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D.C. ~ダ・カーポ~【同人誌サンプル】

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         ◇  ◇  ◇

「――よし、この辺までくりゃ、バレねーだろ」
 少年は勝ち誇った笑みを浮かべて、周囲を仰ぎ見た。
 音楽科の象徴でもあるオフホワイトの上着に包まれた上背は、高校生にしてはかなり高い方であろう。ふわりとした癖の強い頭髪は、陽射しを浴びて淡い藤色に輝き、琥珀の瞳には、悪戯っ子のそれが宿っている。
 森の広場の外れ――高い木々が天然の目隠しになるこの場所は、彼が見つけた秘密の昼寝スポットだった。
 何処からともなく集まってくる野良猫たちに、昼食のパンの余りを分け与えて一緒に寝るのが、彼の日課である。
「なんだ……?」
 楡の木の根元に横たわる制服らしき影を捉えると、少年は口をへの字に曲げて不満の色を顕わにした。
 自分だけの『秘密の場所』を他人に知られて――ましてや奪われてしまうのは、面白くない。
「……って、女の子――!?」
 しかし『侵略者』の正体が、愛らしい女子生徒となれば、話は一変する。
 ダークグレーのハイソックスに包まれた細い足に気付くやいなや、少年は慌てて傍に駆け寄った。仰向けに横たわる少女の傍らに片膝をついて屈み込むと、顔を寄せて呼吸を確かめる。
「ん……寝てるだけ……かな?」
 規則的に繰り返される少女の寝息に、少年は安堵の溜め息を漏らした。頬に掛かった緋色の髪を、指先でそっと正す。
 セーラーカラーのブレザーに短めのプリーツスカート。胸元を飾るタイの色は赤――即ち、普通科の一年生である。
「ふーん、結構、可愛いじゃん……」
 あどけなさの残る少女の顔立ちに見覚えはない。
 普通科の新入生も一通りはチェックしたつもりでいたが、まだ「抜け」があったようだ。
「――!? 泣いていたのか……」 
 頬にうっすらと残る涙の痕を、彼は見逃さなかった。
 注意深く観察すれば、小刻みに震える瞼も少し腫れている。
 何故だろう……?
 悲しそうな少女の寝顔を見つめていると、胸がぎゅっと締め付けられ、猛烈な息苦しさに見舞われる。
 面識がないはずなのに、一瞬たりとも目を離すことが叶わない。
(――辛い夢なら、早く目覚めちまった方がいいさ……)
 甘い花の香りに引き寄せられる蜜蜂のように、可憐な唇に誘われ――気がつけば、柔らかな吐息もろとも、桜色のそれを奪っていた。