serenade
# When they started their journey.
「…無理があると思うけど」
馬鹿げてるとか、そういうことを言おうとも思ったのだが、ぐっと堪えてそれくらいに留めたのはアルフォンスの努力の賜物である。しかし、エドワードにはそんな努力通じるはずもない。
「元々女っぽくもないし。いいか、アル。おまえには元々兄貴がいたんだって思えよ」
な、と念を押してくる小さな体には、体格に見合わない気迫があって、…しかし、そう簡単に頷ける内容ではなかった。
「…でもやっぱり無茶だと思うんだけど」
「なんでだよ」
鎧の体では頭痛も感じようがないが、それでも頭を抱えてしまいたくなった。なんでもなにもないではないか。
「…だってさ。ちょっと考えてもみてよ。男のふりして生活していくとか、ありえなくない?! 映画とか小説じゃないんだよ?! トイレとかお風呂とかどうする気なのさ!」
思い切り反論すれば、む、とエドワードは腕組みして眉をしかめた。
「まあ確かにいつも個室使って、あいついつも外でうん…」
「そういうことを言ってるんじゃないでしょ! ていうかうんことかいわないの! 女の子なんだから!」
「まだ言ってねーじゃん」
「言うつもりだっただろ…!」
「んだよ。気にしすぎなんじゃねーの? 大体男と女の違いなんて、上についてるか下についてるかの違いだろ? それくらい知ってるっつのばーか!」
いーっ、と舌を出す子供っぽい姉にどうやって言い聞かせればいいのかもうアルフォンスにはさっぱりわからなかった。誰か助けて、とその時ほど切実に思ったことはなかったのではないだろうか。
…しかしそれでもまだ、まさか軍人たちが騙されはしないだろうという甘い希望を持っていた。きっといくらなんでも何とかしてくれるだろう、と。
だが、発育に乏しい子供など、男だろうが女だろうが大した違いはなかったらしい。おまけに普段から暴れまわるし身の回りに頓着しないしとあっては、少年だと思い込まれて当然だった。
姉の貞操の心配をしなければならないなんて、そんな事態泣けてくる。何が悲しくて、だ。
もっとも、エドワードはエドワードなりに、女であるとわかるよりはその方が旅をしていく上でやりやすい、と思ったようなのだが、男だったら口をすっぱくして言われている「女らしくしなさい」というのを言われないですむ、くらいの気持ちしかないのではないか、とアルフォンスは疑っている。
とにかく、誰にも怪しまれないまま(ホークアイ中尉などはもしかしたら見抜いている可能性もなくはないが)とうとうエドワードの国家錬金術師暦も三年が過ぎようとしていた。