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終章


「ここに横に休んでくれたまえ」

シャアにリードされるような形で、オレはリビングのソファーへと誘導された。

「えっ? 横に・・・なる必要・・・あるのか?」
俺は先ほどまでの会話が影響して、シャアの前で無防備な格好をとる事に抵抗感があった。
「私の脳をアムロの脳に接続する様な事をするのだから、どんな衝撃が生じるか判らないだろう? 危険は回避した方が良いと思うのだ」
「・・・・・・解ったよ」
俺は渋々、ソファーに横になった。
途端に、秀麗な顔が近づいてくる。
「うわっ!」
「動かないでくれ! 怖いなら目を閉じていてくれれば良い。数分で終わると思うから・・・」

驚きのあまり顔を逸らした俺の頬を両手で押さえると、シャアはそう説明した。
「・・・・・・りょ〜うか〜い」
取らされた姿勢にガチガチになった俺は、不覚にも声を震わせてしまった。
「大丈夫だ。先ほども言った様に、同意も無しに事におよぶ趣味は無い。純粋に君の中のアムロの意識に接続するだけだから・・・」
優しく諭すようにシャアは言うと、目蓋を下ろして俺に近づいてきた。

“近くで見ても綺麗な面だな”

頭がその考えにだけ集約していただけに、いきなり加えられた電撃のような衝撃に、一瞬にして俺は昏倒した。


 俺が意識を取り戻したのは、日差しがすっかり中天に昇ってからだった。
「・・・な・・・に・・・?」
声を出そうとして、酷く体力が落ちているのを自覚する。
「アムロ! 気が付いたのね!?」
ララァが少し離れた所から声をかけてくれたのだが、そちらへ頭を動かすのを一苦労の状態だ。
「良かったわ。シャアさんも意識を無くしてしまうし、アムロはいつまで経っても目覚めないから、救急車呼んだ方が良いかしらとカイさんと相談していた所なの」
「だいじょぶか? アムロ。奴は2時間前位に意識を取り戻したんだがな、えらいこと落ち込んでしまってて、話になんねぇんだわ。お前さんは何か判ったのか?」
「・・・いや。・・・で? シャ・・ァ・・は?」
「事務所の面談スペースでほとんど蹲ってますの。幸いな事にお客様がお越しにならないからいいものの、知らない人が見たらウミウシかアメーバーがそこに居るかと思う位にジメっぽくなってますわ〜」
「うっ・・・わぁ〜。見たく・・・ない」
「だが、お前さんが意識を取り戻してくれたから、少しは浮上するんじゃないかな」
「・・・・・・ごめん、カイさん。俺を・・・シャアの所へ・・・連れて行って、くれるかな」
「だいじょぶかぁ? 何だか、息切れしてるしさ。顔色、あんまし良くねぇぞ」
「何とか、しないと・・・シャアの、ネガティブ・・・状態が、周囲に・・・影響、およぼしそう・・・」
「マジかよ!!」
「私達は、なんとも無いのよ?」
「人・・・にもだけど、コンピューター・・・関連に、影響・・・出そうなんだ」
「それ! やばいんじゃ!?」
「頭脳・・・が、極限まで、機械化されてる・・・だろ? ウイルス・・・ってわけじゃ無いけど、悪影響・・・出し始めていると思う」
俺の言葉にカイさんの表情が強張り、俺に肩を貸すと事務所へとゆっくりと歩き出してくれた。


 事務所の面談スペースにあるソファーに、生ゴミが蹲っている・・・

“としか見えないなぁ〜。確かに・・・”

両手で頭を抱え込み、それを両膝の間に押し込むというとんでもなく息苦しそうな姿勢をしながら小さくまとまってしまった美丈夫は、先程までの自信溢れた男ではなくなっていた。
俺はカイさんに、目配せでシャアの足元に俺を連れて行ってくれるように伝えた。
軽く頷き、カイさんはそっと俺をシャアの前に座らせてくれる。

「シャ〜ア?」

俺は囁くような声で名前を呼ぶと、膝と一緒に頭を撫ぜる。すると、丸まっていた身体が、ピクリと揺れた。

「何を、見たんだ? 残念ながら、俺には全く解らないんだが・・・。あんたが、そこまで落ち込むような事だったのか?」

頭を撫ぜながら言葉を連ねていると、膝の間から嗚咽が零れ、床にポタポタと涙が丸い跡を刻み始めた。
「・・・わたしは・・・わたし・・・は、・・・愛する方を・・・守れ・・・なかっ・・・た。なぜ・・・なぜ、あんな・・・事・・・」
頭にあてられていた指に力が入り、髪を毟り取りそうなほどに関節が白くなる。
「お〜い? 禿げるぞ〜」
脱力系で声をかけ、俺は指に手を添えた。
途端に、指が絡まってくる。
そして、一方的にシャアから情報が流れてきた。

「・・・・・・。ああ、そっか〜。・・・・・・でも、仕方なかったんじゃないかなぁ〜」
「なんだよ?」
理解した様な俺の言葉に、榧の外状態のカイさんが質問してきた。
作品名:A I 作家名:まお