Wizard//Magica Wish −11−
「ゆまちゃんが魔法少女だったなんて、けどおかしいよ。魔法少女になれるのは私達と同い年の女の子だって!」
「いいえ、それは違うわ まどか。奴らにとって最もエネルギー回収の効率が良いのが14才の少女だということ、要するに、女性なら誰だって良いってことよ…千歳ゆま は?」
「今はハルトと一緒に散歩へ言ってる…大人気なかったよ。ゆま に迫ったときはさ。けど許せなかったんだ。だって ゆま はまだあんな小さな子供だぞ?」
予想外の事態が起こった。操真ハルトと佐倉杏子が連れ帰ってしまった少女、千歳ゆま が魔法少女だったということだ。いや、正確には正体は知っていた。そう、三国織莉子と呉キリカが引き起こした…あの事件が起こった世界でのことだ。まさかこの世界でも出会うことになるとは思ってもいなかった。
「佐倉杏子、千歳ゆま を孤児院に返すのは駄目よ」
「え、ほむらちゃんなんで!?」
「あんな小さな子が一人で魔女を倒してグリーフシードを手に入れることが出来る?」
「あっ…」
「無理よね。ソウルジェムは何もしなくても少しずつ穢れが溜まっていく。もちろんそれを消化する手段は魔女を倒してグリーフシードを手に入れて穢れを取り除くしか手段は無いわ」
「あぁ、わかってる。知った以上もう ゆまを一人にすることはできない」
「それと、なるべく魔法を使わせないことね。必ず千歳ゆま の傍に誰かついていること、いいわね?」
「…わかった。ゆまは、私が守る」
佐倉杏子は決意したかのように自分の手をグッと握り締めた。本来なら まどかを優先させるべきなのだが、仕方がない。私だって、あの子をほおっておく訳にはいかなかった。もう、あんな光景は見たくない…。
それと、もう一つ疑問があった。操真 ハルトだ。
「佐倉杏子、操真ハルトの身体に最近異変が無いかしら?」
「ハルト?うぅ~ん、そうだな…最近やけに寝るようになったぐらいで、あとは別に…」
「そう…」
「ほむらちゃん、ハルトくんがどうしたの?」
「いいえ、特になにもないわ」
それは嘘だ。
本当に注意すべき存在は操真ハルトだ。
これまでの戦いで操真ハルトは沢山のソウルジェムやグリーフシードをウィザードリングに変えてきた。私はその意味を知っている。既にインキュベーターがその答えにたどり着いているだろう。おそらく操真ハルトの身体には既に消化しきれない穢れが溜まってきている筈だ。何も異常が無い訳がない。
インキュベーターは操真ハルトを使って一体何を企んでいるのか?
操真ハルトは奴らにとって最高のエネルギー源だということはわかっている。
だが、本当にそれだけなのか?
