あいつがやってくる
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「んなわけあるかあああ!!つか、なげーんだよ。一体この話だけでどんだけ使ってんだよ!!」
「銀時。貴様!冬を侮辱するのか!いいか!銀時。冬はなぁ。ずっと春を待ち続けたんだ。わかるか。冬の思いを」
「わかんねーよ。ヅラ」
「ヅラじゃない。今日の私は『その友人』だ!」
「お前もでてんのかよ!!」
「なんだ?銀時。お前も出たいのか?」
「はん?別に、俺、そんな話、興味ないし~」
「やっぱり、出たいんじゃないか。だったら、銀時は冬役で」
「誰が冬だ?!俺は銀時だ!」
「そうか、そうか。気に入ったか」
「はん?ふざけんじゃねぇぞヅラ!」
「ヅラじゃない『その友人』だ!」
「あら、お二人とも?こんなところで奇遇ね」
その声は聞き覚えのある声だった。確か名前は・・
そう考えて、顔を見上げると。
「おお、これはお妙殿。ちょうどいいところに」
「私は『春』役をやろうかしら」
「なんで話てもねぇのに知ってんだよ!しかも、めっさ偶然を装って出てきてるしぃ。盗み聞き、してたんじゃねぇか?」
「もう人聞きが悪いですよ。銀さん。私、ずっとその茂みでスタンバってましたから」
「やっぱ盗み聞きしてたんじゃねーか!!」
「大丈夫ですよ。お妙殿。私なんか、銀時がこの公園にくるまで、ずっと、ベンチでスタンバってましたから!」
「お前ら帰れ!帰れよ!!」
「おお、銀時。台本も無しに、いきなり冬役を演じるか。さすがは俺の見込んだ男だ」
「ちげーし!台本関係ねぇし」
「もう冬ったら、そんなこと言わないで。早くベットで横になりなさい。早くベットに・・・横にならんかい!ワレ!!」
ベンチに叩きつけられたはずの銀時は、とても気持ちよさそうな寝顔をしていた。
「すごい熱演だな。どれ俺も。おい冬?具合は大丈夫か?」
ゆすっても、びくともしない。さすが銀時だ。
「冬さん。体調が悪いときはこれが一番ですよ~」
そう言って、お妙殿が取り出したのは・・・
「春さん・・?それはなんですかな?」
「何って?もちろん卵焼きじゃないですか」
「卵焼きってそんな色してましたっけ?そんな消し炭みたいな形してましたっけ?」
「もう、どこをどうみても卵焼きじゃないですか。さぁ冬さん。早く元気を出すためにも、たーんと召し上がれ」
重箱に入ったその黒い消し炭。暗黒物質を銀時の口に押し込んだ。
「お妙殿。なんか冬さんが、さっきから白目むいてる気がするんだが。しかも、体がすごく冷たくなってきてるのは気のせいだろうか」
「もう、なに言ってるんですか。これは冬さんの演技に決まってるじゃないですか」
なるほど、そうだったか。さすがは銀時。これも演技だというのか。
俺がそう呟いた時、銀時が息を吹き返した。
口から金色の綺麗な固形物を撒いて。
「てめぇ!俺を殺す気か!!」
「まぁ殺すなんて人聞きの悪い。ただの愛情表現じゃないですか」
「歪んでんだよ!てめぇの愛情表現は!!」
「で、どうなんだ銀時?」
「どうって何がだよ?!」
「決まってるじゃないか。春は訪れたか?」
「んなもん訪れるわけ・・」
銀時が途中で話すのをやめ、目で追った視線の先にピンクの花びらが一枚。俺達の間をすり抜けたのだった。