destin ③
それから30分もしないうちに、一台の外車が入ってきた。
言わずもがな、運転席にはサングラスをかけたサンジ。
助手席にはいびきをかいて爆睡しているゾロの姿が。
突然、この場に不釣り合いな外車が入ってきたことに周囲の人は驚いていたが、当の本人達はお構いなしである。
寝ているゾロを叩き起こすと、サンジは颯爽と車を降りた。
まだ眠そうなゾロがあとに続く。
庭を前にして、サンジは感嘆の声を上げた。
「これがいわゆる『ニホンテイエン』か!風情があるなぁ」
「テメェにも風流を解する心があったのか」
「あぁ、毎日マリモを見て目を肥やしてるからな」
「………」
からかうつもりが呆気なく切り返され、ゾロは思わず閉口した。
サンジはサングラスの奥の碧い瞳を揺らしながら、高笑いする。
「俺に勝とうなんざ百年早い!」
「…さっさと師匠に挨拶行くぞ」
「なぁ、後輩と有名人はどうした?もう来てんのか?」
サンジはぐるりとあたりを見渡すが、それらしき人物は見当たらない。
「道場に行ってんじゃねぇか?もうじき試合始まるし」
「何だと!急ごうぜ」
「おう」
この時、ちょうど平次と新一は師匠への挨拶を終え、道場に向かっていたので、サンジとゾロとは入れ違いになってしまった。
師匠から、彼らならさっき出て行ったよ、と聞かされたサンジは心底落胆した。
「んだよ~。もちっと早けりゃ会えたのに」
「また後で会えんだろ」
「でもよ、…つかテメェがもたもたしてっからだ!」
「お前が運転中に『うお!美しいレディ発見!』とか言って余所見ばっかしてるからだろうが!」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて」
睨み合う二人を見て、師匠が慌てて止めに入った。
細身のサンジを見て、ゾロと喧嘩するには些か無謀すぎる、と思ったらしい。
「試合はもうすぐ始まるから、ゾロも着替えて来なさい」
「…はい」
師匠の言葉に仕方無く席を立ったゾロとサンジに、というよりなぜかサンジに、師匠は声をかけた。
「サンジ君、道場は突き当たりを右だ」
「わかりました。行くぞマリモ」
「あぁ。………って、俺も道わかるんだが」
部屋を出た後、頻りに首を捻るゾロを見て、サンジは頬を緩ませた。
「そりゃお前…」
サンジの言葉の途中で、突き当たりを曲がるゾロ。
しかし、彼が向かったのは
「…が方向音痴過ぎるからだ。右って言われただろうが!何で左に曲がるんだよ?!」
「え」
…なぜか左だった。