にぎやかな休日
「はぁ?! もう勘弁してくださいよ。明日でいいでしょ」
がっくりと力を抜いて仰向けになると思いのほかおじさんを近くに感じた。
「明日じゃ遅い」
「はぁ、そうですか。それで、その重要な案件は何なんですか」
イライラした口調を隠さずに言ったが返ってきた答えが
「明日、何する?」
「・・・・・・」
「おい、寝てんなよ」
「・・・・・・」
「寝てんなって」
「起きてますよ!」
「返事くらいしろよ」
「返事ができないくらい疲れたんですよ」
大きなため息が思わず漏れる。
「明日も休みだろ。何するよー、何するよー」
40手前のおじさんがベッドでドタバタと足をバタつかせるのは罰金をとってもいいくらい醜いと思うのだが。
「洗濯して、掃除して、食材を買出しに行きます」
「あぁ?」
露骨に嫌そうな声を出したおじさんにバーナビーは顔をしかめた。
「なんであなたがそんな嫌そうなんですか」
「バッティングセンター行こうぜ。すっげー楽しいから」
「そうですか。どうぞご勝手に」
「お前なぁ、先輩が行こうぜって誘ってんのにそっけなさ過ぎ」
ガバッと起きた虎徹に負けずにバーナビーも起き上がって言い放つ。
「だから年寄りは嫌いなんですよ」
「誰が年寄りだ、コラ」
「なんでも従わせようとするところ、ムカつきます」
「別に行こうぜって誘っただけだろうが。なーにが『従わせようとするところ、ムカつきます』だっつーの」
「マネしないでくださいよ。キモイし」
「うっせ。キモイって言うな」
「40のおじさんが人のマネするなんてキモイ以外の何者でもないでしょ」
お前はぁと言いかけ、あー、もういいや、と言い放った虎徹はバタリとベッドに倒れた。
「洗濯して、掃除して、買出しかぁ。しょぼいけど仕方ねぇ。モッツァレラチーズ買おうぜ。あとパンナコッタ」
「・・・・・・パンナコッタってなんですか、じゃなくて、なに一緒に行動しようとしてるんですか」
「お前、パンナコッタ知らねぇの? 確かに最近見かけなくなったけど普通にスーパーにあるはずなんだけどなぁ。クリームの味するなんかねちょっとした甘いやつ」
「キモッ」
「キモイとか言うなって」
「『ねちょっとした甘いやつ』って俺が一番苦手なやつじゃないですか。杏仁豆腐でさえ苦手なのに」
「杏仁豆腐とパンナコッタは全然違うぞ」
「知りませんよ、そんなこと。とにかく、なんで明日もあなたと一緒に行動してなきゃいけないのかってことですよ」
「明日休みだろ? いいじゃん、別に。俺もなんか買出ししよっと。でも明日はお前が晩飯作れよな」
「なんで夕食の話してるんですか。朝食食べたら帰ってくださいよ。どうして毎週毎週俺のうちに来るんですか」
「お前が俺のうちに来ないからだろ」
「行く必要ないし。用事ないし」
「冷たいこと言うなよ」
「別に冷たくないでしょ。事実じゃないですか。用事もないのに来いって言うんですか」
「俺はなー、お前のそういう言い方が気に食わねぇんだよ。用事なくったって遊びに来ればいいだろ?」
「だーかーらー、なんであなたと遊ばなきゃいけないんですかってことですよ」
「冷てーヤツ。お前、明日何時に起きるの」
「6時ですよ」
これ以上不毛な会話は拒否したいバーナビーはごそごそとベッドに潜りこみながら口にした。
「俺は何も驚かないぞ。お前が3時に起きるって言ってもな。けどよー、早すぎだろ。休みの日に6時に起きるアホがどこにいるよ。惰眠を貪ってだな、だらだらするのが楽しいんだろうが」
「はいはい。でもここは俺のうちですから。6時に起きてください」
「ここは『先輩、ゆっくり休んでいてください』だろ?」
「都合のいいときだけ、先輩にならないでくださいよ。早寝早起きはいいことだし」
「早寝は無理だろ。すでに12時過ぎてるし」
「えっ、ほんとに?」
「いや、わかんねぇけど」
バーナビーは境界線に置いた携帯で時間を確認した。0時2分。
「あぁ、馬鹿な会話で無駄な時間を過ごしてしまった・・・・・・」
「お前、ちょくちょく失礼なことを平然と言うよな」
「真実しか口にしませんよ」
「余計悪いわ」
バーナビーは布団をしっかりと身体に巻きつけ楽な姿勢をとると「もう寝ます。話しかけないでください。返事もしません」と宣言した。
「えー、明日何するか決めてねーじゃん。ほんとに洗濯、掃除、買出しかよ。誓って6時に起きれねーぞ。朝は9時から始まるんだぞー。俺の寝起きは悪いぞー。おーいバニー」
背中から聞こえる声をすっぱり無視しているとおじさんは渋々諦めつつあるのか、だんだん小さな声になっていく。
「ほんとに6時になんか起きれねぇからなっ」
捨てゼリフのようにふんっと言い放つとごそごそと身体を動かして静かになった。やれやれ、やっと眠れる。バーナビーは少し身体を丸めて大きく息を吐いた。
今日は騒がしい一日だった。突然訪ねて来たおじさんと一緒に過ごして、よくわからないうちに泊めることになって、同じベッドで眠ろうとしている。不思議だけど悪くない。子供の頃に行ったキャンプみたいだ。
悔しいけどピザは美味しかったし、トランプは面白かったし、言った通りにホットケーキはキツネ色で、ふわふわだった。『あんこ』も思ったより食べられたけど次は勘弁してください。
仕方ないから、明日は9時に起きて、買い出しをしてからバッティングセンターに付き合ってあげます。だけど、夕食は虎徹さんが作ってくださいよ!