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「うん。どうやら、前の俺は、一度覚醒した後に、殺されたらしい」
「「殺された!?」」
発せられた内容に、ララァとカイさんが驚愕する。
「うん。地球に墜ちた時に、運悪く俺は船外へ放り出され、シャアと離ればなれになったみたいでね。仮死状態になった段階で発掘されて、その時に・・・一度覚醒したんだけど・・・。カプセル状態に戻った時に、どうやら、宝飾品的価値から、宝石を削り取られて、死んでしまったんだ」
「「ええっ!?」」
「あの宝石は、彼らの命の結晶・・・みたいな物だったんだ。地球上の宝石と同じだから、そういった目でしか見られなければ、当然といえば当然なんだけど・・・ね」
「では、シャアにはどうしようも無かったのではないですか?」
「そうだよなぁ。離ればなれになってたんじゃ・・・」
「だとしてもっ!! 何故、真っ先に見つけ出せなかったのかっ! 見つけ出せていれば、アムロとはぐれたまま、こんなに長くさすらう事も無かったのだっ!!」
しょうがないじゃないかと言う我々の意見は、シャアには容認出来ない事らしい。伏せていた上半身を猛烈な勢いで起こすと、真っ赤になった目蓋からぼたぼたと涙を零しつつ叫んだ。
「わ・・・私が目覚めたのは、10世紀の欧州だっ! つまり、落下して直ぐに、私は目覚めたのだっ! その時に、直ぐにアムロの気配を探って見つけていればっ・・・。アムロを独りで死なせる事も、無かったであろうにっ!!」
シャアは泣きじゃくり、秀麗な顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。
「・・・まったく〜。百年の恋も褪める顔だな」
俺は俺より数段ガタイのでかい男を、甘やかしてやりたい心境になった。
それ位に、シャアの顔は幼い印象を俺に与えたのだ。
着ていたシャツの袖を少し引っ張ってから、シャアの顔をそれで拭う。
シャアも意外な事にそれを甘受した。
「あのさぁ、過ぎてしまった事を今更悔やんでも変えようが無いんだぜ? 事実は事実として記憶して、これからをどう生きるか考えた方が建設的なんじゃないかな。俺の中のもう一人の俺も、シャアを恨んでなんかいないぞ。起こった事はそれとして受け入れているみたいだからな」
「それは、解っているっ! 記憶を遡って見た時も、アムロは淡々と事実だけを差し出してきたからな。だが、私がその事実を許せないのだっ! 愛し、愛された方を守れもせず、みすみす地球人の手によって殺されるような目に遭わせたのだからっ!!」
「それも、しょうがないんじゃないか? 宇宙船が地球に墜落した時に、前のアムロだけ船外に出ちまったんだから」
カイさんが慰めの言葉で援護してくれた。
が、シャアはその事故も、自分の設定ミスが原因だと悔やむ。
「ああっ! 私はどうしたら・・・」
「なら、今の俺を守ってくれよ」
「「「アムロ?」」」
「俺の中には前のアムロの魂も入っている。輪廻転生ってやつかもしれないけど、今の俺を守る事は、過去の俺を守る事に繋がっていると思うんだ。それで、シャアが抱く罪悪感が軽くなるんじゃないか?」
何を言われたのか判らないといった表情で俺を見つめるシャアは、本当に純粋な心の持ち主だと感じる。
自分の全てをかけた相手を己のミスで失った事実は、彼の存在価値すら危うくする。
ならば、現時点での存在価値を与えてやれば良い。
そうすれば、彼は生きる意味を持てるのだから・・・
「昨日言ってたよな。俺の身の回りの世話を全てみるって・・・。その中に身辺警護も入れればいい。まぁ、命を狙われる様な事は無いって今朝も言ったけど、それでも警察依頼の案件は対象が暗部の事柄だから、全く安全だとは言い切れないってのが真実だ。だから、SP的な事を追加する。いいね?」
俺は確認を取るような言い回しをしつつ、拒否は受け付けないつもりでそう告げた。
シャアは俺をじっと見つめ続けている。
俺もシャアから視線を外さないで答えを待った。
その時間が数分だったのか数秒だったのかはわからない。
だが、シャアが座っていた椅子からするりと滑り降りると、俺の両手を捧げるように持ち上げ、その甲に唇を触れるか触れないかのぎりぎりまで近づける。
そして、吐息と共に決意を告げた。
「貴方を何者からであろうが守り通すと誓う。それで、私の罪を赦してください」
伝わる熱が俺の背筋をザワザワさせ、鳥肌が立った。
「『赦すよ。そして、その命と力を俺の(私の)為に使ってくれ。それが償いだ』」
俺の口から二人分の声が零れ落ちた。
だが、もう一人のアムロからの言葉に、シャアはくしゃりと顔を崩した。
それは、後悔と喜びという相反した感情が溢れたものだった。
「了解だっ!!」
そう言うと、シャアは全身で俺を包み込み、抱きしめた。
この時から、俺の仕事の現場には、必ずシャアが付き従うようになり、ララァは事務所に常駐する形となった。
そして、シャアの能力のお陰で、危険性は皆無となり、実務速度も急速に上昇した。
当然、收入は増え、ララァを楽させてあげられるようにもなって喜ばれた。
俺の名前はアムロ・レイ。
ミステリーハンターと称するものを生業としていた。
今は、IT関連の仕事をしている。
主に、人工知能搭載のロボット開発だ。
その強力なサポーターはシャア。
俺の同士にしてSP
そして、もしかしたら、いつかは・・・・・・
fin
2011/09/05