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【腐女子向】毎日の話【蛮銀】

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「お誕生日、クリスマス、お正月、えーっと…あ、バレンタインとホワイトデー!」
あとは何があるかなあ?
金色の髪を短く刈った後は伸びるままにほったらかしたいかにも容姿に無頓着です、といった出で立ちの青年が指折り思いつく限りのイベント事を挙げている。
それを隣で面倒くさそうに聞いているのは長めの黒髪をさぞ時間をかけてセットしたであろうと思わせる程見事に四方に立てた青年だ。
「お前ぇになら子供の日も似合うんじゃねぇの?」
黒髪の青年が、吸っていたマルボロの煙を吹きながら金髪の青年へと面倒くさそうに提案したが、煙でむせながらも金髪の青年はきっぱり否定した。
「似合う似合わないの話じゃないかんね、蛮ちゃん!」
「蛮ちゃん」と呼ばれた青年はヘイヘイと右から左といった様子で頓着しない。
「もー、蛮ちゃんはどうしてそうなの!」
「お前ぇこそどうしてそうなんだよ」
かなり機嫌を損ねている金髪の青年の剣幕を軽くかわして「蛮ちゃん」は言葉を続けた。
「だいたいなぁ、ホワイトデーはダメだろ、お返しの日だぞ?そっからバレンタインだってもらったが最後、つまりお返しをしなきゃなんねぇんだ、ただのブルーデーじゃねーか」
ちっとも特別な日でも素敵な日でも無ぇ。
フンと彼はそのまま吸っていたマルボロを灰皿に押し付け、横目で金髪の青年を見やるが、金髪の青年はその言葉を受けても先ほどの不機嫌から転じて逆にニヤニヤとした笑みを浮かべるばかりだ。
「バカだなぁ、蛮ちゃんは」
得意げに反論する金髪の青年に「蛮ちゃん」はあぁ?とやや剣呑な声と顔で答えるが、青年は全く動じない。
「バレンタインはお礼を要求する日じゃないし、ホワイトデーはそれに答える日でも無いよ。好きですっていう日とありがとうっていう日なんだから」
「バカはお前ぇだそんな日に設定してんのは日本だけなんだぞ、いいか、バレンタインだって間違ってるしクリスマスだって外国じゃ…」
「俺たちはそんな日に設定してる国にいるんだから、別に問題無いじゃない。どうして蛮ちゃんはいっつもそうやって外国外国っていうの?」
「あん?」
「外国がそんなに好きなの?」
「はあ?」
金髪の青年の大きなややたれ目がちな瞳がまっすぐに「蛮ちゃん」に向けられる。
その瞳に気圧されたか「蛮ちゃん」はそれまでの徹底してバカにしているかのような態度から、苦い顔で顔をそらすというやや逃げの姿勢になった。
「なんでそーなんだよ、いいか俺はだなあ、間違った過ごし方をしているから間違っていると言っている…そう、あえて言うなら俺は恐れず過ちを過ちだと言う勇者!純粋な心を利用して暴利を貪る奴らに一矢報いんと立ち上がり…」
「でも蛮ちゃん、そこまで間違ってる人達を思って言ってないじゃん」
「…」
「単に興味無いから乗っかるのが面倒でバカにしてるだけでしょ」
「…」
まったく図星をつかれたらしい「蛮ちゃん」はせっかくの整った顔立ちを見事に怒りで歪めながら握りしめたこぶしを金髪の青年の上に落した。渾身の力でもって。
「いったああぁあいっ!!!」
痛みで大きな瞳からこぼれる涙をぬぐいもせずに、殴られた青年は食って掛かる。
「何すんのさ!?俺絶対間違ってないよね!?」
「だからってハイ大正解!つってご褒美もらえるような事言ったとでも思ってんのか!?雉も鳴かずば撃たれまいって言葉覚えておけ!!!」
「キーも中には回らないってなに!?」
