいぶんと差がある。うらやましい、なかなか成長しない子供じみた自分の手とは大違いのそれは、もう十分に大人の男の手をしていた。そして、この手に頼りないこの手を強く握ってほしいと願った。
……叶いも、しないのに。
「さみしいとか、つらいとか。そういうのって、なかなか人に言えないけどさ。……でも、限界までため込むよりも、言えそうなら、言ってほしいっス。……じゃないと、そのうち壊れちゃうから。特に黒子っちは、何にも、なかなか言ってくれないでしょ」
優しく掌で頬を撫ぜられると、縁いっぱいまで溜まっていた苦しさが沸騰して溢れてしまいそうだった。親指が頬骨を軽く押すように、鼻筋から目尻に向かって動いていく。
大人びた手だが肌は滑らかで、彼がモデルであることを再認識させた。この手で、毎日肌の手入れをしていたりするのかもしれない。この手で、誰か女の子に触れたりしたろうか。
こんな自分に触れるより、柔らかくあたたかなものに触れたのだろうか。
「……、」
「ん?なぁに、どうしたっスか」
「…………」
口を開いたけれども、何も声にならなかった。どうこの苦しみを表せばいいかわからない。きっと彼はなんだって聞いてくれるだろう。遮ることなく、時折その柔らかい声で相槌を打ちながら、真剣な顔をして聞いてくれるだろう。
けれども、一体どう言えばいいのかわからない。どうして苦しいのだろう、一体何が苦しいのだろう。それもわからなくなってしまうくらいに、自分でも驚くほど、感情が強く溢れすぎて思考を支配してしまっていた。
「泣かないで、って。普通は言うところなんだろうけど」
目尻の下でとどまっていた親指が、こぼれた感情をぬぐった。黄金が淡く揺れてぼやけている。言葉の代わりに、黒子の心を語ったのはやはり目だった。何も言えなくなってしまったから、無言でもこの悲しみや苦しみを表そうと、水をこぼす。
「いっぱいいっぱい泣いて、スッキリしちゃえばいいんスよ。それが一番、気持ち楽にできるから」
「……ハ、」
「黒子っちが泣きやむまで何時間でも付き合うっスよ。だから、我慢しないで」
「ア、……あ、う、うぅ」
息が苦しかった。耳から染み入る声も言葉も、ただ黒子を苦しくさせるだけだった。泣いているから喉が引きつるのではない。
彼の笑顔を思って悲しくなるのは、それが自分だけのものであってほしいと思ってしまうからだ。けれどそんなことはありえない。だから、自分もまた彼のものにはならないなどとわけのわからないことを考えて、釣り合いをとらせていた。お互い様だからと思えば、物欲しさが和らぐような気がしていたのだ。
御大層なこじつけをして逃げていたのだ、……これは、甘えだ。けれど自分を甘やかすことしか、守り方を知らない。こんな苦しみは知らなかった。
ひなたに出たことなんてなかったから。強い光を浴びてはいても、その光の当たらない場所は結局は闇だ。
暗幕の中、誰もいないがらんどうの空間、そこに一人、無意味に立ち尽くしていたのに。そこに急に日光が差し込んできた。周りの闇を溶かして和らげていく、残酷な平等を振りまく光。
ひとりにしないで、そばにいて、たったその二言が言えない。
なにも、いえない。
「ハ、……はぁ、は、ハァ、」
「……黒子っち?」
心が苦しい。なのに、それを伝える術はただ、息を荒げ縋り付くだけしかない。
教えてほしい。
どうすれば、苦しくなくなるのか。
愛おしい笑顔を見るたびに蟠りが少しずつ大きくなっていくことにはどう対処すべきなのか。触れられれば安心するのに、憂愁に胸を痛めるのはどうしてなのか。
「きせ、く……ん……」
頭がくらくらする。うまく息を整えようとしているのに、どうしても出来ない。黄瀬は不安そうに背中を何度も大きくさすってくれていた。そのリズムに、出来る限り呼吸を合わせようと試みる。
抱きしめられるといい匂いがした。それは黒子の好きな方の匂いだった。