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 事務所に着くと、俺達はいの一番に入浴する事を選んだ。
とは言え、事務所にそんな設備は無い。シャワー室があるだけだ。
事務所の奥にある自宅スペースの浴室をララァにゆずり、俺とシャアは近所にあるスーパー銭湯へと向かった。

「随分と便利な施設があるのだな」
シャアは物珍しそうにきょろきょろと視線を動かしていて、それが案外可愛く見えて俺は笑ってしまった。
受付から脱衣所へ向かいながら話をする。

「昔は銭湯って言ったら、脱衣所と風呂場しか無かっただろ?一町に一個はあって、町内の全員がそこに集まって一日の汚れを落としながら雑談をする。そんな施設だったと思う」
「そうか? 私はこんな形(なり)なのであの屋敷から出た事はほとんどないし、世間一般の庶民と会う機会も無かったな」
「うっへぇ〜。セレブ限定の生活かよ」
「身の回りの世話をする専属の侍女が付けられていたし、その者も私の事を公言出来ない様に聾唖者が選ばれていた。外に出る時は馬車か自動車…ああ、輿だった事もあったか」
「はぁ? 輿?? いつの時代なんだ? それ」
「私がこの世界に落ちて来てから、世界中を移動したからな。いつの時代だったかなぞ覚えてはおらん。……だが、時間が経ちすぎて過去の記憶(メモリー)が曖昧になってきているのだと、今回の君との出会いで実感したよ。本来、あってはならない事なのだがな」
「ははぁん。老人性のボケかもな」
「ボケ? なんだ、それは。…なんだか判らんが、馬鹿にされたのだろう事だけは理解出来る」
「アハハ。さて、浴室へ行こうぜ」

俺は脱衣所で埃まみれの洋服を脱ぎ、タオルを腰に巻くと浴室へと向かった。
シャアも即席で作った民族衣装の様な洋服を脱ぎ、俺と同様にタオルを腰に巻いたが、どう見積もっても浮き気味であることは否めない。
実際、このスーパー銭湯へ来るまでにも凝視されたし、受付の女性職員はうっとりして会計を間違えかけるし、脱衣所で出会った男性の多くは、シャアに見とれるあまりロッカーや扉、行きかう客同士で衝突を繰り広げている。

「はぁ〜。確かに外に出さない方が世間のため…かもな」
ぼそっと呟いた言葉はシャアには聞き取れなかったようで、聞き返そうとしてか俺を覗き込んだ。
と、シャアの顔色が大きく変わる。

彼は俺の右肩を凝視していた。

「なに?」
「その、右肩の痣は?」
「ああ、これ? 生まれた時からあるんだ。痛くも無いし、拡大するわけでもないからいつもは忘れてるんだけど…。それがどうかし…たっ!?」

俺の右肩には直径1?くらいの赤い痣が存在している。若干ひきつれた感じに見えるが、一向に支障は無い。
それがシャアには非常に気になる物らしい。指で触れてくる。
その触れ方がまるで壊れ物を触るかのようで、くすぐったいような恥ずかしいような感覚を起こした。

「ちょっ?! なんなんだよ」
「ああ……。君はまさしく私の唯一無二の愛しい方だったのだな」
「はぁ? なにそれ」
「君のその傷と対をなすものが私にある。これだ」

シャアはそう言うと、額にかかる金糸を無造作に掻き上げた。そこには眉間に斜めに走った傷跡があった。深く傷付いたのだろう。血色は無くても痛々しく見え、俺はつい眉間に皺を寄せてしまった。

「思い出したのだよ。この額を君の剣が突き刺し、私の剣が君の右肩を貫いた。そして、致命傷になりうる傷を受けた私は、君に仕える事を使命とする立場になったのだった」
過去を懐かしむ表情で俺の右肩を見詰めるシャアに、俺は居心地が悪くなりだした。

「仔細は事務所に帰ってから聞くよ。まずはさっぱりしよう。こんな所でほぼ素っ裸の状態で立ち話もなんだし…」

俺は視線を振り切るようにして浴室の扉を開けると、シャアを無視して洗い場で頭の先から足までボディシャンプー一本で無造作に洗い出した。
シャアも俺に遅れることなく隣に座ると、備え付けのシャンプーやコンディショナーの取り扱いを読みながら、髪を丁寧に洗った。そして、ボディシャンプーに手を伸ばしかけて、俺の洗い方に不満の声を上げた。

「アムロ。そんな洗い方をしては髪が痛む。おまけに身体の洗い方が雑だ」
「俺はいつもこんなだよ」
「冗談じゃない! 私が傍近くに戻った限りは快適な生活を営んでいただく」
「俺はこれで快適なの!」
そう言ってシャワーで流して浴槽へと行こうと立ち上がりかけて、シャアに引き止められた。
「私が洗う」
「ちょっ! そんな必要は…」
「髪も身体も全て、私に任せたまえ」

そう言うなり、シャアは俺を椅子に座らせ、背後から頭を洗い出した。
「上を向いて…。目は閉じていて…そう…」

柔らかな指が頭皮をマッサージする様にしながら洗っていく。それが存外気持ちよく、俺はつい満足げな溜息を吐いてしまった。
その溜息に気づいたシャアがクスッと笑ったのが判ったが、反発する気も起きない。
「ご満足ですか? 痒みの残る場所は?もう少し洗って欲しい場所はございますか?」
傅く様な言葉を発するシャアと、それを甘受する俺の関係が周囲の人には理解しかねるのだろう。俺だって『逆なんじゃ?』と思うから。
だが、シャアは身体を預けるようにしている俺に嬉しそうにしながら、優しく洗髪しトリートメントを施すと、ボディシャンプーをタオルで充分泡立てて、項から背中を、少し力を入れながら擦ってくれる。そうされると、首から肩、背中が凝っていたんだと実感する。

「きもちいい〜」

泡を流すシャワーの温度もあて方もツボを抑えていて、あまりの気持ちよさに俺は身体の芯が抜けてしまったようにふにゃふにゃになってしまった。
力の抜けた俺を、シャアは抱きかかえるようにして浴槽へと運んでくれた。流石に姫抱っこはされなかったが、浴槽へと俺を誘導して縁に頭を預けるように整えるシャアが、膝を着いて世話をしてくれた事に、申し訳ない気持ちになった。

「ごめん。あんたの身体を洗うのが途中になっちゃったな」
「構わない。君が気持ちよくなっていてくれた事で、私は充分満足している。そのままゆっくり浸かっていたまえ。その間に私は身体を洗ってこよう」

俺の前髪を掻きあげて落ちてくる雫を止めると、すっくと立ち上がって元の洗い場へと戻っていく。
その後姿にしろ、先ほどまで目の前に存在した男性の象徴にしろ、全てが理想の体形だ。

「ほんと、逆の立場……だよなぁ」

俺はなんとなく脱力し、お湯の浮力に身体を任せた。
                          2011/07/27
作品名:A I 作家名:まお