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にぎやかな休日

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「はーい、負けー」
 右手に持ったカードをわざとらしくふるふるっと揺らして虎徹はにやにや笑った。小汚く見えるのは昨日の夜から剃っていない無精ひげのせいだ。
 バーナビーの手元にはカードが1枚。そこにはピンクの可愛らしいウサギの顔が描いてあるがいまやそれが憎らしい。
 二人は何度もインターバルをおきながらトランプに興じていた。
 ババ抜き、七並べ、神経衰弱。ババ抜きにはじまり、今またババ抜きをしている。それも連続10回。そして連続10回、バーナビーは見事に負けていた。
 最初からババを持っているなら連続負けもあるだろうがそうでもない。ババがなくとも相手からババを引く。そして、相手はババを引かない。
「バニー、11連〜敗〜」
 嬉しそうに言うおじさんがムカつく。トランプごときで得意気に鼻の穴を膨らませるな、子供か。なによりバニーって言うな。腹が立つ。
 ひとつムカつくといくらでもムカつけるのはたぶん根本的に気が合わないせいだ。
「お前、マジ弱ぇーなぁ」
 感心したような口調にカチンときたときには言い返していた。
「すみませんね、つまらない相手で」
 持っていたカードをテーブルに投げ出し、バーナビーはぷいっと横を向いた。このおじさんにはどうしてもムカムカした気持ちを抑えきれずに癇癪を起した子供のような態度をとってしまう。無理をせずとも日常的に感情は表に出ないはずなのにすぐに頭に血が上る。だからこんな態度にさせるほうが悪い、俺は何も悪くないと一方的に責任を押し付けて溜飲を下げた。なのに。
「つまらなくないぞー。お前の弱さは俺の優越感を満たす」
 ウヒヒヒヒと下品な笑い声が引き金になって、あっと言う間に沸点を超える。
「あなたねぇっ、俺はトランプなんて嫌いなんだ。それを無理やりやらせといて、その言い草か」
「うんうん、ババ抜きさえ知らなかったもんな、お前」
「興味ないんですよ!」
「お前は興味なし人間か。もっと部屋を飾れ」
 虎徹は部屋を見回して言った。バーナビーの部屋はマンションの高層階にあり、リビングの大きな窓からは素晴らしい夜景が臨める。今もキラキラと輝く灯りはため息がでるほど綺麗だが、いかんせんガランとした室内はスタイリッシュを通り越してモデルルームより殺風景で寒々しい。
「部屋は関係ないでしょう」
「関係大ありだ。こんな殺伐とした部屋に住んでるからお前はトランプが弱いんだ」
「はあ? 意味がわかりません」
「うん、俺もわかんね」
 ケロッとした顔で虎徹は言って、へへっと笑った。
 はぁーっとバーナビーは大きくため息をついた。相手に気付かれないようになどとという気遣いはこのおじさんに限っては無用だ。百万光年の向こうに捨ててきた。反対にこれみよがしにしてやってもお釣りがくる。
「もう帰ったらどうですか。9時ですよ」
 こうやって、バーナビーは何度も帰宅を促しているのだが、虎徹はまったく帰る様子を見せない。なに考えてんだ、このおっさん。
 体調管理も仕事のうちだと無理に取らされる月2回の連休はバーナビーにとって嬉しいものではない。特に趣味もないから時間を持て余す。暇があるといらないことまで考える。
 不本意ながらコンビを組んでいるからおじさんも同じタイミングで休みだが、ヒーローに休みはないなどという舌の根も乾かないうちから、完全週休二日は夢のまた夢かと愚痴っている。
 休日さえ規則正しい生活から抜け出せないバーナビーは今朝もきっかり6時に目が覚めた。世間並に惰眠を貪ろうと二度寝を決め込んだが、結局10分後には起き上がっていた。どんなに疲れていても二度寝はできない。虎徹のように「寝溜め」と称するほど爆睡もできず、だるい身体に疲れは溜まる一方だった。
 適当に朝食を済まし、天気が良いので洗濯をした。最近、洗濯が好きだということに気付いたが、洗濯は洗濯機がやってくれるので正確には干すのが好きだ。特にシーツを干すのは気分がいい。皺を伸ばすために左右に勢い良く引っ張ったときに鳴るパンッという音を聞くと爽快な気分になる。
 午前中はたまっていた報告書を片付けて、やれやれと思っていたところにピンポーンとのん気なインターホンの音がした。時計を見るともう12時前だった。どうせ部屋を訪ねてくるのは宗教か押し売りか、なんにしろ迷惑者だけだ。
 玄関はマンション住人がロックを解かない限り開くことはなく、併設された守衛室で不審者は人と監視カメラを使って24時間チェックされている。セキュリティは万全とはいかなくともかなり高レベルだ。
 バーナビーは居留守を使うことにして、ミネラルウォーターを取り出すため冷蔵庫を開けた。
「ピンポーン」
 昼は何を食べようかとぼんやり考えながらグラスに水をついで飲んだ。パスタはゆでるのが面倒だし、パンは切らしている。冷凍食品はないしカップラーメンもない。基本的に料理は好きではないから、ついつい適当になる。
「何もない、か」
 外に食べに出れば誰かに声をかけられる。それら全部をひっくるめて覚悟の上での素顔さらしだったけれども面倒くさいことに変わりはない。特に疲れているときは気持ちに余裕がなくて、表に出すことはないがちょっとしたことでイライラする。
「ピンポーン、ピンポーン」
 今日の訪問者はなかなかねばる。次はどこの部屋番号を押すんだろう。誰か相手するんだろうか。なんにしてもご苦労なことだ。
「ピンポンピンポンピンポンピンポンピピピピピピピンポーン」
 部屋にけたたましく響いたインターホンの音にバーナビーは飛び上がった。
「なっ・・・・・・」
 壊れたのか? インターホンが? というより、いたずらか?
「ピンッポンッ」
 まるで「いい加減に出んか、コラ」とでも言っていそうな憤慨した音に聞こえるのはなぜなのか。機械のくせして。
「守衛はどーなってんだ」
 最後の「ピンッポンッ」でだいたいを察したバーナビーはムカムカしながらインターホン画面をオンにすると同時に短く言った。
「うるさい」
「なぁーんだ、やっぱいるんじゃん」
 不自然なまでに画面いっぱいに顔を近づけた虎徹がニヤリと笑っていた。
「・・・・・・何か」
 喉の奥で唸りそうになったのを止め、冷静に冷静に、と言い聞かせながら無理やり平静さを取り繕えば、画面の向こうでおじさんが無駄に明るい声で言った。
「鏑木ーズピザでぇす。超ウマウマピザをお持ちしました。一緒に食おうぜー」
「頼んでません」
「照れんな、照れんな」
「はあ? バカじゃないですか。それに昼はもう食べました」
 もちろん嘘だったがそうでも言わないと追い返せない。
「おーい、バニー。嘘を言ってはいかん。泥棒の始まりだぞ」
「いーえ、食べました」
 昼くらい一緒に食べるのは我慢できるが、ここで追い返さないと午後が丸々つぶれることは容易に想像できる。何が楽しいのか、ああだこうだと屁理屈をつけて部屋に居座るのが虎徹の常套手段だった。
「わかった、わかった。それじゃ、俺が食うから入れてくれ」
「嫌です」
「わざわざ相棒が訪ねて来たんだぞ、茶の一杯くらいくれ」
「嫌です」
「お前なー、ちったぁ年上を敬え」
「そういうこと言うから年上は嫌なんですよ」
作品名:にぎやかな休日 作家名:かける