なにか腑に落ちない…心の中で何かが引っかかる。
やはり、操真ハルトは危険な存在だ。
もし、その時が来たら…私は。
私は、今度こそ彼に引き金を引くことができるのか。
・・・
「ハルト!もっと高く!!」
「はいはい、よっと」
「きゃはは!高い高い!!」
俺は ゆまちゃんを肩に乗せて大きく背伸びする。俺とゆまちゃんは近くの公園に遊びにきていた。周りには子供を連れた家族でいっぱいだ。
「ハルト!走って!」
「落っこちないでよ?それっ!」
「あっきゃぁぁぁ!」
全速力で公園の端から端へと駆け抜ける。疲労よりも一緒にこの子と遊べることに快感を得ていた。俺には兄弟なんていない。もし、本当に俺に兄弟がいたとすれば、毎日がこんな感じなのだろうか。
「はぁっはぁっ…あぁ~疲れた」
「え、もうおしまい?」
「ごめん、ちょっと横にさせて」
ゆまちゃんを肩から下ろし、俺は芝生で横になった。目に映るのは広大にひろがる青空と太陽。それと、俺の顔を覗くゆまちゃんの顔。
「ハルト、横になったら気持ち良い?」
「なってみれば?」
「わかった!ゆまも横になる!」
俺に続いてゆまちゃんも大の字になりながらぼふっと音を立てて横になった。こんな清々しい時間はいつ以来だろうか。毎日魔女やファントムと戦い、いつ襲ってくるかわからない脅威に警戒する毎日。俺の心の支えは周りにいる皆、そばに皆がいるから俺は今まで戦うことができた。
…この見滝原に来る前はずっと一人だった。それが当たり前だと思っていた。今日まで、俺は様々な体験をしてきたな…マミちゃんからは、周りに居る友達の大切さ。さやかちゃんからは、人を愛するというとても難しく、美しい感情。全部、俺が知らなかったことばかりだ。
「ハルト~?」
「どうした?ゆまちゃん」
「ゆま、もう一人は嫌。ずっとハルトとキョーコの傍にいたい」
「…っ…大丈夫、ゆまちゃんはもうどこにも行かない、ずっと俺たちの傍にいるんだ」
俺はゆまちゃんの頭を撫でてあげた。知ってしまった ゆまちゃんの秘密。こんな小さい子が魔法少女の宿命を背負うなんて…この子を守れるのは他の誰でもない。俺たち魔法使いだけだ。もう、この子を孤児院に返すわけにはいかない。俺たちがこの子を守るんだ。
「これからは護身程度の戦い方も教えてあげないとな、いつ奴らが襲ってくるかわから…っ!!?」
「どうしたの?ハルト」
頭を撫でていると、ちらっと前髪の隙間から何か…赤く晴れ上がった物が見えた。俺はゆまちゃんの前髪をかきあげた。すると…そこには。
「これ…え…」
「やっ!見ないで!!」
ゆまちゃんは隠すように頭を手で隠す。けど、もう遅い。俺はまた ゆまちゃんの秘密を知ってしまった。ゆまちゃんの額には、火のついたタバコを無理やり押し付けられて出来た痕が無数に出来ていた。…間違いない、これはかつて ゆまちゃんの両親によって付けられた物だ。
「ゆまちゃん…君、…虐待されていたの?」
「…っ…」
「そう…わかった」
俺は ゆまちゃんを抱き寄せた。この子もきっと今まで辛い思いをしてきたのだろう。俺は察した。この子も俺たちと同じだ。まともな人生を歩めなかったんだ…未来も、希望も持たず…ただ時間だけが流れる毎日。
「帰ろっか!」
「…うん!」
・・・
「杏子ちゃんは知っていたの?」
「何を?」
「ゆまちゃんの額のあれ…見たんでしょ?」
「あぁあれか…昨日全部教えてもらったよ」
俺と杏子ちゃんはバルコニーに出てふたりっきりでいた。中では まどかちゃんが ゆまちゃんと一緒に遊んでいる。ほむらちゃんは一足先に帰ってしまったらしい。
「昨日風呂に入った時にな、私も絶句したよ…ゆまは虐待を受けていたんだ。けど、ある日…ゆまの両親は原因不明の謎の失踪をした。今も見つかっていないらしい。本当にゆまだけを置いて出て行った…それとも」
「魔女結界の中に飲み込まれてしまった…ってことか」
「それに、ゆまの傷は頭だけじゃない。普段も結構着込んでいるだろ?腕にも、体にも殴られたりされた痕が残っている。それでもあいつは笑っていた…だから私は決心したんだ。ゆまは私が守る。これ以上、ゆまに酷い思いはさせたくない」
「それは俺も同じ。流石に一人にはできないよね」
「例え魔女や使い魔に刺し違えてでも…私はゆまを絶対に守る。ゆまの希望は私が守ってやる」
作品名:Wizard//Magica Wish −11− 作家名:a-o-w