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【腐女子向】とあるこどものこいのうた【蛮銀】

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後ろであたふたしている気配がするが待ってやる気は毛頭ない。ここで仕事を降りないだけ感謝されるべきだ。
彼らといるといつも自分が深淵の底と思っている場所はまだまだ浅いのだと思い知らされる。
ガラスの自動ドアが開くのも待たずにメスで切り崩す。
かつて死んでゆくこどもを抱えて覗いた深淵。誰もが望むなくならない命。もどってくるこども。
そんなものは無いのだと深淵は語る。それが受け入れられずにこどもの帰還を望み何人の大人が壊れたのか。
そんなものは無いのだ。
望む者の目の前にそれが与えられることは決してないのだ。
なくならない命も。もどってくるこどももいない、存在しない。

死なないこどもを手に入れたのは唯一同じ、死なないこども。

それがうらやましいのかと問われたら、何をうらやむことがあるのですかと返すだろう。自分のなくしたこどもでは無いのだ。なにをうやらむのか。妬むのか?自分の腕にあったこどもの命は潰えたのに、消えぬ命をもつこどもが妬ましいと?
子供を腕に抱えていた自分なら妬んでいたかもしれない。死なないこどもの存在に希望を持っていたかもしれない。けれどもそれは全て過去だ。今の自分に思うところは何もない。ただ深淵に、己の中の何かがぽろぽろといつまでも欠けて溶けていくのを堕ちながら眺めるだけだ。
死なないこどもは対局だ。心の弱さを己の強さで誤魔化すものと、心の強さを己の弱さに囚われて気付かないものと。
美堂蛮はいつまでも天野銀次が遠いだろう。自分の信じられないものを全て信じて、自分の隠すものもすべて信じて、そして蛮を信じる彼が。天野銀次が己の強さに気が付かない間は永遠に。
そして、その距離が蛮に銀次を受け入れさせて、銀次に蛮を遠く思わせるのだろう。
こどもというのは大人ではない。上手なつきあいというのはできないのだ。いつまでも下手な付き合いを繋げた絆のぬくもりを頼りに続けていくのだろう。美しいだけのセカイなど無いのに、無いと知っていて、美しいセカイを信じている。
堕ちてしまえば楽なのに。
「外に車が止まっていたでしょう?」
赤屍が入口を出て砕けた自動ドアの上で振り返る。銀次は小走りに赤屍の元へ近づく。
「ここの地下三階のスペースは隣のビルまでありますよ」
「え?」
「このビルで待っていても、ターゲットは上がってこないという事です。あの崩れていない一角にエレベーターが隠されているはずです」
急ぎましょう
赤屍が優雅に歩を進める。新月の夜は星が瞬いているがこの街の汚れた灯りの方がここではまだ役に立つ。

なくしたものはもどらない。けれども、ミイラの命はまだあるのだ。
なくなっていないのなら、救うのが医者だ。
背後のビルから轟音と地震のような地響きが起きる。

呪いのような恋をしているこどもたち。

自分には関係が無い。あのこどもたちはなくならない。赤屍は慌てたように呼ぶこどもの声に立ち止ることなく、走りだそうとする目の前の車にメスを振りかざした。