Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)
これは大人にガイアメモリを使わせたときよりも状況は深刻だ。
ガイアメモリには有害毒素がある。これは使用者の精神を蝕み歪ませる作用があり最悪の場合死に至るケースすらある。
感情のコントロールが不十分な未成年がガイアメモリを使用するということは、その毒の作用がより顕著に現れるということ。『死』という言葉への確率が格段に跳ね上がる。
ミュージアムでガイアメモリについて深く研究したフィリップには、そのことをただの知識ではなく実感として理解できてしまった。
そんなフィリップの悲痛な想い。
「・・・・・・」
それを叩き付けられた桐嶋に、
「知らねーんですよ、そんな事は」
その想いが届くことはなかった。
「・・・・・・っ!」
「て、めぇ・・・・・・っ!」
「・・・・・・ふん。大体、科学者がいちいち実験結果にナイーブになってどうするのですか。科学者はただ方式や結果に対して純粋であるべきもの。そうじゃなくては良いアイデアなんて出るはずもないでしょう?」
桐嶋はダブルの思いを突っぱねるように吠える。
「そして、この子供こそがその"方式"であり"結果"! 我々サイレント・キーパーの隠し玉なのです!」
桐嶋は寝台の上で相変わらす無表情なその子に後ろから抱きつく。
「この子は、―――この検体番号68番は実に素晴らしい! この子はそのあまりのパワーにミュージアムが絶対使用不可と烙印をおしたこのライトニングメモリを完全に使いこなしているっ!」
まるで自分の手柄のように声高々に話す桐嶋。
「・・・・・・まぁこのメモリのデータはのちに"T"と呼ばれる音速稼動が可能なメモリの雛型として実験・研究されたそうですが、私はよく知りませんし、あまり興味がありません」
しかしそうかと思えば、今度は捻くれた暗い様子で続きを話す。どうやら情緒が安定していないようだ。
「『音速可動』・・・・・・"T"・・・・・・・! まさかそのメモリは!」
フィリップは耳聡く桐嶋の言葉に反応し、何かに気づいたようにはっとする。
「? どうした、フィリップ?」
「『音速可動』・・・・・・"T"メモリ・・・・・・いや、それしか考えられない・・・・・・!」
ぶつぶつと考えを整理するように呟くフィリップ。
「おい、フィリップ! 何をぶつぶつ言っているんだ? お前の推理じゃこいつは俺たちダブルのメモリの原型なんだろう? 今さらそれがなんだってんだ?」
そのただならぬ様子に翔太郎は慌てて質問する。
「・・・・・・いや、違う。あれは、ダブルの原型のメモリなんかじゃない」
「何? じゃあのメモリは一体・・・・・・?」
「気づかないかい、翔太郎? 音速稼動の"T"。おそらくあのメモリは、」
「あーっと、お二人とも! 今しゃべっているのは私ですよ? 演説中の私語は控えて頂きたいですねぇ」
桐嶋は言いかけたフィリップの言葉を遮る。
「とにかく、この検体番号68番は私がミュージアムで人体実験を重ねていたときから考えても最高の作品です」
そう語る桐嶋の手は、68番と呼ばれる子供の体に伸びていき、
「まぁもっとも? ライトニングメモリの調整のための検体として、この子に対してさまざまな過酷な実験しまったので、元々少なかった感受性が全く無くなってしてしまいましたが、ね」
いやらしくその肢体を撫で回す。
「・・・・・・」
しかし、68番は眉一つ動かすことはなかった。
「ククク、ヒヒヒ、アハハハはハ・・・・・・」
その68番の様子に桐嶋はどこか感情のネジが外れた笑いをする。
すべての告白を桐嶋は嬉々としてしゃべっている。
ヴァイパーメモリの毒の副作用により精神汚染が進行している証拠だった。
さっきから情緒が不安定だったのは徐々に毒が回っていたせい。
しゃべっているうちに少しずつその精神は蝕まれ、桐嶋は本物の狂人になってしまった。
「この、外道が・・・・・・っ!」
異様とも思えるその光景にダブルは何とも言えない戦慄と怒りを覚える。
しかし当の桐嶋はその意を介すことなく、
「・・・・・・だから、いちいち実験対象に感情移入しないで下さい。・・・・・・ふん。貴方は加圧試験で壊れるまでテストされる鉄板やパイプに感情移入をするというのですか?」
ぷち。
桐嶋の人間に対してどこまでも淡白な発言に、ダブル、主に翔太郎はキレた。
「人を、金属部品と一緒にすんじゃねー!!」
ごっ!と弾かれたように部屋の真ん中へと突進するダブル。
ヒートメタルの高熱を帯びたメタルシャフトを振り回す。
猛烈な勢いで桐嶋との距離を詰める。
「ひ、ひぃぃ!」
ヒートメタルの猛烈なプレッシャーに悲鳴をあげる桐嶋。しかしダブルはそんなものには構わず、手に持つ灼熱の棍棒をその脳天目がけて打ち下ろす。
ヒュン! ガシッ。
しかしその棍棒が桐嶋の頭に直撃することはなかった。
「・・・・・・」
さっきまで置物のフランス人形のように虚ろな目で微動だにしなかった68番の生身の右手がダブルのメタルシャフトをで受け止めた。
「な!?」
「・・・・・・」
元々生身の人間を殴るつもりだったので、温度と力は調整していたが、それでも高温の鋼の棍棒。それを人間の手のひら一つで受け止めればどうなるか?
ジュウウウウウ。
肉の焦げる臭いがした。
「うおあ!?」
慌ててメタルシャフトを引っ込めようとするダブル。
「・・・・・・」
しかし68番は手を離そうとしない。子供では考えられないほどの力でがっちりとメタルシャフトを握り締めている。
「は、離れなねぇ!?」
「翔太郎、ヒートメタルを解除するんだ! 早く!」
「お、おう!」
(Cyclone!!!)
(Joker!!!)
ダブルは慌てながらもヒートメタルを解除してサイクロンジョーカーにメモリチェンジする。
ダブルの変身が完了した頃には68番が握っていたメタルシャフトは虚空に消え失せていた。
「・・・・・・」
相変わらず目に光のともらない無表情だが、その右手の皮は痛々しく真っ黒に焦げていた。
「こ、これは・・・・・・?」
ダブルは68番の理解不能な行動にただただ困惑する。
「ひ、ヒひヒ。よ、よくやりました68番! やはりいざというときのために精神プログラムにオートセーフティ機能を追加していて正解でしたね!」
危機を回避してほっとしたのか、桐嶋は狂喜してしゃべる。
「精神プログラム・・・・・・オートセーフティ・・・・・・、! まさか、その子供に洗脳手術を施したのか!?」
ダブルは桐嶋のセリフから衝撃の答えを導き出す。
「強大な力を持つ兵器には安全装置がついている。常識でしょう?」
子供を実験のモルモットととして使うだけではなく、自分たちを守るように脳ミソを弄繰り回す。
人間の倫理から外れている事柄を桐嶋はさも当然のように話す。
「なんて、ことを・・・・・・っ!」
「・・・・・・敵性No.001を確認」
ショックを受けるダブルとは対照的に68番の声はどこまでも平坦だった。
「・・・・・・これよりコンディションを待機モードから戦闘モードへ移行します。コード・Lの使用許可の承認をお願いします」
桐嶋は68番にライトニングメモリを手渡す。
「使用を許可します。・・・・・・さぁ、存分に暴れなさい。―――検体番号68番!」
作品名:Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW) 作家名:ケイス



