Wizard//Magica Wish −10−
「ここか…」
「って、屋上じゃねぇか!!」
探索魔法を使いつつ、魔女の結界の場所を探り辿った先はマンションの屋上だった。このマンションは結構階が多いため、ここまで来るのに結構時間がかかった。手すりから下を見つめる…暗い為地面が全然見えなかった。
「っ…もうお出ましか、来るぞ、ハルト!」
「わかった。変身!」
「シャバドゥビタッチヘンシーン!『フレイム』プリーズ!『ヒーヒー!ヒーヒーヒー!!』」
ウィザード・フレイムスタイルに変身してウィザーソードガンを構える。すると同時に周りが魔女結界に囲まれ、俺たちの目の前に魔女が出現した。
−Gisela−
魔女の体を構成する物の中には自転車かバイクの部品のようなものがチラッと見える。その黒い大きな体から手のような物体が生えていた。その二つの手を使いながらゆっくりと前進している。
「遅っ…なんだ、楽勝じゃないか!」
杏子ちゃんは槍を構え一気に魔女との距離を詰める。それに気付いた魔女は大きな手を上に持ち上げ、そのまま地面へと振り下ろした!
「うぉ、危ねっ!」
「どんくさい分、力は凄いってやつか、なら!」
ウィザーソードガンをガンモードに変形させ何発か魔女に放つ。だが思った以上に体が硬いのか、全くダメージが通っている感じはしなかった。魔女は今度は俺に向かって大きな手を振り下ろす。確かに直撃すればひとたまりもない威力だが当たらなければどうということはなさそうだ。今度はソードモードに変形させ魔女の背後へと周りこんだ。
「はぁぁっ!」
「ナイスだハルト!たぁっ!!」
巨大な体に向かって大きくジャンプし、何度か魔女の体を切り刻む。魔女は一瞬ひるみ、その隙を杏子ちゃんが見逃さず魔女の体を上から右斜め下に斬り付けた。この攻撃が効いたのか魔女の体から血のような液体がぶわっと吹き出した。
「へへっ、次で最後だ!」
「フィナーレだ」
「キャモナスラッシュシェイクハンズ!キャモナスラッシュシェイクハンズ!」
俺たちは魔力を溜め始め、とどめの一撃を魔女に放つ寸前だった。だが、その直後…
「…っ…なんだ?」
「うわっ!!」
魔女の体が一気に破烈し、辺り一面黒い液体でいっぱいになる。すると、破烈した魔女の中から機械の音を鳴らしながら杏子ちゃんの方向へと猛スピードで走っていった!
「な、なんだ!?今の!!」
「あの音…バイク?」
大きな図体をしていた姿から一変し、自分達とそこまで身長が変わらず、鈍重に見えた体つきが一気にスマートに変貌した魔女が俺たちを襲ってきた。その姿はバイクそのものだ。バイクから生えた手はマフラーのような形へと変化し、足はまるで人間のものそっくりの形へと変化した。エンジンを蒸す音を鳴り響かせ、再び杏子ちゃんへと突っ込むようだ。
「杏子ちゃん!なんかそいつメチャクチャ早いよ!」
「わかってるけど…っ!!?」
瞬間、俺のウォータースタイル以上のスピードを出して杏子ちゃん目掛けて魔女が突っ込んできた!!
「ぐふっ!!は、はなせ!!」
魔女は両手で杏子ちゃんの両手を拘束し、バイクの前輪を高速回転させながらゆっくりと杏子ちゃんの身体へと近づいていく…やばい、あれはまずい!!
