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【ゲットバッカーズ】LINE

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美しい人の怒りに歪めた顔というのは普段の差と相まって相当に恐ろしいものだ。
喫茶店ホンキートンクの店主、王波児はカウンター席に座る美女を中から眺めながらしみじみと思う。彼からすれば少々面倒な客であるだけだがアルバイトの少女二人、夏美とレナに彼女はやや荷が重いようでオロオロと困ったように相槌をうったりどうしましょうという顔で波児に視線をやったりしている。
仲介屋ヘヴンがここへと怒り心頭でもってやってくるのは初めてでは無いのだが何せ彼女の怒りの内容が男女間、もっと詳しくいってしまえば恋人同士のすれ違いであるだけに未だ恋人のいない少女達に彼女の満足いく相手は難しいらしい。延々と続く恋人への悪口雑言を聞きながらそうなんですか、大変ですねとどことなく空々しい相槌をうつのが精一杯である。レナなどはそこまで不満ならいっそ別れてしまえばいいのにという顔を隠しもしない。実際それを言った事もあるのだが頭に血が上っているヘヴンに「別れたくらいで解決する問題ならとっくにしているわよ」とずっぱり切って捨てられ、以来、不満そうではあるが口にはしなくなった。そもそも彼女の愚痴を主に聞いているのは店員達では無くここを勝手に仕事の事務所変わりにしている問題児二人組、奪還屋ゲットバッカーズだから無理に相手をしなければいけない訳ではないのだ。普段なら二人の内の一人、銀次が愛想笑いを浮かべながらひたすらヘヴンの相手をしているのだが今日は珍しくいつも我関せずという顔で煙草をふかしたり途中でパチンコに逃げる蛮が聞いている。とはいってもやはり集中してはいないようで時折銀次の手元を興味深げに覗いているのだが。銀次も最初はいつも通りヘヴンの隣で相手をしていたのだけれど、途中でふと蛮に顔を向けて何事か言うと席を入れ替わりヘヴンの相手を蛮に任せ最近携帯の機種変更をしたとかで手に入れたiPhoneをカウンターテーブルに置いて真剣になにやら文字を打ち込んでいる。今まで使っていたいわゆるガラケーというやつがとうとう壊れたのかと問えば、蛮はフンと鼻をならしてこういった商売してっとなるべく流行りのもんを持た無ぇと信用に関わるんだよと面倒くさそうに言っていた。ただでさえ正規の仕事ではない裏稼業、そこへもって二人は若いというか子供だ。蛮だけならどうとでもなりそうなものだが、銀次は顔も出で立ちも露骨に幼い。場合によってはそれだけで仕事がキャンセルになることもあるのだから他の部分で多少でも見栄をはっておかないと格好もつかなければ仕事もなかなか来ないのだろう。ヘヴンの話を適当に聞いていた蛮がここで言ってねぇで本人に言えよと呆れたようにヘヴンに言っている。レナがあーあ、という顔をした。それも以前、彼女が言ったのだ。蛮もいたはずだがどうやら全然聞いていなかったらしい。
「言ってるわよ!!言わないわけないでしょ!!言っても通じないから腹が立つんじゃない!!」
そして相手が蛮だからか、レナの時よりよっぽど恐ろしい剣幕でヘヴンは返した。あいつに女の心なんて、いや人間の心だってわかるかわかったもんじゃないわ!!!蛮の首をつかんでガクガクと前後左右に振っている。彼が蚊の鳴くような声でロープロープと言っているがまるで聞いていない。ひとしきり興奮したあとようやく少し落ち着いたようで、手を放して頼んでいたアイスティーに口をつけたが別にこれで終わりではない、ただのブレイクタイムだ。またしばらくしたら彼女の怒りがまき散らされるだろう。閉められた首をすりながら軽くむせている蛮にレナが気の毒そうに水を出していた。
ヘヴンと恋人の柾の関係は本来むしろ良好な方だ。どちらかというと見ていられないくらい仲がいい。だがひとたびそれがすれ違うと本当に酷い事になる。なにせ大事なことは言わなければわからないと思っているタイプのヘヴンと大事な事は言わなくてもわかると考えるタイプの柾なのだ。一度ずれると元の鞘に収まるまでに相当の時間がかかり巻き込まれる人間も少なくない。最近では明らかに不機嫌なヘヴンが表れると潮が引くように人が逃げていく。彼女の相手をするのはホンキートンクから逃げられない店員達と、万年金欠でいざとなれば彼女の仲介に頼るしかないゲットバッカーズくらいのものなのだ。
しかし銀次は何をしているのだろう。波児は気になって仕方ないが、カウンターの影になっていてわからない。
「うわ」
レナから差し出された水を飲みながら銀次の手元を覗きこんだ蛮が、眉根をよせて思わずあげてしまったという声を出しコップを持っていない左手で己の胸を押さえている。彼にしては珍しく人前だというのに痛ましい顔をして銀次を見たが当の銀次は逆に満足げな顔をしてずっとうつむけていた顔を上げると満面の笑みを浮かべていた。蛮としては受け入れがたいが銀次としてはいい仕事をしたつもりなのだろう。時を同じくして、まるでヘヴンが落ち着いたのを見計らうかのように店内BGMとは別に曲が流れた。音は彼女のバッグからしている。柾からなのだろうと周囲は皆察しがついた。なにせヘヴンが心底嫌そうな顔でバッグを見つめている。
「取らねぇのかよ」
蛮が仕方なさそうに声をかけたがヘヴンは視線を一度蛮にやるだけでまたバッグに向き合い返事をしない。曲が止まる。蛮は別に無視された事で気を悪くはしていないようだ。
もう一度、同じ曲がかかった。
「ヘヴンさん?」
今度は銀次が不思議そうに蛮の背中から彼女に声をかける。取らないの?銀次の声にはしなかった問いかけに押されるように彼女はバッグの中に手をやり取り出すと、そっとボタンを押した。


「結局お前は何をしてたんだ?」
しばらくヘヴンは電波の向こうの柾と押し問答としていたのだが、だんだん何も言わなくなり最後には真っ赤になると店を飛び出していった。アイスティー一杯に一万円を置きお釣りは適当に使ってくれと言い残して。
さっそく蛮がラッキーと言わんがばかりに飛びついてディナーセットを二人分頼んできた。確かヘヴンが来たのは正午を少し回ったくらいだったはずなのに、いつの間にやら四時を過ぎていたらしい。
夏美とレナが元気よく返事をして調理に取り掛かっているのを横目に波児は銀次に問いかける。どう考えてもタイミングからしてあの着信は銀次の仕業のはずだ。
「ラインだよ」
ニコニコと銀次は答える。LINEの事らしい。波児はいまだにガラケーなのでツイッターはわかるがLINEは話に聞くばかりだ。機種を変えたい気もするのだが、どうも未だに使えるものをただ新しいいいものが出たからという理由で変える気になれない。今でも特に不便を感じていないせいもあって。
「柾に話してたんだよ。ヘヴンさんをもっと大事にしないとって」
「ちなみにこいつと無精ヒゲはVOLTSでグループになってて、ま、今回の痴話げんかはつまりヒッキー達にも筒抜けになってたって事だな」
蛮が付け加えてくる。通りで誰も店にこないわけだ。花月あたりから機嫌の悪いヘヴンがいることが常連たちには回っていたのだろう。
昼から今まで誰も来なかった事を少々疑問に思っていたのだが謎がとけた。裏新宿に長い事ある喫茶店には新規客も中々こない。
「それで説得があっさり上手くいったっていうのか?」