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【腐】伝えたい言葉【西ロマ】

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 逆効果やで、残念やったな。涙声で笑う言葉がロマーノの耳に響く。予想外の反応に、ロマーノは狼狽した。これでは何のためにここに来たのか分からない。
 スペインの背中を叩き、怒るが彼にはまったく伝わらない。その日一緒に眠るまで何度も手放すよう言うが、彼はにこにこと嬉しそうに笑うだけだった。


「……最悪」
 ベッドの中で小さい自分が眠りにつくと同時に覚醒する。
 戻って来たのか、夢だったのか。視線を隣に動かせば、ヴェネチアーノが泣きながら笑みを浮かべていた。どうやら彼は成功したらしい。
(スペインのあほちくしょうめ!)
 今も昔も鈍感な男だ。あれだけストレートにメリットを話したのに、まったく意に介さなかった男に溜息が出る。結局自分は彼の中で守るべき『子分』とインプットされているのだろう。
(……特別っちゃー、特別なんだろうけど)
 数多い子分の中でも、自分は特に大切にされていると思う。それは今もそうで、彼と会う機会は隣人であるフランスと同等程はある筈だ。
 だが、自分の欲しい特別はそれではない。
 幼い頃からの淡い恋が愛に変わっても、ロマーノはスペインに告げられなかった。独立しても彼の態度は変わらず、今もマンマのようにこちらを心配している。こんな状況では、伝えてもいつもの笑顔で流されるだけだろう。
 告げられないのなら、せめて彼の役に立ちたい。そんなささやかな願いは、ついさっき夢の中で打ち砕かれた。
(俺じゃあ無理なんだな……)
 このままスペインの愛玩動物でいるしかないのか。対等な立場になれず、想いを封印し続けるしかない現状を改めて思い知らされた気がした。
 今日だって傍に居たかったのに、スペインは「兄弟で仲良くな」と帰ってしまった。まるで意識されていない姿に、泣いてしまったのは仕方ないだろう。
 ……別の人を好きになれればいいのに。
 できもしないことを考え、また溜息をつく。せっかくの記念式典の区切りでも変わらぬ自分の現状から目を逸らし、ロマーノは弟を抱きしめ眠りについた。
(くっそ、夢の中に乱入してやるー!)
 勿論そんなことは出来る筈もなく。次の日の朝、ロマーノは陰鬱な気分でやり遂げた顔で起きる弟の頬をつねることになった。


 懐かしい夢を見た。可愛い子分の式典を終え、兄弟水入らずがいいだろうと帰った自国。ちょっとだけ寂しい気持ちが現れたのか、スペインは夢で過去の記憶を見た。
 自分にとってのターニングポイント。自分の中で、ロマーノへの見方が、気持ちがガラッと変わったあの日の夢を。
『お願いだ、エスパーニャ』
 ふだんだらりとしている子分の真剣な瞳。まるで別人のような顔つきに驚いている間に、彼は驚愕の言葉を告げた。
 まず頭に浮かんだのは、この子の耳に入れないよう気をつけていた事が彼に伝わってしまったことへの怒り。次に、怖がりの彼が自らを手放すよう告げたという驚き。
 最後に浮かんだのは、気が狂いそうな程の喜びだった。
 素直だが口悪く、物事を斜めに見ているような子供の成長を見せつけられたようだ。
 更にはその内容が、己を犠牲にしてでもこちらを救おうとする提案。好かれているだろうとは薄々考えていたが、こうもハッキリ言い切られると涙腺が一気に崩壊してしまう。
 怖がりなロマーノの前では頼りがいのある笑顔の親分で居たいと思っているのに、どうしても涙が止められなかった。
「……あかんよ、ロマ。そんなん言うたらアカン」
 滲んだベールの向こうで、ロマーノが目を見開いている。かっこいい親分のイメージを壊してしまったことを残念に思うが、嬉し泣きを止められない。
 自分がどんなに凄いことを言ったのか、気づいているのかいないのか。それは逆効果だと告げるが、彼は何度も己をオーストリアに売るよう熱心に話し続けた。
(出来る訳ないやろ)
 子分は何人も居た。でも、その中でスペインの為に自分を犠牲にしてもいいと言った者はロマーノだけ。
 ……まるで愛の告白のようだ。
 崇高な自己犠牲心。それと同時に、強い愛情を感じる。
 大切に守り続け愛情を注いだ子から返される想いに、スペインの心は歓喜を叫んでいた。
 ロマーノがこんなにハッキリと自分への想いを口にしてくれたことがあっただろうか。今まで酷い言葉ばかりだったのに、心の中では慕ってくれていただなんて。
(かんわえええええええ!)
 ロマーノの提案のお陰で、戦い続ける気力が湧いた。本人は不本意だろうが、彼の言葉がスペインの背中を押したのだ。
 その日は寝るまで説得という名の告白が続き、スペインを喜ばせてくれた。
 呆れたのか次の日からは元に戻ってしまったが、スペインの心は変わったまま。与えるだけだと思っていた関係は、与え与えられる関係へとなっていたのだと知る。
(いつの間にか大きくなったんやね……)
 今も続く二人の関係。独立してもなお、彼は傍に居てくれている。お願いすれば少し無理をしても会いに来てくれる彼があの日の姿に重なり、まだ愛されているのだとスペインを喜ばせた。
「あー、アカン!」
 ベッドの上をごろごろと転がる。懐かしい夢のせいで、会いたい気持ちがぶり返してしまった。
 会いたい、会いたい、会いたい。
 罵られてもいいから声が聞きたい。
「ロマは天使で悪魔やで……」
 あの日、スペインの心を救った可愛い天使。
 あの日、スペインの心を奪った小悪魔。
 こちらはもう彼しか見えない状態なのに、ロマーノの態度はつれないものだ。それでも自分にだけは多少譲歩してくれることもあり、密かな優越感がある。
(駆け引き上手なイタリア男め~!)
 風邪をひいたと伝えれば冷たく「あっそ」とあしらうくせに、その日の夜には看病に来てくれる。彼とのやりとりは、押し引きが絶妙なゲームのようだ。
 いけると思ったら逃げられ、ダメかと引いたら傍に寄られる。ちらちらと見える希望が願いの成就を諦めさせず、スペインを恋の奴隷にしていた。
「まだまだなんかなぁ」
 大きく溜息を一つ。親分という名目が無ければ切れてしまう関係だったらどうしよう。新たな関係に進みたいのに、失う恐怖が踏み出す足に絡みつく。
 結果いつものように彼を心配し、子供扱いするなと怒られる日々を過ごしている。親のような顔で本当は何を考えているのか言ってしまいたい気もするが、それは出来ない。
「大体、普通気付くやろ!」
 いい年をした男に、何でこんなに会っているのか。一緒に眠り、手を繋ごうとするのか。昔の延長という言い訳を、本当にロマーノが信じているとしたら最悪だ。こんなこと他の奴にする訳ないのに。
 ……長く一緒に居すぎて、告白するタイミングが全然無い。
(こんなん止めて、他のヤツを好きになれればええのに)
 できもしないことを考え、また溜息をつく。
 もう飲むしかないとワインを開け、グラスを何度もあおった。あの日からスペインの目にはロマーノしか映らない。
 なのに、当の本人はどうだろう。
(ずるい)
 男ならきちんと責任をとるべきだ。