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D.C. ~ダ・カーポ~【同人誌サンプル】

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 香穂子は空になったジュースの缶を掌で弄びながら、学院の校舎を眺める。
 コの字に並んだ校舎の中心に建つのは、美術室や図書室、音楽室などを集めた特別教室棟――通称、柊館だ。
 正門から見て右側に建つのが音楽科棟の桜館、左側が普通科棟の楓館である。
 建物の構造は、香穂子の時代と殆ど変わらないが、外観はあからさまに新しい部分が目についた。
「本当に十六年前なんだ……」
 右手の小指に引っ掛けたプルタブを凝視して、香穂子はしみじみと呟く。ジュースの缶ひとつにしても、大きさ、形、素材……すべてが異なった。
「私たちにとってはこれが普通だから、香穂子ちゃんの驚きに共感することはできないわ。ごめんなさいね」
「なあ、お前の時代になると、その……結構、違ってたりするもんなのか?」
 コーラの空き缶を屑籠に放り投げて、金澤が頭をかく。
「そ、それは……」
「変わってしまった」代表格のような存在を前に、香穂子は言葉を詰まらせた。言えるわけがない。
「……んんっ?」
 そんな香穂子に助け船を出すかのように、虚空から金色の光が溢れ出して、ゆっくりと渦を巻く。輝く中心から、羽妖精が飛び出した。
「――お待たせなのだ!」
「おっ……早かったな、羽つき」
 すかさず伸ばされた金澤の手を易々とかわして、妖精は宙を一回転してみせる。
「――ちぇっ」
 舌打ちをする金澤に、リリは舌を出した。
「へへーん、吾輩の羽は、お前の玩具じゃないのだ」
「……で、どうだったの? 王様と話はできたの?」
 金澤に軽い肘鉄を食らわせて、美夜が前にせり出す。
「日野香穂子を元の時間軸に戻すには、時空をねじ曲げる必要があるのだ。それには多量のエネルギー……即ち、音楽の力が必要なのだ」
「ぐ、はっ……音楽の力……だって? それなら何とかなるんじゃねぇか。星奏は音楽に祝福された場所なんだろ」
 美夜にやられた脇腹を押さえて、金澤が口を開いた。
「金澤紘人の言う通りなのだ。よし、それではコンクールを開催しよう。金澤紘人、吉羅美夜――そして、日野香穂子、お前も参加するのだ! 吾輩には分かる、お前には音楽の素質があるのだ!」
「ええっ!? でも、私……この世界の人間じゃないし……」
 杖の先端を眼前に突きつけられて、香穂子が困惑の声をあげる。
「問題ないのだ! 校長には吾輩が話をつけてやるのだ……いや、その必要すらないかもしれないのだ」
 妖精はちらりと美夜の顔を見遣って、口角を吊りあげた。
「ええ、そうかもしれないわね」
 対する美夜も、何故か余裕の微笑みを浮かべて頷く。
「よし、では決まりなのだ!」
 リリはそう宣言すると、手にした杖を高らかに振り上げ、大きく弧を描いた。
 杖の先端から眩い光が溢れ出し、裏庭のカリヨン――人間の手では決して鳴らすことのできない、不思議なそれが……高らかに鳴り響く。

「――さあ、特別なコンクールの始まりなのだ!」


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