そらとうみの手前のお話
この国では滅多に見ない見事な黄金をその身に纏う友人は、そびえ立つ山へ挑むように仁王立ちしていた。
海を見たことがないと言っていた。
彼の故郷は四方を他国に囲まれていたから海というものが存在しない国だった。
「そいつを越えたらすぐ向こうが海ダ。尾根が国境付近まで延々続いているから迂回は難しい。だが登って越えればほんの数日ダ。お前なら軽い山登り程度ダロウ。――行くカ?」
好奇心の塊な彼のことだから当然頷くものと思っていたら。
ふるふると首を横に振り金糸をひらめかせた。
「連れて行ってやるゾ?数日なら俺も猶予はアル」
そう押してみるけれども。
彼は一つ息をつくと踵を返してしまった。
「いいんだ」
その顔は晴れやかにすっきりとしていた。
だったら何のためにこんなとこまで来たんダ?
「一緒に行くって約束したから」
いつも威勢のいい友が柄にもなくはにかんだように呟くのを見てしまって、思わず殺意が芽生える。
ここにはいない黒髪の男に向けて。
「あいつが目的を果たしたら行くんだ」
「・・・・・・それは先の長い話ダナ。生きてるうちに行けないかもしれないじゃないカ」
つい意地の悪い言葉を返す。
でもエドは揺るがなかった。
「あいつは直に目的を果たすよ。それは決まった未来なんだ」
だから絶対いつか行くんだ。
確信を持ってそう言う友に、どうやらはるばると当てられるために来たということのようだと理解せざるを得なかった。
次期皇帝である自分をこんな僻地まで来させておいて・・・なんてことは彼にとって何の拘りもないことだろう。ばからしい。
「じゃあ今度はいかした車ででも来るんだナ」
「うん?」
「その頃には海側までトンネルが開通してるダロウ。俺が実現させる予定だから近い将来ダ。だから車の運転ができる奴とでも来るんだナ」
腹いせ半分、からかい半分のつもりで言ってやったのに。
「おう!楽しみにしてるぜ!」
満面の笑みを返されてしまったらもう苦笑するしかなくて。
太陽にも負けない自分にはない光を持つ青年を見て、遠くにあってもその顔に笑顔を灯せるただ一人の男を心底羨ましく思い、心から友に幸せであれと願った。
作品名:そらとうみの手前のお話 作家名:はろ☆どき