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Wizard//Magica Wish −12−

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「………。」

盗みを働いたのはいつ以来だろうか。

繁華街の路地裏に赤髪のポニーテールが特徴の彼女、佐倉杏子が右手に一つのリンゴを持ちかじりついていた。杏子は壁に背を任せどこか生が抜けたかのようにただリンゴを食べていた。

「へへっ…やっぱり盗んだ食べ物は美味しくないや…」
持ち合わせもなく外へ飛び出してしまったため、今の彼女は無一文である。途方に暮れている間に空腹状態になり、主婦が片手にぶら下げていた買い物袋に入っていた食べ物がつい目に入ってしまった。

まどか達に出会う前には当然にやっていた盗みが今ではリンゴ一つすら罪悪感を感じる。そこまで自分は綺麗になってしまったということだ。
そして…二度と感じたく無かった家族を失うという感情すら蘇っていたみたいだ。

「なんだかなぁ…変だよな、私…昔だったらこんな事平気でやっていたのに…」



ぽっかりと空いてしまった自分の心の中。



「いつの間にかさ…周りには さやか やマミ、まどかと ほむら…そして…ハルトの奴がいてさぁ…」



一度体験してしまった事から逃れる為に一人で歩いてきた筈の道。



「あいつらと一緒にいる時間が長かったのかなぁ…なんだよ本当に…なんでさ…」



周りに誰かが居ることが当たり前になっていた日常。



「なんでこんなに…一人でいることがつらいんだよぉぉ……うっ…ひぐっ…」

何もかも失ってしまった。
自分にはもう何も残されていない。

「ゆまぁぁ…ごめんなぁ…うっぐ…守るって約束したのにぃ…あ…あぁぁぁ…うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

杏子は次第に涙を流す量が多くなり、自分の膝に顔を埋めて大泣きし始めてしまった。あんなに決意をしたのに…結局自分は何もできなかった。自分の無力さを恨むしかなかった。

「うぅ…ひっぐ…」

一人で居るのが辛い。
あの暖かい、楽しい時間へ戻りたい。
なのに…どうしてこうなっちゃったんだ?



一体何が悪かったんだ?


「それはね、全てはウィザード、操真ハルトが悪いんだ」





「っ!…きゅ、キュウベぇ…?」

「やあ、佐倉杏子。こんなところで何をしているんだい?」


顔を上げると、そこにはキュウベぇがいた。尻尾をなびかせ赤い目でじっと自分を見つめていた。
「…っ…べ、別に何でもないよ……それより……ハルトが悪いってどういうことだ、おい」
「言葉のとおりさ。全ては操真ハルトが引き起こした絶望の連鎖反応なのさ」
「っ!!いい加減にしろよ!ハルトは何も悪くねぇ!!」
杏子は苛立ち、魔法少女の姿へと変身して槍をキュウベぇに向けた。何も解っていないくせに操真ハルトを悪く言ったのが杏子にとって許せなかったのだ。

しかし、キュウベぇも一歩も引くことはなかった。
自分の生命の危機に瀕しているというのにキュウベぇは喋り続けたのだ。

「なら思い出してみるんだ。君の親友、美樹さやか を永遠の眠りに誘ったのは一体誰なのか」
「っ!!」
「思い出してみるんだ、君の魔法少女の先輩である 巴マミを君から引き剥がした人物が一体誰だったのか」
「…違う!!」
「彼女達を救う為…という言い訳をして全ては自分の力の為だったとすれば…とてもおもしろい話だと思わないかい?」
「違う!!ハルトはそんな奴じゃない!!」

違うと否定していて、頭の中では最悪の選択肢が滲みでていた。…キュウベぇの言うとおりだ。悔しいが、全て事実だった。

「そう、全ての惨事を引き起こしたのはね、操真ハルトなのさ。彼さえ君の目の前に現れなかったらこんな事にはならなかった筈だ」

「違うって言っているだろ!!聞いているのか!?」

「だったらさっきのあれはなんだい?何故君より助かる見込みのあった千歳ゆま を指輪へと変えてしまったんだろうね」

「いっ……止めろ!!」

「もう答えは出ているんじゃないかい?君の中で、本当に憎むべき存在を…」


キュウベぇが視線を合わせてきた。止めろ…止めてくれ…。そう思いたくない…絶対に…ハルトは何も悪くない…。ハルトは皆の希望になるために指輪へ変えてきたんだ…。

「君はきっとこう思っているはずだよね。皆の希望になるために指輪に変えたんじゃないかって」

「っ!!」

「でもこうとも考えられるよね。自分の欲望の為に、君たちの味方だと演じきり、全ては指輪の為に行動した芝居だったと。覚えているかい?君が最初にファントムと戦ったあの時の事を…」

「…っ…」

「君を救った時、彼はこう言ったよね?君自身の為じゃない…君の持つソウルジェムのためだと!!」


…そうだ…そうだった。
なんだ…簡単なことだった。

答えなんて最初から無かった…いや、決まっていたんだ。

考えるあたしがバカだった。


「ありがとう、キュウベぇ」
「やっと解ってくれたんだね、佐倉杏子」
「あぁ…恩にきるよ」

杏子は槍を下ろし、反対側の手でキュウベぇに握手を求めた。キュウベぇはそれに気づき握手…というよりはまるで犬がお手をするように彼女の手の平に自分の手をのっけた。

「キュウベぇのお陰でやっと目が覚めたよ」
「物分りが良い魔法少女で本当に助かったよ。さぁ、次の行動は解っているのね?その憎しみを全て奴にぶつけるんだ。今こそ、復讐の時だよ!!」
「あぁ…」



全ては、最初から運命は決まっていた。
全ては、綺麗に台本通りに進んでいたんだ。

あたしは一体何を勘違いしていたんだろう。



あたしは…



「キュウベぇ…




お前が本当のクソ野郎って事がやっとわかったよ!!!!」


「えっ…っ!!?」

杏子はキュウベぇの身体をおもいっきり掴み、空中へと投げ飛ばした。その瞬間に杏子の高速の突きが全てキュウベぇへと降り注がれ地に落ちたのはキュウベぇの細切れになった肉片のみとなった。


「あたしが生きる理由…全てはハルトの為だ……今度はあたしがハルトを救う番だ」


あの時、ハルトと出会った時からあたしの運命は決まっていたんだ。

ハルトは自分の身を削ってまでみんなの為に戦ってきた。
例え、誰かに恨まれてでもハルトは全てを受け入れて悪役を演じきっていた。

だったら、今度はあたしがハルトの希望にならなくちゃいけない。
あたしはハルトを救うんだ!!


「キュウベぇ…お前が思い出させてくれたんだ。始めて出会った時の事をな…それに一つだけお前は勘違いしていることがある…ハルトは人を騙して聖人を演じきるまでの頭脳は持ち合わせていないよ!!」


杏子はキュウベぇの肉片にそう話した後、ソウルジェムを片手にもって何かの魔力をたどり歩き始めた。そんな彼女の姿を屋根の上からキュウベぇの別個体がじっと見ていた。

「佐倉杏子、君は愚かだ。自分から彼の持つ莫大な因果に取り込まれようとするなんてね。僕はもう知らないよ」

そのままキュウベぇは何処かへと立ち去っていった…。

作品名:Wizard//Magica Wish −12− 作家名:a-o-w