Wizard//Magica Wish −10−
急に辺り一面が暗くなる。停電か?いや違う。うっすらと俺の意識が失いかけたみたいだ。その瞬間に急激に眠気が押し寄せてきた。このまま目を閉じれば眠ってしまいそうだ。
次第に頭が屈伸を打つように力が抜ける。まだ布団の準備もできていないのにこのまま寝てしまうのは不味い。
「眠くても…布団ぐらい準備しないと…あ、駄目だ…」
睡眠欲に俺は負けてしまい、そのままソファの上で身体を横にしてしまった。一度閉じられた瞼はもう開くことはない。誰かに起こしてもらわないとこのまま朝まで寝てしまいそうだ。
「…う…うぅ……」
意識が遠のいていく。
頭の中はからっぽになり、身体の間隔が無くなっていくのがわかる。
そして俺は周りの音が一切聞こえなくなってしまい、完全に意識を失ってしまった。
・・・
・・
・
ここは…?
俺は、また悪夢を見る。今度は一体どんな悪夢だろうか。
どこかの町並み、ショッピングモールの屋外エリアに俺は立っている。俺の周りには家族連れやカップル等、色々な人が歩いている。なんてことのないありふれた日常の風景。
特に目的も無く歩き始める。横をとおりすぎる3人家族は和気あいあいと楽しそうな会話をしながらショッピングモールの中へと入っていった。
するとその時…
−…っ!!きゃぁぁぁぁぁ!!!!−
−なんだ!爆発したぞ!?−
え?
後ろから轟音が鳴り響き鋭い風が俺の身体を直撃する。何事かと後ろを振り向いた…ショッピングモールが爆発したのだ。美しくのどかな光景は一変し、人々は悲鳴をあげて逃げ惑う。
−ママぁ!パパぁぁ!−
あぁ…。
俺の目に先ほどの家族の姿が映った。いや、正確には家族だった姿だ…。子供の父と母は先ほどの爆発に巻き込まれたのか、地に這い蹲りながら倒れている。身体中のありとあらゆる骨が砕け散り、関節ではないところが折れ曲がっている。父親に至っては手足が吹き飛び、言葉で表現するにはあまりにも残酷すぎる姿へと変簿していた。娘は今だに突如目の前から消えた父と母の姿を探している。おそらく、娘のすぐ傍に倒れている二人がまさか自分の親とは気付いていないのだろう。
−パパぁ!!ママぁぁ!!!!−
…っ!そこにいちゃ危ない!逃げろ!!
娘の頭上にある大きな鉄コンクリートがぐらついていることに気が付いた俺は必死に叫びながら娘の元へと走る。いくら叫んでも全くこちらに気付いてくれない。そして、鉄コンクリートがついに重量に耐え切れず、ものすごいスピードで娘の頭上に落ちていく。俺は手を伸ばす。
届け…届けぇぇぇぇ!!!!
−ひっぐ…どこにいっちゃったのぉぉ!?パパぁ!!ま…−
っ!!
大きな轟音を立てて目の前にいた少女の姿が消えた。砂埃が舞い散り、俺の目の前に大きな鉄コンクリートの破変が現れた。
恐る恐る俺は後ずさりする…
うっ…
すると…コンクリートの下から
赤い液体が……
・
・・
・・・
「ハルト!おい、ハルト!!」
「…っ!!…はぁ…はぁ…」
「大丈夫かハルト…また、嫌な夢みたのか?」
寝汗をかきながら前髪をたくし上げる。乱れた息を整え、目の前にいる杏子ちゃんを見つめた。やはり、また悪夢を見ていたようだ。服を仰ぎ、汗を飛ばして俺はソファから立った。目の前には布団がひかれており、寝息をたてながら ゆまちゃんが熟睡していた。
「…っ…、あっつ…」
「ほら、水だ」
「ありがと、杏子ちゃん」
ペットボトルのキャップを開け、500mlの水を一気飲みする。乾いていた自分の身体の隅々に水分が行き渡り、自然と涼しくなった。
「ふぅ、生き返った…あれ、こんな深夜にどうしたの、杏子ちゃん」
「しっ…ゆま が起きちゃうだろ…それよりハルト…なにか感じないか?」
「なにって…何を?…まさか」
俺は右手に指輪を装着し、魔法を発動させた。
「『ソナー』プリーズ!」
魔力の探索魔法を発動させ、辺りに右手を振りかざす。すると自分達の頭上から強烈な魔力の波動を感じ取った。間違いない…このマンションの上の階に魔女がいるみたいだ。
「まさかこんなとこに現れるなんて…メデューサはいないみたいだな」
「ちっ、何も寝ている時に現れなくても良いのに…さて、ゆまを起こさないようにさっさと片付けるとするか」
「ゆまちゃん、置いてっちゃうの?」
「当たり前だろ、あたし達の戦いに巻き込むわけにはいかないだろ!」
「それもそうだね…」
ゆまちゃんを起こさないようにそっとリビングから退出し、俺たちは部屋の外に出る。ひんやりとした外の空気が眠気覚ましには丁度良いぐらいだった。
作品名:Wizard//Magica Wish −10− 作家名:a-o-w