あいつは・・・
ぐらぐらと沸騰しているように熱く、めまいまでするほどだ。
ぐっと拳を握りしめる。
ここがどこかなんて、どういう状況かなんて、どういう人間かなんて考えずに、追っかけていってとっ捕まえて殴りつけてそして……。
そしてなんと言う?
『俺のほうが……』
俺のほうが?
俺のほうがあいつをわかってやれる?
……馬鹿な。
「くそっ、ふざけやがってっ……」
険しく地に吐き捨てる。
軽くあしらわれたことに腹を立てたんだ。
きっとそうだ。
……あいつは政府のカラスだ。
Red Ravenだ。
あの眼鏡野郎はあいつの仲間だ。
……助けるとしたら、力になってやれるとしたら、あいつのほうなんだろう。
俺ではなく。
カッチーニのリカルドではなく。
俺にはまだやることが残っている。
残ってるなんてもんじゃねえ、たくさんある。
あいつのことを気にしている場合じゃない。
だが……。
歩きながらどうしても考えてしまう。
浮かんでくる。
……俺はあいつの力になってやりたかったのか。
そうか。
……そうだ。
『仲間なので』……そう言われてひどく頭に来たのも、あいつを助けるのが俺ではないことがわかって今こんなにひどく落ち込んだような気持ちでいるのも、要はあいつにもう関われないからなのだと気付く。
自分とあいつはなんでもない。
……その事実がひどく悔しい。
何かもう少し知りたかった、興味を覚えた、惹かれるものがあった、そのことを自覚する。
こどもみたいに表情のよく変わる彼に、本気で殴り合った彼に、一緒に戦った彼に、年下で小さいくせに生意気な……強がっている彼に、悲しんでいる彼に、惹かれるものがあった。
力になってやりたかった。
そう思わせるにじゅうぶんな相手だった。
……だが、もうどうしようもない。
あの澄ました顔した茶髪の眼鏡の男……彼の仲間……をとっ捕まえて殴って止めてそして、『俺のほうが』などと怒鳴って、代わりに飛んで行くことなどもうできないのだから。
ウォルターの元に駆けつけることなど自分にはできないのだから。
自分はマフィア。
そしてあいつは政府の人間。
それだけだ。
乗り越えられない関係。
それだけで……。
それでじゅうぶんだ。
(おしまい)