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あいつは・・・

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 後から聞いた話では、あいつはまだ二十歳くらいだということだった。
 ……何故、そんなことに興味を持ってあいつと話してた奴に訊ねたのかもよくわからない。
 自分でもわからないが、無性に気になった。
 あいつの年齢とか、過去、今何考えてんのか、そんなことを。
 どうしているだろうかと。
 ……馬鹿らしい。
 知ってどうする、そんなこと。
 ……過去……。
 あいつの昔。
 少しは知っている。
 知っていることもあるって程度だ。
 『イイ女になっただろう』と言っていた。
 あいつが惚れた、15年前のスキャッグスとの抗争に巻きこまれて亡くなった、エミリーという女のこと。
 あいつは帰る場所を失くしたってこと。
 そして現在。
 カラスとして働いている。
 ……そうだ、あいつは政府の人間だ。
 年下だとわかったせいで、妙な世話焼きの心でも出たんだろうか。
 あの、出会ってすぐに殴り合いになった、ケンカを売る時のクソ生意気な強気な顔、挑発するような真っ赤な髪に、黄色っぽい目も心をむき出しにしていて。
 それに比べて、その後の、打ち解けた……わけじゃねえか、一緒に行動することにした……時の、呆気にとられた顔や、驚いた時の顔や、悔しそうな顔やら……。
 あいつはいつだって素直で。
 無邪気といえるほど正直で。
 顔に感情が出ていて。
 隠してる時でさえ、たぶん隠していることが顔に出る性質だろう。
 不器用だ。
 ……よく知らないが、何故かそんな気がする。
 それくらいわかりやすいんだ。
 だから、危ない感じがして。
 だから……手を出したくなるんだろう。
 傍に置きたくなるんだろう。
 そうに違いない。
 たぶん、弟に対するような気持ちで……。
 ……そうだろうか?
 クレソンを拾った時のような気持ちだろうか?
 クレソンは俺に『拾われた』とよくそう言う。
 それは、『救われた』というような調子で、いつもくすぐったいもんだが。
 俺としちゃそんなつもりはみじんもない。
 ただ……俺にできることがあるなら、何か一緒にできるようならとか、俺自身がやりたかったことをやっただけで……。
 『救った』とか、そんな大層なもんじゃねえ。
 一緒にいたいと思っただけだ。
 それに必要なことをしたまでだ。
 ……ただ、気持ちとしては、兄弟に近いと思う。
 俺たちは一家だ。
 家族なんだ。
 ……だが、あいつはなんだ?
 あいつに感じるのは、あきらかにそれとは違う。
 同情?
 憐み?
 ……それも違う。
 怖れずに本気で向かってきたあいつを……表情のくるくる変わるあいつを……危なっかしいあいつを……。
 傍に置いて、いつも見ていたい。
 ……何を考えているんだ。
 自分で自分に呆れ返る。
 だが……。
 ……あんなにキレイなんだ。
 キレイだと思っちまった。
 赤い髪も、あの目も、顔も。
 気に入ったんだ、あの心も。
 ……たぶん、ただ、それだけだ。
 まあ、アレだ、気に入っちまったんだ、あいつが。
 気になるんだ。
 ただ、それだけの話さ。





「おい、あいつはどうした?」
 淡い茶色の髪をした、眼鏡をかけた男に訊く。
 鋭い切れ長の目に、通った鼻筋、なかなかに理知的でいて、精悍な顔つきをしている。
 ただの優男に見えるが、そうでもないのを先ほどの戦闘で知っている。
 戦い慣れている。
 その男は、ふっ……と眉をひそめ、怪訝そうな顔をした。
 それでいて、興味のなさそうな、もっと言うとマフィアである俺の言葉など聞く価値もないというような素振りをして。
 素っ気なく言う。
「あいつ? ……誰のことですか」
 訪ねておいて答えを聞く気もなさそうに背中を向ける。
 ……いや、本当に聞く気がないのかもしれない。
 背中が目指しているのは扉だ。
「あのウォルターとかいう赤い髪の奴だよ」
 ピタリ、と、足が止まった。
 ゆっくりと振り向く。
 薄青い瞳。
「……彼がどうか?」
 『どうかしたか?』ではなく、『何をしたのか?』という問いだとわかった。
 ……何もしちゃいないし、どうもしちゃいない。
 別に、特別な理由なんて、何もありゃしない。
 ……ただ、『どうしてるのか』知りたいだけだ。
 理由を訊かれても困る。
 俺はイライラと空をにらんだ。
「……別に、どうもしちゃいねえよ。俺はただ、あいつが俺と別れた後、どうしたのか気になっただけだ。てめぇ、仲間だろ。何か知ってるんじゃないのか」
 ピクリ、と眉が動く。
 はね上がって、また戻った。
 それ以外、なんの変化もなかった。
 ……正反対だ、あいつと。
 あいつが気に食わなかった理由とまた違ってこいつも気に入らない。
 ……能面みてぇなツラしやがって。
 苛立ちを覚えながら、もどかしく重ねて問う。
「……どうだ。どうしてるか、知らねぇか?」
「訊いてどうするんです、そんなことを」
 苛立ちが確かな怒りに変わった。
 くそっ……。
 どうするだって?
「いや、どうもしねえよ」
 追っかけてってとっ捕まえて殺すとでも思ってるんだろうか?
 ……そんなことはしない。
 だが、なら何故、俺はそんなことを訊いた?
 ……わけがわからねえ。
 まぁいい。
「いいから、教えろよ」
「知りません」
 はね付けるように言う。
「今はロベリアの処刑が最優先です。仲間の安否など、その後だ」
 少し、呆気にとられて、呆然としてしまった。
「……ずいぶんと冷たいじゃねぇか」
 もうわかっていたというのに、見た目でどこか、なよっちい男だと思っていた。
 もっと甘いのかと。
 あいつが大事にされているというのは、どこから来た思い込みだったんだか。
 あいつがあんなに無防備の喜怒哀楽の感情をさらけ出していたからに違いない。
 てっきり、仲間とベタベタして、甘やかされきっているものかと。
 ……違ったな。
「あー……」
 ぼりぼりと頭をかく。
 閉じたまぶたには、あいつのいろいろな表情がチラついて。
 なかでも、ひどく悔しそうな、悲しげな顔が……。
 抗争のせいで故郷を失くしたこと、エミリーを失ったことを話す時の顔が。
 チッと鋭く舌打ちする。
「あいつは……」
 いや、何を言う?
 あいつは大変なんだよ?
 あいつだっていろいろとあるだろうよ?
 あいつのことを気にしてやれ?
 心配してやれってか。
 ……馬鹿な。
 リカルド・カッチーニの言うことじゃない。
 口を閉じようとして、また開く。
 目も自然と見開かれる。
 目の前の男が、ひどくいまいましげに、自分をにらみつけてきたからだ。
「ウォルターのことなら、俺たちのほうがよく知っています」
 ギリッとにらみつけて、男は眼鏡を直す手つきで、顔を隠す。
 次にあらわにした時には、その顔から怒りの感情は消え、もとの無表情に戻っていた。
「仲間なので」
 それだけ言えばじゅうぶん、といったふうで、踵を返して歩き出す。
 驚いてしまってなんの反応も返せずにそれを見送った。
 ……なんだあいつは。
 今のは……。
 今のはなんだ。
 不意に腹の底からぐわっと怒りがこみ上げてきて頭に血がのぼった。
作品名:あいつは・・・ 作家名:野村弥広