「ちょっと!や、やめっ…あ、ガアァぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「杏子ちゃん!くそっ」
「『ランド』プリーズ!『ドッドッドッ、ド・ド・ドン!ドッドッドッ、ドン!!』」
杏子ちゃんの抵抗は虚しく、高速回転された前輪のタイヤが杏子ちゃんの腹部に擦りつけられていた。鋭利な刃はないものの、高速の回転による摩擦が肌をえぐるように削っているのだろう。杏子ちゃんの腹部から次第に煙が上がり、痛々しい悲鳴が響いた。
「くそッ離れろ!!」
「うっぐぅ…かはっ…」
パワーが上がったランドスタイルで魔女に突っ込み何メートルか吹き飛ばす。杏子ちゃんは腹部を両手で押さえ込み大量の汗を流していた。魔法少女の姿に変身していれば多少のダメージは緩和されるのだが、ここまで苦しんでいるということは相当なものだということがわかる。
吹き飛ばされた魔女は再び立ち上がり、今度は俺に突撃してくるようだ。
「だったら止めてやる!」
「『ディフェンド』プリーズ!」
目の前に巨大な岩の壁を出現させる。だが、魔女はその壁をいとも簡単に破壊しスピードを殺さず突っ込んできた!
「ぐっ…くぅぅ…っ!!」
俺は必死にウィザーソードガンで防御をする。しかし魔女の力のほうが強いのか立っていた地面にヒビが入りそのまま俺は押されていく、このままではマンションから落ちてしまう。
「くっ、はぁっ!!」
一気に力を振り絞り、そのまま魔女をなぎ払った。魔女は綺麗に着地した。すると今度は両手がチェーンソーのような形に変化し、再びエンジンを蒸しはじめた。
「お…おいっハルト!避けろぉぉ!!」
「うぅ…っ!!」
ふと、目の前にいた魔女が俺の目の前から消えた。
気がついた時には既に俺の横をとおり過ぎていたらしい。
「あ…はっ…」
「ハル…ハルトぉぉぉ!!」
杏子ちゃんが血相を変えて俺に叫ぶ。
なんだ…何が起きた?
すると、自分の左手に違和感を覚える。
俺は左手をみた…。
「…っ…っ!!!!」
左手が無い。
血が一気に吹き出す。
地面に、なにか落ちている。
これはなんだ?
それは…切り落とされた俺の左手だった。
「っ…ぐっ…っっっ…!!!!」
あまりの激痛に声が出せない。
乾いた叫びが自然と喉から出る。
切断された部分を右手で掴み、腰を地に落としてしまった。
「ハルト!ハルト!!かはっ…はぁっ…」
杏子ちゃんが腹部を片手で押さえたまま俺の元に駆け寄り、空いた片方の手で槍を魔女に向ける。槍が安定せず震えさせている…きっと、彼女も相当なダメージが残っているんだろう。
再びエンジンの蒸す音が聞こえてくる…いや、逆に遠のいていく…。
やばい…意識を失いそうだ。
地面には俺の血で埋め尽くされている。
このままだと…本当に…。
「ハ…ト!!…お…ルト!!」
杏子ちゃんの声が途切れ途切れに聞こえる。
頭がぼぉ~っとしてきた。
血を流しすぎたみたいだ。
もうしゃがんでいることすら限界だ。
ごめん…杏子ちゃん…
俺、ここで…
「ハルト!!死んじゃダメ!!!!」
「はっ!!」
何が起こったのだろうか。
先程まで激痛しかなかった身体が一瞬で軽くなり、途切れかかっていた意識が元に戻る。
それは杏子ちゃんも同じみたいだ。
「なんだ…っ!傷が…無くなっている?」
「えっ!?…っ!」
俺は驚愕した。何故かって?
理由はわからない…だが、今はっきりとした俺の意識に間違いはない。
切断された左手が、元に戻っていたのだ!!
「迷っている暇は、無い!」
「チョーイイネ!『ティロフィナーレ』サイコー!!」
俺はこのチャンスを逃すことなく、巨大化したウィザーソードガンを魔女に向けて放った!魔女も突然のことで驚いていたのか、俺の攻撃は直撃し大爆発を起こした!爆風のあとにはグリーフシードが一つ出現し、俺と同じく傷を完治した杏子ちゃんがそれを回収した。
「なんだったんだ…今の」
作品名:Wizard//Magica Wish −10− 作家名:a-o-w