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【腐女子向】ハッピーエンド【蛮銀】

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たいした人生送っちゃいないが、それでも人よりゃろくでもない人生送ってる自覚はあったし、大概の事にゃ動じる事も無いつまんねぇガキだってぐれぇは、まあわかっちゃいたがよ
美堂蛮は愛車のスバル360の運転席で言った。
助手席で彼の自他ともに認める相棒、天野銀次は黙って聞いている。
お前ぇに会ってからはそんなのちょっとした考え違いだってしみじみ思わされるわ。なんで毎日これ以上驚く事は無ぇだろうって目に会わされてんだよ、俺ぁ
苦々しい顔で腕を組み、相棒を見やれば
そんなの、俺もだよ
満面の笑みで返された。
胸の痛みは彼の痛みか、己のものか。

そこかしこで咲きこぼれる桜の花びらが静かに舞う夜の公園。奪還屋を始めてみたが言われたほどの儲けもなく、結局宿無しのまま先代から引き継いだ小さな車で寝泊まりする日々。
何がどうしてどういう革命が起こったのか、蛮の相棒は彼をちゃんづけで呼び出し、蛮も結局それを許し。
仕事の拠点にしている喫茶店には店主の他にアルバイトの少女が一人増え。

俺、蛮ちゃんがね、好きみたい

仲介屋をあてにしているばかりでは駄目だ、今の世の中攻めの姿勢でいかねばならぬ。などと二人で今後の仕事の為にチラシを作ってまくべきではないか、街頭で客集めをしてみてはどうだろうか、散々に作戦を練った夜更けすぎ、明日は計画を実行に移し行動しようとまとまったところにふと、ため息のように、だがはっきりと銀次は蛮に言ってきた。


「好きってなぁどういう気持ちなんだろうな」

銀次の告白から明けて翌日。結局蛮は答えず、難しい顔をしたまま銀次に向かってもう寝ろと言うと、自分も横になって夜を過ごした。
相棒は蛮に対していつも笑顔で好意を伝えてくる。友情の好意を。
だが、昨夜のそれがいつもの好意では無い事が察せられないほど馬鹿ではない。
蛮は愛だの恋だのに興味が無い。
正確に言うとわからない。
今の自分の相棒や、周囲をかけがえがないものだとは思っているが、それが愛や恋かと問われたら知るかそんなことと答えるだろう。
興味が無いし理解もできないのだが、だからといって無視をしていいものでは無いとは過去の経験で痛いほど解っている。
自分の恋を無いものにされるのがどれほどつらいのか想像もつかないが、待っているのはより想像もつかない結末なのだ。

それでも蛮は結局昨夜突然相棒がよこしてきたものを受け取るともいらぬとも言わぬまま、明けて朝、むしろ昼近くだったがそのまま愛車を喫茶店、ホンキートンクへと走らせた。
目的地へ到着する前に100円均一の店でカラーサインペンのセットと画用紙帳に落書き帳を買う。落書き帳はいらないんじゃないの?不思議そうに銀次が問うと蛮は馬鹿お前ぇ、いきなりチラシ作れるのかよ、まずは下書き下書き。良いものを作るにはまず下準備が必要なんだ。滔々と語り銀次はなるほどとうなずく。これから向かう店の店主が聞けば、形から入りたいだけだろと呆れた顔をするに違いない。
昨夜、蛮に恋を伝え、それを宙にぶら下げられたままだというのに銀次は全く変わらない。変わらないフリをしているのかもしれないが、そんな演技がやりきれるほど器用な性格はしていない。ただ、ふと伝えたかっただけで、結果が欲しかったわけではないのかもしれない。
そんなハズは無かろうに。
蛮は銀次の胸の痛みが自分にも伝染った気がして顔をしかめる。

チラシのための画材を抱え喫茶店に乗り込むと、豊満な胸を持つ見事な金髪を腰まで伸ばした美女が待ち構えていた。銀次の金がひなたなら、彼女の金は夜の月明かりか。だが彼女の輝きには注意が必要である、月の女神といえば男が嫌いで有名だ。彼女は人間だし男嫌いでもないが、それにしたって自分たちに持ってくる話の殆どが罠か何かのように危険極まりない。昨夜会議で話題にしていた仲介屋、ヘヴンはその美貌に呆れた様子をうかばせて店に入ってきた二人に声をかけてくる。
ちょっと二人とも!待っていたのよ、いい加減携帯くらい持ちなさいよ!
いつから待っていたのか、さほど待ってもいないかもしれないが仲介屋は美しい。たいていの男は待たせるなんてしないだろう事を思うと10分15分待たせれば彼女からすると相当待った事になるかもしれない。
ケイタイ!そうだよ蛮ちゃん!ケイタイ持とうよ!
そうだなあ、その方が仕事の話が来やすいか
その発想は無かった、という顔で二人が顔を見合わせる。そうと決まればまずは携帯だ。買うだけなら一円ゼロ円だってあるのだから少ない懐もたいして痛まない。来た途端に踵を返す二人の襟首を慌ててヘブンが捕まえた。
どこ行くのよ!仕事!仕事持ってきてやったのよ!
蛮はすっかり携帯を買いに行く気だったので、面倒くさげに振り替える。彼女の仕事は確かに実入りはいいのだがその分のリスクも高いのだ。差し引いて考えるとなるべくならお断りしたい。
蛮ちゃん何やってんの!早くお話聞いてあげようよ!
だが彼の相棒はすでに奥のボックス席でまだ聞いてもいない依頼を受けるつもりの顔をしていた。無理も無い、そこに座る依頼人はなかなかの美女だ。蛮は溜息をつかずにはいられない。奪還屋ゲットバッカーズの依頼は主に蛮が是非を決めると思われているようだが実際のところ、銀次がうんと言ったらどれだけ蛮が不服でも決まったも同然なのだ。なにせ蛮は銀次に甘いのだから。

引き受けた依頼は案の定酷いものだった。
蛮はこの仕事が終わった後の事を考える。主に相棒の教育について。
奪われたものはただのぬいぐるみリュック。ウサギのそれは可愛らしい大きさで、小さな少女が背負っていたらさぞ似合うだろうと思わせた。
奪ったのはこのあたりのストリートキッズだと依頼人は警察から聞いている。旦那がもうすぐ誕生日を迎える亡くなった娘の為に買って帰ると携帯に写真を寄越し、そのまま襲われ現在は病院で起きることができない状態なのだそうだ。
去年の今頃娘を亡くし、ようよう立ち直り始め娘の誕生日を契機にお父さんとお母さんはがんばるからねと誓うはずだったのがこんな事になって、重症の旦那さんはすっかり回復の兆しを見せない。体の傷も重たいが、心の傷は回復すらしていないせいで。
犯人が捕まればリュックは戻ってくるかもしれないが、できれば娘の誕生日、明後日までに戻ってきてほしい。
警察だけに任せられないのはそういう事情があるからだ。
再出発を誓うはずだった日までにリュックが戻ってきたら、夫も生きることをがんばってくれるかもしれない、とうとう泣き伏した依頼人を見ながら蛮はおかしいだろと思ったが、隣で相棒が号泣していた。
銀次は悪党には厳しいが、そうでない人間には手におえないほどの情を見せる。彼の生きてきたセカイがどのようなものかは知らない、薄暗さで言うなら絶対蛮の方が勝っていると思うがそれでも銀次にだって悪党を嗅ぎ分ける嗅覚くらいはある。依頼人に嘘は無いしヘヴンから聞いた彼女の素性も本物であろう。
では、何がおかしいか。

盗んだ物だ。