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Fate/fiction in library

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 弦技の目には、夏のような蒼い空よりも揺蕩う黒みのかかった雲と北の山に掛かる入道雲のほうに視線が向かった。

     ◯
 
「おはようございます。マスター」
 早朝の挨拶を告げるセイバーは薄緑色を基調にしたロングスカートのメイド服に白のエプロンを着けている。昨晩、ランサーとの激戦を繰り広げた剣士と同一人物とは思えないほど柔らかで、優しそうな表情をしている。
「似合ってるわね。セイバー」
 このメイド服はこの家にもともとあったものだが、選んだのは苅音だ。武人かと思いきや、調理洗濯もそれなりに熟し、気配りも出来るあたり、有能さは計り知れない。
 セイバーは苅音の言葉に眉根を寄せた苦い笑いを作り、使い魔ごときに世辞など不要ですよなどと言った。
 謙遜する彼女も可愛らしい。
 既にご飯と煮物を並べてあるテーブルに座りながら、セイバーに尋ねた。
「もしかして、お気に召さなかったかしら」
 しかし、武人であることには変わりないのだから、もしかして、身体の動きを制限しがちなメイド服は嫌だったかもしれないなと少し気に掛かったが、セイバーは首を横に振り、
「いいえ。ですが、あまりこういう服を着ることがないので、ちゃんと似合ってるかどうか……」
 かき混ぜていた鍋から味噌汁をおわんに注ぎ、輪切りにしたネギを散らす。ネギの爽やかな香りと味噌の食欲をそそる深い香りが心地良い。
 味噌汁を注いだお椀二つと、自分のご飯をお盆に乗せて運ぶセイバーに、やっぱり似合っているわ。と言い、自虐の構えに入ったセイバーに間髪いれずに、
「お世辞じゃないわよ?」
 と言い、微笑む。これで本心が伝わったかなと思いながら、今度は苦笑いではなく、頬を朱に染めた照れ笑いを浮かべる姿にほっとする。
「ま、マスターのほうが可愛いですよ……」
「そう? ありがとう」
 セイバーもお盆のおわんを苅音の前に置き、テーブルにつく。ほっと息をつき、手を合わせて、食事の挨拶をする。
 苅音も後を追って、いただきますと言い、箸に手を持ち、セイバーを見つめた。
「昨日の傷、大丈夫?」
 味噌汁を啜りながら問われたので、きちんと咀嚼し、飲み込み、口を拭うまでの間の沈黙をおいて、セイバーは答えた。
「問題ありません。逃げる最中に負った脚部の傷はマスターの治療もあったので、すぐに完治致しました」
「そう、それなら良かった……」
 セイバーは顎に手を添え、少し思案してから、言った。
「マスターは――自分の治癒魔法に自信を持っても良いと思います」
 治癒魔法は、各々のマスターに事前に常備されている基本魔法だ。
 方法は簡単で、傷に対して手を翳し、回復するように念を送るだけでいい。
 もちろん、それが近ければ尚良いし、触れてもよい傷なら、触れたほうが治りが速い。また、集中力にもそれは比例する。
 まだ、セイバー陣営は知らないが、それぞれのマスターに与えられる魔術練度と魔術属性によって治癒魔法の効力は大きく上下する。
 苅音の場合、魔術練度はマスターの中でも指折りで高く、魔術属性は、二つある身体能力強化とエネルギー系魔術攻撃類のうち、治癒魔法の向上に影響する後者に属する。
 そのため、苅音の治癒魔法は七人の全マスターのうちでは圧倒的に優れている。
「――私自身、傷の治りは速いというか、異常なほうですが、昨晩の治療の時点で、ほぼ治りきっていました。脹脛のほとんどを損傷していたのに、ものの三十分で傷を塞ぎ、肉を再生させる治癒魔法――これは十分に武器となりうる要素でしょう」
 セイバーの分析に、なるほど。と思う。時間を経っていなかったので、三十分程度で傷を癒し切ったのは自分でも驚いた。
「魔術においても、戦闘においてもセイバーに劣るようなわたしでも、セイバーの役に立てそうなことが見つかって嬉しいわ」
 そう告げて、まだ朝食に手もつけてないことに気付く。
 まだ熱いうちにと味噌汁の注いであるお椀を両手で優しく持ち上げる。豆腐とわかめの定番な味噌汁だ。
 ひっそりと口をつけ、一口飲む。
 お椀を置き、向かい合うセイバーに一言。