「俺が聞きてぇよ!?どうやったらそんな聞き間違いになるんだ!?」
「信じらんない!」
「俺のセリフだ!!」
しばらく喧々囂々と二人は言葉と手でお互へと反論反撃の応酬を続けていたが、どちらともなく途中で自分たちが全く意味の無い事をしていると気が付いたようで大人しくなった。
「やめよう…何やってんだ俺達ァ…。つーかそもそもなんでこんな事になったんだ?」
「うん…ええっと、そう、俺が特別な日ってどんな日があるかなって」
「ああ、そういやそうだったか」
「蛮ちゃん」は着ているジャケットの胸ポケットからマルボロとジッポを取り出すとおもむろに火をつけて吸い出した。
彼は気持ちを切り替えたいときに、煙草を吸う癖がある。
「特別な日って毎日無くて寂しいよね、だっけか?」
「そう、せっかく特別なんだから毎日あってもいいのに」
きっと楽しいよ、とさっきまでの喧嘩の勢いはどこへやったのか、満面の笑顔を「蛮ちゃん」に向けるが当の「蛮ちゃん」はうんざりした顔を隠しもしない。
「絶対ぇダリィ…」
「えー、そうかなー」
「大体な、お前は物を知らなさすぎんだよ、いいか?特別ってのは毎日あったらダメなんだよ。毎日特別だったら特別が普通になっちまうじゃねーか」
「蛮ちゃんこそまたそうやって適当な事を言ってー」
絶対に一本取ってやったという自信があっただろう「蛮ちゃん」は全く自分の言葉が相手にとって何のダメージにもなってないらしいことに動揺したのか、吸っている煙草の灰を灰皿に落し損ねて足元を汚す。
「ちょっと蛮ちゃん!?」
それを見て金髪の青年の方が慌てたように椅子から立ち上がったが、「蛮ちゃん」が悪ぃと軽く言いながら足で払うのを呆れたように見て椅子に座りなおした。
「もー危ないなあ」
「うるせぇな、大体俺ぁ適当な事なんざ言って無ぇぞ?一般論だ一般論」
「俺そんなイッパンロンさんなんて知らないもん」
「俺だってそんな奴ぁ知ら無ぇよ…」
脱力する「蛮ちゃん」に構わずに
「特別は特別だから特別なんだよ!毎日特別だって特別は特別なの!ただ素敵な日がたくさんあって素敵が続くんだよ!」
子供のような顔で子供のような理屈を説く金髪の青年を「蛮ちゃん」は少し眩しげに見た。
「だからなぁ、そういう事じゃなくて…」
「じゃあ蛮ちゃんは特別な人と毎日会ったらその人は特別な人じゃなくなるの?」
「あ?」
「特別な人と会えたらそれだけで特別な日だよ。特別な人と過ごせたらそれだけで特別な時間だよ、それが毎日続いたら、もう蛮ちゃんにはなんでもない人になるの?なんでもない時間になるの?」
金髪の青年はひまわりを思わせる明るい瞳を微笑ませて「蛮ちゃん」を見る。
「…知ってるか…」
「なあに?」
「お前ぇのそれはあげ足取りっつーんだよ!」
だが「蛮ちゃん」がその瞳に虚をつかれたのは一瞬だった。すぐさま気を取り直すとまたこぶしを振り上げ声を荒げた。
一連の動作はどう見ても何をするつもりかよくわかる動きで、青年も避ければいいものを思いつかないのかバカ正直に受ける態勢で目をつぶって待ち受ける。
しかしこぶしは一向に青年の頭に落ちてこない。
いぶかしんだ青年が恐る恐る目を開けるとそこには椅子から降りて立っている随分と不機嫌そうな顔をした「蛮ちゃん」が、振り上げたこぶしを青年の頭には降ろさずに目の前で広げていた。
「…?」
なんだろうと「蛮ちゃん」の意図がつかめない青年は困惑した顔で「蛮ちゃん」を見つめる。
「毎日特別、がいいんだろう?」
「うん?」
「でもそれが続かなくて寂しい」
「うん」
「そんならよ、俺達で毎日特別を作りゃいいじゃねーか」
「!」
「とりあえず今日は手を繋いで帰るデーだ」
「!!」