Muv-Luv Cruelty Mermaids 1
1. New Field
アメリカ海軍サンフランシスコ基地市街地演習場。
二個小隊による模擬戦が行われようとしていた。
「各小隊、指定座標到着。状況開始せよ。」
CP将校からの無機質なオーダー。
「マーメイド1了解。」
一息つき、キャシーは人魚逹に告げる。
「マーメイドリーダーよりマーメイド各機。算段通りに行くわよ。」
「マーメイド2了解。」
「マーメイド3了解!」
「マーメイド4了解です。」
「オールマーメイド、楔壱型で前進!」
マーメイド1を先頭に、人魚達が続く。
「マーメイド2よりマーメイド1。敵機接触まで40秒。」
「マーメイド1了解。マーメイド各機は散開!オーダーはマーメイド2に従うこと!」
「「「了解!」」」
「マーメイド2よりマーメイド3、4。ノイズメーカーを利用しながらサークル展開。敵機接触の際はスモークディスチャージャーで。あくまで基本に忠実に。シナリオ通りに行きましょう。」
「「了解!」」
―今回もイケる。
キャシーはセリーナの的確な指示を聞きながらある確信を持ち、跳躍ユニットを吹かせながら"狩られ"に行く。
敵機を視界に捉える。
敵機―ストライク・イーグル。
第二世代機の傑作機と呼ばれるイーグルシリーズ。改修等を重ね、第三世代機に引けを取らない機体として現役を続けている。
その上相手衛士はベテラン。
相対的な経験不足はキャシーにとっては大きなディスアドバンテージだ。
しかし、その逆境がキャシーの真の力を発揮するきっかけにもなっていた。
「…上等。」
索敵レーダーに敵マーカーが写る。包囲殲滅する展開だ。
「…来なさい。」
いつも1人で闘ってきた。味方など誰一人としていなかった。
1人で闘うなんて、慣れている。それに―
今は1人ではない。仲間がいる。信頼できる仲間が。その力強い想いがキャシーを戦闘へと駆り立てる。
ストライクイーグル2機、キャシーから見て12、3時方向が砲撃を開始。
「―くッ…当たるかぁ!」
キャシーの駆るスーパーホーネットはアイスダンサーのように回転し、弾幕を降りきる。
同時に細かい回転起動に耐G処理が限界を越え、キャシーの身体を締め付ける。
キャシーらマップを一瞥する。隠れるにも逃げるにも最適の場所であり、単機であることも合間って、ストライクイーグルを撹乱誘導する。
「はぁ…はぁ…さぁ、捕まえてみなさい!」
敵機との通信は禁止されている。
しかしキャシーの挑発が伝わったか、敵ストライクイーグル4機は徐々にキャシーとの距離を詰めつつあった。
その後もストライクイーグルからの砲撃を弾幕を張りながら掻い潜るが、確実に包囲陣は形成されていく。
「36mm、残弾0!」
キャシーの36mmが底を尽き、120mmへと突撃砲を変更。ストライクイーグル4機は既に目と鼻の先に迫っている。
キャシーにはもはや弾幕を張り続け、牽制する手段は無くなったが―
「ボギー3、致命傷により大破。」
突然のCP将校からの通信。
それは同時に、反撃開始の合図でもあった。
「マーメイド2よりマーメイド1。一機撃墜。…さぁ、ダンスパーティーの始まりよ、キャシー?」
「マーメイド1了解!」
セリーナの応答を受け、キャシーはロケットブースターを点火する。
蒼空高く舞い上がったスーパーホーネットは、120mm突撃砲を手に制空権を独占。敵機はチャンスとばかりにキャシーに銃口を向け集中砲火を浴びせようとするが―
「あはは、上に気を取られすぎだよっ!」
120mm突撃砲を唸らせながら突貫するレインによりストライクイーグル1機が再び大破認定を受ける。
2機となったストライクイーグルはエレメントを組むために距離を縮めようとするが…
「…ふっ、パーティーはまだ始まったばかりよ。」
上空からのキャシーの砲撃に邪魔され、思うように距離を縮められない。
「マーメイド1よりマーメイド各機、後は好きにしなさい。私は憐れなイーグル達の為に一緒に踊ってあげるわ。」
「―マーメイド2了解。キャシー、そんなんじゃ男にモテないわよ?」
「…っ、うるさいわね。最近の男がだらしないのよ。…っと、流石はストライクイーグルね。良く動くわ。」
無駄話をしながらも砲撃は止めない。それ故、2機のストライクイーグルは本物のダンスを踊るかのように避け続けている。
「マーメイド4よりマーメイド1。マーメイド3との挟撃、していいですか?」
「いいわよ、さっさとケリを着けましょう。」
数分後、ストライクイーグルはレインとフェミニによる挟撃とセリーナによる支援砲撃によって各個撃破され、マーメイド小隊の勝利で演習は終了した。
◇◇◇
数分後、シャワールーム。
演習を終えた人魚達は、簡単なデブリーフィングを済ませ、シャワーを浴びていた。
「にしても、また言われちゃったわね。」
「…何が?」
「『流石は残虐な人魚だぜ!』ですって。むしろ可憐な人魚って言って欲しいわよねぇ?」
キャシーの疑問に応えるセリーナ。それに続くようにレインとフェミニが話し出す。
「まぁ、キャシーは強ち間違いではないわよね。」
「…集中砲火のリスクを負って囮だなんて、普通やらないです…」
「そこは残虐な、というより変態な、の方が正しいわね。」
「ちょっと、目の前で変態って言うのはどうなの?」
「まぁ確かにキャシーが人魚なら変態ね。…胸の大きさ的に。」
「あら、僻み、レイン?」
「…僻んでないしっ!私にはフェミニがいるもん!」
「姉さん、私はまだ成長途中です。」
「フェミニ!?」
「そうよ、レイン。フェミニはまだまだ大きな可能性を秘めてるわよ?」
「…セリーナ姉さんみたいに?」
「ふふっ、楽しみね?」
「いいじゃない。フェミニが成長したら、逆にあんたは絶滅危惧種よ?希少価値あるわよ。」
「人をマイナー種みたいに言うなっ!」
こうして4人は一時の安らぎを享受していた。
◇◇◇
同日夜。基地司令室。
「マーメイド小隊、小隊長、キャシー・フォード中尉、出頭しました。」
「―入れ。」
「失礼します。」
キャシーは夕食後、基地司令に呼び出しを受けていた。
「突然の出頭、申し訳ないね。」
「いえ。」
「実は…君達には欧州に行ってもらいたい。これもまた唐突で申し訳ないのだが…」
「欧州…でありますか?」
欧州。対BETA戦の一大拠点となっている。激戦を繰り広げていることもあって、人員、物資の消耗率は尋常ではなく、衛士の墓場とも呼ばれているほどである。
―何故私達がそんな所に行かなきゃいけないの?
キャシーの疑問に応えるように、司令は話を続ける。
「実は我々米軍の予備戦力を欧州に派遣することが国際会議で決まったのだ。欧州の選局安定化のためにな。しかしこの予備戦力投入には、選局の安定化以上に米軍の精強さをアピールする面が大きい。そこで、海軍最強の君達に白羽の矢が立ったのだ。」
「は…」
自分達に拒否権はない。
だがしかし、好きで死地に赴く者などいるはずがない。そんな思いを馳せていると―
「…すまないと思っている。」
「…司令?」
作品名:Muv-Luv Cruelty Mermaids 1 作家名:Sepia