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【腐】伝えたい言葉【西ロマ】

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 酔いが回りおかしな思考は怒りへと変わっていく。今日あまり会えなかったことに怒り、気を使ってヴェネチアーノを優先するよう言ったら同意されたことに怒り、彼の中で自分の位置の低さに怒る。
 会いたい気持ちがどんどん酒を進ませ、朝日と共にスペインは自宅を出た。ワインをたらふく飲んだせいでふらふらとした足取りのまま、イタリアへ急ぐ。
「ロマーノの鈍感!」
 自分が欲しいのは親分という特別じゃない。片割れの弟を押しのけ、彼の一番になりたいのだ。
「……説教したる」
 他の奴に自分と同じようなことを許していたらと思うと、嫉妬で焼け死にそうだ。ここはきっちり話すべきだろうと思考のタガを外し、スペインは本人だけがしっかりと思っている足取りで兄弟の家に辿りついた。

 物凄くいい夢を見たという弟の頭を乱暴に撫で、ベッドを下りる。少し早いが朝食の準備をしようと部屋を出れば、朝っぱらから来客を告げるベルが鳴った。
 こんな時間に一体どこのアホだ。イライラする気分の中、ドアを乱暴に開ける。そこには明らかに泥酔したスペインが凄い顔で立っていた。
 夢であってくれ。そう思い、ドアを閉める。だが直ぐに酔っぱらいにより開けられてしまい、家の中に入り込まれた。
「ロマーノおおおお!」
「ななな、何だよコノヤロー!」
 一度締め出したのがショックだったのか、半泣きのスペインが抱きついてくる。泥酔した親分様はこちらの気持ちお構いなしにベタベタしてくるので、苦しい片思い中のこちらとしては一番会いたくない存在だった。
 予想通り、ぎゅうぎゅうと鼻の曲がる程の酒臭さを撒き散らしながらハグをしてくる。これが恋人同士のハグだったらいいのになと現実逃避をしていると、着替えたヴェネチアーノが二階から降りてきた。
「チャオ、スペイン兄ちゃ~ん。朝からどうしたの?」
「おーらぁ。ただのロマーノ補充やで」
「あはは。……兄ちゃん、朝食俺が作るよ」
 にこにことした顔で「この酔っ払い面倒だからさっさと部屋に突っ込め」と言わんばかりに親指を二階に突き上げている弟が怖い。
 いい夢を見て精神的に成長したのか強気なヴェネチアーノに震え、ロマーノは仕方なく自室に酔っ払いを寝かせることにした。
「昨日、かっこつけて『兄弟仲良く~』って言ってたのに何だよこのザマは」
「ロマの前でかっこつけたかったんやもん! 」
 泥酔した男はだだをこねる子供のようだ。自分で泊まりを拒否したくせに、こうして朝早く突撃してくるとは。
 今日は厄日か。夢で疲れた上、酔っぱらいの世話をさせられるなんて。そう肩を落とすロマーノに、ベッドの上でごろごろとしているスペインから驚愕の言葉をかけられた。
「俺なー、俺なー。昔の夢みてん。ロマがオーストリアに自分を売れって言った日のこと」
「……は?」
 何でこの男が自分の夢のことを知っているのか。頭が真っ白になり、反応が遅れてしまう。その隙をつき腕を引かれ、ロマーノは横になったスペインの上に倒れ込んだ。
「お前言うたよな、自分を大切にしろって」
 スペインの大きな手が、ロマーノの頬をゆっくりと撫でる。酔っ払っている筈の緑の瞳は真っ直ぐにこちらを見ており、視線をそらせない。
「俺は俺よりお前の方が大切なんよ。あん時、お前が自分より俺を大切にしてくれたように。……今もそう。今も俺はお前を手放す気、無いで」
 まさか、本当に過去に行っていたのか。自分の覚えている過去と違う過去、だが確かに先程見ていた過去を語るスペインは嘘を言っているように見えない。
 そして何より凄いことを言われている。これが親分子分の関係でなければ愛の告白だなと内心吹き出せば、それを読んだかのようなタイミングで抱きしめられ叫ばれた。
「だから……兄弟でも妬くんじゃボケ!」
 そして、酒の匂いのキス。荒々しいそれを何とか受け止めると、当の本人はいびきをかきはじめた。恐ろしい程のマイペースに、唖然とするしかない。
「ここで寝るのかよ! 空気読めよ!」
 一応突っ込んでみるものの、男はまるで起きない。放してくれない腕の中を静かに堪能しつつ、ロマーノは嵐のような出来事を整理した。
 どうやら過去には行けていたようで、伝えたかった言葉は言えていたらしい。そしてそれが二人の関係を変えている。
「妬くって何だよ……」
 信じられないとつぶやき、指で己の唇に触れる。この行為の意味、言葉の意味。相手は酔っぱらいなのだから冷静になれと思うものの、希望がぐんぐん芽生えていた。
「早く起きろよ、ちくしょうめ」
 口は文句を言うが、顔は今朝目覚めたヴェネチアーノのような泣き笑いになっていく。悩みが一気に二つも消え、全身からふにゃりと力が抜けた。
 部屋の中に漂っていた微かな花の香りは、開けられた窓から静かに去っていく。残り香と酒の匂いを胸いっぱい吸い込み、ロマーノはスペインにしっかりと抱きつくと目を閉じた。
(伝えたい言葉はまだあるんだからな)
 起きたら覚えてろ。そんな気持ちでロマーノは笑う。朝日は同じ気持ちを抱く二人の夢路を、ただ静かに見送っていた。


END