Wizard//Magica Wish −11−
………
路地裏、本当は会いたくないが一対一で話すには都合の良い場所だ。おそらく奴はずっと私達を監視してきた筈だ。近くに居ないわけがない。
「出てきなさい、インキュベーター。すぐ傍にいるのでしょう?」
静まり返ったこの場に私の声が響く。するとどうだろうか、目線の先から何かがこちらに近づいてくる。思ったとおりだ。奴、インキュベーターが赤い目を輝かせて私のすぐ傍までやってきた。
「やぁ暁美ほむら、まさか君から呼ばれる日が来るなんてね、思ってもいなかったよ」
「それは私も同じよ。それより、さっそくあなたに聞きたいことがあるんだけど」
「聞きたいこと?僕にかい?まぁどうせウィザードのことだと僕は思うんだけどね」
「察しが良いわね、なら話しは早いわ」
全て、お見通しってわけね。
まだ私の正体を知られる訳にはいかない。自分のことはなるべく表に出さないようにしなければ。
「あなたたちはウィザード。いえ、操真ハルトを使って一体何を企んでいるの?答えなさい」
「企む?なにか勘違いしているみたいだけど、僕は別に何かするって訳じゃ」
「とぼけても無駄よ。私は全て知っている。操真ハルトの今後のこともね」
「…なるほどね。ほむら、君の正体も知りたいところだけどまさかウィザードのことを全て知っていたなんて、ますます興味深いよ。そうだよ、僕達の今の目的はウィザードの魔女化さ」
やはり、インキュベーターはウィザードの魔女化を知っていた。間違いない、奴らの目的はウィザードが魔女化した時に発生するエネルギーの回収だ。魔法少女達のソウルジェムの穢れを自らの身体に蓄積させることにより考えられない程の膨大なエネルギーを奴らは回収しようとしていたのだ。まぁインキュベーターから見ればウィザードは最高のエサなのだから。
「まぁ彼自身も戦うことを拒まないからね、操真ハルトは着実に己の身に穢れや因果を蓄積させている。それも今では消化が間に合わなくなってきているみたいだね、魔女化までそう時間はかからないはずさ」
「それだけじゃないでしょ…あなたたちの目的」
「っ!…ほむら、まさか君は…」
「あなたたちの考えそうなことぐらい、全てお見通しよ」
ここからは私の持論。無論、的中している自身は無い…が、今までの奴らの行いを見ている限り間違いはないはずだ。もしこの持論が正解だとすれば…早急に手を打たなかればいけない。
「あなたたちの真の目的はこうよ…まずウィザードを魔女化させ、ひと暴れさせる。あれほどの膨大な因果の量を取り込んだウィザードの魔女は大規模な被害へと拡大させていく。そう…この見滝原だけではなく、全国、いえ全世界規模の大災害をね。それを見た魔法少女たちは魔女の駆逐ということで立ち上がり魔女と戦う…そうすれば少しの時間で莫大なエネルギーを回収することができる…どう?簡単に説明したけど、こんなところかしら?」
「いやいや…さすがだね。そこまで見通していたなんて…」
私は息を飲んだ。感情を表に出さない。
インキュベーターは一度後ろを振り向き、空を見上げた。
「そうだよ、僕達の本当の目的はね、ウィザードの魔女化から始まる『絶望の連鎖反応』さ。ウィザードから生まれた魔女は間違いなくこの世界の頂点に立つ最強の魔女へと変貌する。それも世界規模のね。けどそれだけじゃない。ウィザードの魔女がもたらす災害から少女達から新たな絶望が誕生する。そこからまた新たな魔法少女や魔女が誕生し、さらにそこから魔法少女や魔女が誕生していく…まさに、無限の連鎖反応、絶望のスパイラルなのさ」
「っ…」
「ウィザードは僕達にとっては最高のエネルギー源だ。いままで数10年以上は掛かった行為がたった数週間で完了してしまうからね。僕達は契約もする必要性も無く、何をせずとも勝手にエネルギーが回収できてしまうっていうことさ。わかったかい?暁美ほむら」
「…あなたたちは…どこまで…っ…」
なんて考えなの…ぶつけようの無い怒りだけが自分の中で溜まっていく。
人の命を何だと思っているの?いくら奴らに感情というものが無いからって、…そんな命を弄ぶような行為、絶対私は許さない。
「…もう良い、わかったわ」
「わかってくれたかい?それともウィザードを倒しに行くつもりなのかな?」
「さぁ、どうでしょうね」
「まぁどちらにしても、僕達にデメリットは無いからね。いくらウィザードを倒しても彼の身体に溜まった因果と穢れは暴発し、彼を倒した魔法少女はその莫大な因果と穢れに飲み込まれ魔女が生まれてしまうからね。ほおっておこうが、倒そうがもう手遅れってことさ」
「…っ…最後に一つ、あの人型の魔女。メデューサの事についてあなたは何か知っている?」
「えっと、何を言っているんだい?暁美ほむら」
「…まだしらばっくれるつもり?もう一度言うわよ。あの人型の魔女、メデューサの事について…あっ…」
「人型?…魔女?…ほむら、もしかして君は何か大きな勘違いをしていないかい?」
ドクン…と心臓の音が大きく高鳴った。
しまった。私は操真ハルトに気を取られすぎていた。もっと重要な事を完全に見落としていた。そうだ…今思えば不自然なことばかりだった。
「しまった…」
「人間の言語を話す魔女なんてこの世界に本当にいるわけがないじゃないか。しかもあんな完璧な人型をした魔女だなんて、ちょっと考えれば誰にもわかることじゃないか」
何故、もっと疑わなかったのだろうか。
そうだ…魔女を従える魔女王…けどメデューサの目の前に現れていたのは全て彼女が作り出した幻影の魔女、ファントム。己の肉体の形を変えられるのも彼女の魔法だとすれば…全てに辻褄が合う。
「彼女は魔女王でも魔女でも何でもない。彼女は幻影の物体を現実に投影することができる魔法を使う…僕と正式に契約した、正真正銘の魔法少女さ」
作品名:Wizard//Magica Wish −11− 作家名:a-o-w