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神無月愛衣
神無月愛衣
novelistID. 36911
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透明アンサー

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透明アンサーⅠ




 真夏日。
 風が強く、まぶしい日が差し込む屋上。
 

 そこにオレは、一人、一羽の折り鶴を持って、屋上からの景色を眺めていた。
 時間的には、今はこの校内の生徒全員は授業を受けている。
 今、ここには、授業をサボるために屋上に来ている生徒は誰一人いない。
 そのため、今現在この屋上にいるのはオレだけだ。


 誰かの叫び声も、話し声も、足音も、まるで聞こえない。
 オレの耳に入ってくるのは、強い風の音のみだ。
 それ程までに、この場は静寂に包まれている。


「……アヤノ」


 あいつの名前を呼んでも、ここには誰もいないので、返事はない。
 当たり前のことなのに、酷く空しさを感じた。


 アヤノ――楯山文乃は、オレの唯一の友人である。
 頭が悪くて、性格が良くて、いつも笑顔で、いつも楽しそうで。


 ――いや、違う。


 いつものあの「笑顔」も、「楽しそう」な雰囲気も。
 あいつが、自分の本心を隠すために作った――ハリボテだったのかもしれない。


 ずっと心の中に抱え込んでいた――「消えたい」という感情を、表に出さないための、あいつの精一杯の振る舞いが、オレが知っているあいつの姿なのだろう。


「……何で……、オレは……」


 ――気付いてあげることができなかったのだろうか。
 あいつの本心に。


 ――あいつが隠すのが上手かったから?


 そんなのは、そんな言葉は、単なる言い訳に過ぎない。
 そうやって誤魔化したって、そんなのが通用するわけがない。
 ただ単に、オレがあいつを知らなかった。
 何一つ、分かっていなかった。
 それが、オレがあいつの本心に気付けなかった理由である。


「…………っ」


 心の中に生まれてきた後悔や罪悪感などをかき消すために、空を見上げる。
 雲が一切無い、澄んだ青空。
 空の青色は、オレの心の中の色よりも、断然明るい。


「忌々しいな……こういうときに限って、空が余計に青く見えやがる……」


 だからなのだろうか。
 さっきよりも強い感情に心が覆われていく。


 その感情の強さを表すかの如く、持っている折り鶴を壊さないように、鶴を持っていない方の手を、力一杯に握った。


作品名:透明アンサー 作家名:神無月愛衣