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Fate/fiction in library

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『違うよ、違うんだ。この娘はね、見つけた時にはこうだったんだ。
 ボクはやってない。ボクは悪くない』
 青年は螺子を踏むのに飽きると、ランサーのほうに向き直り、だらりと横たわるその顔にふりかぶり、蹴りあげた。
 数センチ身体が浮き、白いなにかが三つほど宙を舞い、少し離れたところに仰向けになって大の字になる。
 続いて青年の手には、ランサーを貫いた大きな螺子が握られ、横たわるランサーのマスターの胸に突き立てようと構えている。
 苅音はハッとし、震える足に力がこもる。
「やめろ!!」
 叫びとともに、階段を掛け降りる。
 視界の外で青年がにやりと笑ったのも気づかずに。

     ◯

 夢夜美邸一階はまさに螺子の針山であった。
 寸前でセイバーに止められなければ自分も餌食になっていた。しかし、そのせいでランサーとそのマスターは抵抗もなく螺子の餌食になっていた。
「あ……あ……??!!」
 無数の螺子で貫かれ、天井近くまで持ち上げられた二人は、糸の切れた人形のように力ない。
 そこには、学ランの男による高笑いの鎮魂歌が奏でられている。
「――」
 言葉にならない。怒りや悲しみや絶望や逃避が脳内で巡り巡って行動に移れない。
 唯一紡げた言葉は、セイバーが代理した。
「一体、なにがおかしいのですか?」
 言葉に抑揚は皆無であったが、故にそれが怒りを示していた。
 青年は瞳に雫を浮かべながら、未だ笑いながら告げた。
『――だって、血も出てないのに死んだなんて勘違いしてるみたいだからさあ……』
 それは、
『どういう意味かって? それは答えられないなあ……。でも、間違いなくふたりとも生きてるよ。いや、生きてても意味があるとは限らないけど』
「あなたは、ライダー……ではありませんね。昨晩のがアーチャーでしょうから、あなたはアサシンですか」
 セイバーは消去法で述べているが、ここ一体の結界はセイバーとリンクしている。つまり、セイバーの過敏な神経と結界の二段構え。なのに、気づけなかった。
 可能性はひとつある。それは、”気配が一切存在しない”だ。
 とは言っても、アサシンとはいえ、完全に気配がないということはない。息遣いや歩行、空気の流れなどで気配が生じないなんてことは有り得ない。でも、有り得たのなら、有り得るのは限りなく有り得るアサシンくらいのものだ。
 アサシンと呼ばれた青年は、んーと鼻を鳴らし、考えた末に、
『それに答えてなにかメリットあるの?』
「いや。ないが、わたしの質問に意味のあるその回答はつまり、貴様が敵であり、サーヴァントである証拠になる」
 青年はまた笑い、
『騙したねえ? 君はなんて卑怯なヤツなんだ』
 告げ、次の段階では胴から一閃、真っ二つに薙ぎ払われていた。
 螺子を構えていた両腕は力なく緩み、腰から切断された断面には背骨と内臓と肉と死亡がはっきりと苅音にまで見えた。
 一瞬の出来事で、吐き気も沸かない。本当に一瞬の出来事だった。
 螺子の針山はセイバーが地面に足をつけるより先に崩れ去り、高く突き上げられたランサーとそのマスターは落下する。
 セイバーはそれを見上げて、すぐに受け止める行動に移る。
 右肩にはランサー、左脇にはマスターを抱え、優しく地面に降ろす。
 ランサーの螺子は付いたままであったが、見る限り生命活動に支障はない。力づくで抜いてもいいかどうかはわからないが、とりあえず今は保留でいいだろうとセイバーは判断する。
 それよりも、とセイバーは向き直る。死体の処理。これはセイバーが英霊ではなかった時も悩まされた要因だ。
 やれやれどうしたものかと思いながら、振り返ると、そこには螺子を両手に立つアサシンが居た。 
 にんまりと笑みを浮かべ、螺子を振りかざす。
 しかし、セイバーは怯まず腰に提げた太刀の抜刀からの居合で切断する。
 今度は脳、首、心臓、腹、足、足首。計六ケ所を一瞬で切り捨てる。
 バラバラの肉片になったアサシンを、遅れて来た激しい動悸と息切れを収めようと深呼吸をし、見下ろす。
 一体なんだったのか。不死身なのか。不死なのか。
 わからないが、見下ろしている肉片は一体になろうとする動きもなければ、再生する様子もない。
 何度も凝視し、観察し、念の為より細かく刻み込んでみる。しかし、やはり、なにもない。
 ふう、と溜息をつく。どうやら一度だけの復活らしいと自分を納得させ、ランサーとそのマスターのほうに向き直る。
 セイバーは屈み込む動きで、一瞬だけ、少しだけ後方を捉える。そこには、

 肉塊は無く、二つの黒い脚が地面に直立していた。

 セイバーはすぐさま後方に向き直り、居合の一撃を食らわす。
 掴みかかろうとアサシンが前のめりになっていたところからの横薙ぎ。寸でで躱されたが、先行していた右腕はもらった。
 無残に切り捨てられ、宙を飛んで地面に落ちる。
 後方に薙ぎを放ち、アサシンとの距離を保つ間に、アサシンの悲鳴と笑い混じった耳障りな声が聞こえた。
 ぼたぼたと血を垂らし、頭を俯かせて喉を鳴らし、肩を震わせている。
 左手を傷口に添え、バラバラになった学ランが光に包まれ、縫い付けられる。
 左手で傷を撫でながら、笑みを絶やさず、アサシンは尋ねる。
『どうしてこんな酷いことをするんだい』
 その言葉の次には、添えた左手は右手首から、指先へ。ゆっくりともったいぶるように新たな右手を曝け出す。
『ボクは悪くないのに』
 未だアサシンは善悪を問うた。
 セイバーは潰えると信じた悪を滅し、悪は潰えないと言わんばかりに、アサシンは幾度も死に続けた。

     ◯

 撤退の判断はアサシンが死ぬ度に散らした血が部屋一体に水たまりになるまで降されずに居た。
 それは、二度目の撤退であった。苦渋の決断であった。
 当初、セイバーのサーヴァントを得て、そのセイバーのステータスと真名を知った時、自分の勝利が夢絵空事ではないことに歓喜したものだった。
 しかし、今。拠点になんなく攻め入られ、連れ二人を負傷させ、そのサーヴァントを倒すことも出来ずに二度目の撤退の最中だ。
 下唇を噛む力は必然的に強まる。血が滲み、臭みの強い血液の味が口を覆う。
 抱き駆けるセイバーの胸を拳で叩き、年頃の女の子には相応しくない侮蔑の言葉を、自身に吐き捨てた。

 
作品名:Fate/fiction in library 作家名:ROM勢