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「ぎゃっ!」
俺はシャアに取られていた手を振り払うようにして取り返すと、小走りでキッチンスペースへと駆け込んだ。
その後をニヤニヤ笑いながらカイさんがついてくる。
「お姫様か? ア・ム・ロ? まるで騎士が姫君に忠誠を誓うみたいに見えたぜ? 今の」
「違いますよ!! 茶化さないで下さい、カイさん」
「その通りだ。アムロは私の大切な仕える主だ。・・・ん? カイ? カイ・・・シデン??」
俺の声を追いかけるように魅惑のバリトンが耳を打ったが、その声が疑問系になる。
「おっ? ああ。俺の名前はそうだが?」
「本当は、紫電 海なんですよね。でも、そのまま言うと、第二次世界大戦の日本軍戦闘機『紫電改』みたいで嫌なんですよね〜」
「知ってて弄るなよ!」
「俺はカッコイイって思うんだけどな。お爺様が付けてくださったんでしょう? 海軍将校だった」
「だそうだけどな」
「羨ましい」
「「はぁ??」」
いきなり零れ落ちてきた溜息交じりの言葉に、俺とカイさんは声の主に振り返った。
「アムロに格好いいと呼んでもらえるなど、私にとって羨ましい以外の何物でもない」
長身を少し屈め、イジイジという言葉が似合いそうな風情で上目使いの視線が俺達に投げかけられる。
「おいっ、アムロ!? この兄さん、大丈夫か??」
「俺も不安を感じている処ですよ」
俺とカイさんは、小さな声でそう囁き合うと、耳にした内容を綺麗サッパリDeleteしようとした。
しかし、その後に続いてきた話に驚愕し、そのまま簡単な朝食を作ろうとした手が止められた。
「ララァにカイ・シデン。アムロの周りにあの時代に存在したメンバーが揃っている事に、どんな意味があるのだろうか」
「シャア・・・。それ・・・ほんとうか?」
「それ、とは?」
「あの時代に存在したメンバーが揃っているって・・・」
「昨日聞いた隼人という名前の仲間がいたと記憶している」
「えっ? 俺は昔もアムロと一緒に居たって言うのか?」
「ああ。アムロの陣営で、私とは敵同士だった。ララァは中立の立場・・・というより、若干私寄り・・・だったな」
「へぇ〜。じゃぁブライトさんは? 未来さんも居た?」
「ブライト・ノア、ミライ・ヤシマはアムロの陣営だ」
「じゃ、聖良さんも?」
「カイさんの憧れのマドンナですよね」
「うっせ!」
「セイラ?・・・アルテイシアの事か?」
「アルテイシア?」
「ああ。セイラという名は、アムロの陣営に入った時の名前で、彼女の本名はアルテイシア。私の妹だった」
「「ええっ??」」
「増田 聖良様は貴方のような金髪碧眼ではありませんわよ」
ビックリしている俺達と逆に、ララァが淡々と言葉を挟んできた。
「それはそうだろう」
シャアの方が、その差異について違和感を持っていないらしい。
「同じ様な名前で存在していても、全く同じ人間ではあり得ないのだ。生きている世界が違うのだからな」
「でも、何でなんだ?アムロの周辺に、前の時にも居た人達と同じ名前の人達が集まっているのは・・・」
「平行宇宙?」
ぽっと頭に浮かんだ言葉を、俺は口にした。
「平行宇宙? この世界にはいくつもの世界が存在し、そこには同じような人達が存在しているが、世界同士が干渉しあう事は無いってやつか?」
俺の言葉にカイさんが反応した。
「うん。でもって、昔の俺とシャアは、宇宙を航行中にその平行宇宙の壁を越えちゃったんじゃ・・・ないかなぁって」
「だから、アムロの中に私のアムロの魂が存在している・・・と?」
「えっ? じゃあ、この世界のこいつも実は存在しているかもって事か?」
カイさんが発した言葉は、本日二度目の驚愕を俺に与えた。
2011/08/25