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水無瀬 綾乃
水無瀬 綾乃
novelistID. 2596
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振り向けば奴がいた

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今日はイギリスさんが訪ねてくる。

『別にお前に会いたいからじゃないからな!ついで、ついでだ。
 お前の様子を直に確認したい……だけ、なんだからな…』


言い訳がましく口籠る彼に、私は「はい。お待ちしております」と笑顔で答えた。
客を招くことは嫌いではない。
それがお慕いしている相手なら尚更。







振 り 向 け ば 奴 が い た
〜 日 本 ver 〜







「ニャァ」
「おや…」

彼を持て成す為にスーパーへ寄り、両手に買い物袋を持って自宅へ戻ると、
家を出た時にはいなかった猫が玄関前に居座っていた。

無駄な肉のない、野良猫にしては綺麗な顔立ちをしている。

「何故猫が……」

ギリシャさんが遊びに来たときは何匹か家に忍び込んでくることがあったが、今日は生憎いない。
猫もそれを察知しているのか彼が来ないときは全く顔を出さないのだ。

なのに……

珍しいこともあるものですね。
猫を横切り、玄関の鍵を開けて引き戸を開く。
荷物を置いて振り返ると、猫がこちらをジッと見つめていた。

「外は寒いでしょう。中に入りますか?」

そう尋ねるが、警戒しているのかジッとこちらを窺うだけ。
手を差し出して指を動かすと、少し腰を引いて逃げの大勢に入る。

やはり逃げられるか…と内心苦笑したが、予想外にも猫はおずおずと敷居を跨ぐ。
そして私の足元に身体を摺り寄せてきた。
甘えられて嬉しくない者はいないだろう。

動物が好きな私は不覚にも夕飯の支度を忘れてその場に座り込んでしまった。

猫はこちらの動作に摺り寄せていた身体を一瞬離したが、すぐに寄ってくる。
ぐるっと私の周囲を回り顔を見上げ鳴く。

「ニァ」
「ふふ、可愛いですね」

自然と口元が綻び、彼の喉を軽く掻く。
ゴロゴロと鳴る喉が一層私を和ませてくれた。


さっきの猫の仕草で、何故だかイギリスさんを思い出す。
猫はそんなつもりではなかっただろうが、彼特有のツンデレが浮かんだのだ。

顔には出さないけれど、実は彼のことをお慕いしている。
それは同盟を結んだ頃からの片思いだ。

告白なんてできるはずがない。
自分が奥手なことも原因だが、なにより彼にはアメリカさんがいるのだ。
とは言ってもイギリスさんから直に聞いたわけじゃない。

でも2人の接し方は兄弟のそれとはちょっと違うような気がするのだ。
あと、まぁ二次元的な刷り込みもある。
そして自分自身に自信が持てないのもあった。

「アーサー、さん……」

最初人名を伺った時は、紳士的な彼にしては不似合いな名だと思った。
私の知らない顔があるのだろう。




彼の前では呼ぶ勇気がなくて、猫に呼びかける形で呟く。
すると、返事なのかすぐに「ニャァ」という鳴き声が返ってくる。

「アーサーさん」
「ナァー」

ふと、考えが過る。
こういう時しか言えないのだ。
彼がいないうちに言っておこうか。

「ア、 アーサー……」
「ニャァゥ」

自分の中では呼び捨てなんてもっての外。
たぶん、今より親しい仲になったとしても呼び名は変わらないだろう。
だから、彼のいない今は好きなだけ呼ぶことにした。
どうやらこの子も名前が気に入ったらしい。

「いい子ですね。ミルクでも飲みますか?」

問いかけるとまた足に頭を擦りつけてくる。
欲しいという意味だろうか。
私は猫を抱き上げて玄関を閉めようと立ち上がった。

「すぐに用意しますからね、アーサー」

視線は猫に向けたまま玄関の取っ手に手を掛ける。
そのときだった。

ドサッ

何かが落ちる音がして顔を外に向ける。
すると、目の前にイギリスさんが口を開けて不自然に佇んでいた。
顔を真っ赤にし、荷物を地面に落したまま。

「あぁ、イギリスさん。いらっ……」

固まっている理由が分からなかったが、まずは先に歓迎するために口を開いた。
が、声が中途半端に止まる。

……あれ?

さっき、引き戸は閉めていませんでしたよね?
ずっと、開けっ放しで猫と話していた、はず。

まだ硬直して動かない彼をそのままに、私も考えに耽る。
さっきまで……目の前の方の名前(人名)を……連呼…




……………っ!!!!


き、聞かれた!!

「あ、あのっこれはですね!」

言い訳しようにも動転している頭では旨い案が出てこない。
イギリスさんは理由を待っているのかジッと私を見つめている。

あぁ………
沈黙が耐えられません。