「味薄くない?」

 唖然としたセイバーは持っていた茶碗を置き、急いで味噌汁に口をつけ、一言。

「濃く……ないですか?」

 姉妹のように仲睦まじい二人に奇妙な沈黙が流れた。
 
     ◯

 朝食を終え、少年の眠る自分の部屋に戻ってから、空いている窓を見て、ガラリとした部屋に、ようやく少年がいなくなっていることに気がついた。
 もちろん、家中探し、セイバーにも協力してもらったが、結局見つからなかった。
 おおよそ察しはつく。きっとランサーを探しに向かったのだ。もしかすれば、自分の懺悔を聞いていたかもしれない。紅潮し、掻き乱れる精神を落ち着け、分析する。もしそうなれば、一番先に向かう場所は戦場になった学園か。
 苅音はセイバーに外出の準備をするように伝え、自分も準備にとりかかる。
 今、サーヴァントの居ない少年はあまりに危険だ。
 いつか敵になる相手とはいえ、今の苅音には見捨てることは出来なかった。
 自分の部屋に戻り、掛けていた外服に着替え、手袋を嵌めて玄関への階段を降りる。
 階段の中腹。八段か九段のあたりで、それは起こった。

 強烈な破砕音で、玄関である大きな戸があたりの壁ごと抉り破られたのだ。
 破砕音の後にすぐに見参した戦闘服のセイバーは隣で腰の太刀に手をかけ、苅音の前に立つ。
 視界を遮る粉塵が消え、そこには三つの影があった。
 一つは粉々に砕けた扉や石などの上に横たわる――否、螺子によって、地面に打ち付けられている白髪の騎士。
 二つは黒の学ランの短髪の青年。
 三つはその学ランの男に担がれ、ぶらりと手足を提げるカーディガンを羽織った男――あれは、ランサーのマスターだ。
 ということは、つまり――?!
 一つ目の影に視線を直る。石が砕け、粉になって舞い、はっきりと見えないが、それは確かに――白髪ではあるが、角のような簪で止められたポニーテール、襟のように首を隠すプロテクター、白の競泳水着の下に着た黒の半袖のシャツ、二の腕から手まで二つのガントレットが覆っている。――ランサーだ。
 苅音が敵が誰なのかを把握し、ようやく二つ目の影は口を開いた。
『おはようございます。宅配便です。おとどけものでーす』
 ケタケタと気味悪く笑うその男は、左肩に担いだランサーのマスターをランサーの上に放った。
 がしゃりと音を立て、ランサーのマスターはそれ以上の動きはない。完全に気をうしなっている。
「あなた、誰?」
 苅音のその質問に青年はへらへらと笑い、
『だーかーらー、宅配便ですってば』
「ちゃんと答えないと殺すわよ……?」
『ハッハッハ、ひっどいなあ。折角おとしもの拾ってきたのに』
 そう言って、男はランサーに打ち付けられた大きな螺子に足を掛け、踵で地面にさらにねじ込む。
 横たわるランサーから、肺から空気を抜かれるような音のない悲鳴が生まれた。
「おい!!」
 苅音は行動を制したかったが、足がすくんで動けない。声しか出せない。
 それを青年は見透かしているのか。ふふふと鼻で笑ってこちらを見て言う。
作品名:Fate/fiction in library 作家名:ROM勢