D.C. ~ダ・カーポ~【同人誌サンプル】
「――――!!」
瞬間、少女の瞼が、ぱちりと開いた。
唇が重なり合ったまま、二度、三度――超、至近距離で瞬きが繰り返され、やがて限界まで見開かれる。
「――うわっ!」
「――きゃっ!」
反射的に顔を離した二人の短い悲鳴がシンクロして、森の広場に響き渡った。驚いた野鳥が一斉に飛び去り、枝葉が大きく揺れる。
「あっ……あ、あぁ……」
言葉通り「飛び起きた」少女は、耳まで紅潮していた。
陸に打ち上げられた魚よろしく口を開閉させて、何か言おうとするものの、意味のない母音を紡ぐばかりである。
「……っ!」
不意打ちを食らった少年もまた、腰を抜かしていた。
危うく発しそうになったみっともない悲鳴を呑み込んで、深呼吸を繰り返す。乱れた鼓動と呼吸が落ち着いたところを見計らって、できる限り自然な微笑みを装った。
「よかった……ちゃんと起きた」
「……ぁ、やぁ……」
だが、相対した少女は、明らかに怯えている。
尻餅をついたままの姿勢で、後退ろうとする……が、背後にそびれる楡の木に阻まれてしまった。
「あ……」
退路を断たれた少女は、繊細な指先で己の唇をなぞると、白い喉を震わせて、懸命に声を絞り出す。
「――あのっ、今……き、キ……」
何を訊かんとしているのかは、容易に想像がついた。
――だが、この状況で先に言われてしまっては、男としての面目が立たない。
「ん……? ほら、眠り姫を起こすのは、王子様のキスって、昔から決まってるだろ?」
少年は、さも当然とばかりに、言い放った。
作品名:D.C. ~ダ・カーポ~【同人誌サンプル】 作家名:紫焔