透明アンサー
透明アンサーⅠ
真夏日。
風が強く、まぶしい日が差し込む屋上。
そこにオレは、一人、一羽の折り鶴を持って、屋上からの景色を眺めていた。
時間的には、今はこの校内の生徒全員は授業を受けている。
今、ここには、授業をサボるために屋上に来ている生徒は誰一人いない。
そのため、今現在この屋上にいるのはオレだけだ。
誰かの叫び声も、話し声も、足音も、まるで聞こえない。
オレの耳に入ってくるのは、強い風の音のみだ。
それ程までに、この場は静寂に包まれている。
「……アヤノ」
あいつの名前を呼んでも、ここには誰もいないので、返事はない。
当たり前のことなのに、酷く空しさを感じた。
アヤノ――楯山文乃は、オレの唯一の友人である。
頭が悪くて、性格が良くて、いつも笑顔で、いつも楽しそうで。
――いや、違う。
いつものあの「笑顔」も、「楽しそう」な雰囲気も。
あいつが、自分の本心を隠すために作った――ハリボテだったのかもしれない。
ずっと心の中に抱え込んでいた――「消えたい」という感情を、表に出さないための、あいつの精一杯の振る舞いが、オレが知っているあいつの姿なのだろう。
「……何で……、オレは……」
――気付いてあげることができなかったのだろうか。
あいつの本心に。
――あいつが隠すのが上手かったから?
そんなのは、そんな言葉は、単なる言い訳に過ぎない。
そうやって誤魔化したって、そんなのが通用するわけがない。
ただ単に、オレがあいつを知らなかった。
何一つ、分かっていなかった。
それが、オレがあいつの本心に気付けなかった理由である。
「…………っ」
心の中に生まれてきた後悔や罪悪感などをかき消すために、空を見上げる。
雲が一切無い、澄んだ青空。
空の青色は、オレの心の中の色よりも、断然明るい。
「忌々しいな……こういうときに限って、空が余計に青く見えやがる……」
だからなのだろうか。
さっきよりも強い感情に心が覆われていく。
その感情の強さを表すかの如く、持っている折り鶴を壊さないように、鶴を持っていない方の手を、力一杯に握った。