銀の刻のコロナ―ホワイトデー一週間前の統果―
何をあげれば喜ぶのかが全く分からない。広川やコロナに赤、そして刻乃さんは何をあげてもそれなりに喜びそうだけど。個人個人にはわかるものはあるが、いかんせん貰った人数が多い分それも大変だ。
ふっ、これがモテモテな奴の悩みか。今までぼっちに近い男には非常につらいぜ。なまじ、1人のころが長いせいで本当にわからない。ホワイドデーまであと1週間か。
こう頭を悩ませながら龍護寺に帰ったところ声をかけられた。
「よう、久しぶりだな。しっかし、相変わらずシケた面してるなー。お金が逃げていくぞー」
「久しぶり。って、いつからここに居たんだ七枝美」
さっきまで人を小馬鹿にしたような顔が、急に苛立たしげにゆがむ。
「うわっ! ひでえー。いくらゲーム本編での出番少なく、FDでは一切出ていないからってよ」
どうやら触れてはいけない部分だったようで、土下座をさせられた。話題を変えるべく、話しかけてきた理由を聞く。
「へへへっ、あっちの感がこう告げているのさ。儲けのにおいがするぜー、ってな。なにか悩んでるんだろ? 相談にのるぜぇ」
こう見えて承認だし、相談してみることにした。
「というわけで、ホワイトデーのお返しについて悩んでいるんだが、なにかいいものはないか?」
バカにするなよと、いいたげな表情で見つめてくる。
「へっへっへ、あんさん忘れちまったかい? あっしは食料から武器弾薬までなんでも調達するをモットーにしていることを。そんなもん、お茶の子さいさいさ。ただ」
俺は彼女が救世主に見えた気がした。
「ただ、それにはあまりにも膨大なお金が必要になる。それでもいいか? そしたら、あっしが腕によりをかけて選んでやるよ」
「ほっ、本当か!」
だからつい、条件反射で言ってしまったのだろう。言った途端に、彼女の表情が悪魔のように変わる。その表情はある漫画で読んだ守銭奴に似ていた。本能が警鐘をならす。その漫画の主人公は、あることで借金を抱えてしまい、返済するために命がけのギャンブルをすることになるものだ。
そして、ある弓那の話を思い出した。確か星徒会大戦で優勝した後の祝勝会の話を。気が付いたら8桁の負債をかかえていたことを。そして、冗談半分で「八枝美」というそっくりさんに地下施設に連れていかれかけたことを。じょ、冗談じゃない。
「いや、やっぱりいい。お返しはこっちで考える」
ものすごく恨みがましそうに「ちぇー」と呟いた。しかし、これまでの話、そして龍護寺への運んできたものを見ると、七枝美に調達できるものはないのだろう。だとすると、これはチャンスでもある。
何かないかと探したところ、ある食べ物が思い浮かんだ。よし、白い部分もあるし、皆が喜んでくれるはずだ。七枝美に少し待っててくれといい、自分の部屋に向かい、お金を確認する。
よし、これならいけるはずだ。
「七枝美。ここにある分で、クリームケーキを買ってきてくれないか。それも皆が驚くぐらいのでっかい奴だ」
彼女が俺が出した金額から、うんうんと唸っている。算段を出しているのだろう。
「よーし、この金額で大丈夫だぜぇ。ホワイトデー当日にサプライズでッ持ってくるからよ。楽しみに待っててな」
こうして、俺の初めてのお返しが決まった。皆、喜んでくれるといい。そう思いながら。
作品名:銀の刻のコロナ―ホワイトデー一週間前の統果― 作家名:門之倉 樟