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Fate/fiction in library

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Episode.2 剛拳の介入



     ◯

 夢夜美苅音は極普通の女子高生だ。
 少々中国拳法や戦闘術、合気道などを心得ているため、肉体は普通のそれとは違うが、思考回路や発想、哲学、倫理は普通のそれだ。今までの猟奇的な発言は、相手に付け入る隙を与えないというほんの僅かな工夫でしかなかった。
 しかし、それでも覚悟はしていたはずだった。殺すことに躊躇わないように、何度も何度もイメージしていた。
 だから、大丈夫だと、本心でそう信じていた。だが、狙っていた少年が崩れ落ちて行くとき、思わず手を差し伸べようと地面を這う自分が居たことに、気づいた。

 彼になにか特別な思いれがあったことではない。マスターとサーヴァントを探すために山まで捜索に行ったら、セイバーが近くに居ると言うから、夜を待ち、襲撃したのだ。
 願っていた死を目の当たりにして、苅音は虚無感に続いて、せめて殺してあげたかったと思った。
 せめて、恨みや妬み、嫉妬や復讐心に煮えたぎる不浄の心に殺されるべきだったと思った。
 それでなくとも、同情や思いやり、なんでもいい。せめて、せめて、せめて、なにか強い感情を持って、その命を断たせてあげたかった。
 そうあれば、少しくらいは意味のある、理由のある死にはなったと思った。
 ああやって、なんの毛もなしに死んでしまうような、そんな間抜けた末路を辿るのはあんまり過ぎた。
 四つん這いの状態から、いつまでも立ち上がれずに居た。やがて、屋上のざらざらと乾いた床にシミが垂れた。
 泣くな。泣いちゃいけない。自分に泣く理由なんてない。
 あの少年の死は、そんな軽いものじゃない。見ず知らずの女に、勝手に意味もなく泣かれるようなものじゃない。
 この涙は、死を悼むものだ。
 誰かが死ねば勝手に生まれるものだ。
 そんな涙は不浄だ。不潔だ。不謹慎だ。
 彼の存在は、意味があったものであるはずだ。彼は、ここまで来たのだ。余程の意思と覚悟の下に来たはずだ。そんな勇敢な男の死を、これ以上安くしては、いけない。
 苅音は立ち上がる。これから、こんなことの繰り返しだろう。
 でも、自分は勝ち残る。この足が、奪った命の重みでへし折れても、這い進み、手に入れる。
 その覚悟だけは、ここに来る前に何度も繰り返し積み重ねたものだから。
 背後に何者かが立つ音がした。敵かと思ったが、それなら気づかれる間も無く殺しているはずだ。
 その考えを否定し、涙を拭う。振り向く。笑顔を作る。涙で赤らんだ目はどうにもならないが、少しでも家臣に心配をかけないために。と、振り返ったその先には、自分のサーヴァント、セイバーと――

 その腕の中には、先程転落死したはずのランサーのマスターである少年が抱かれていた。

「あんた何ランサーのマスター担いでんの?!」
 あまりの直球の質問に、ボキャブラリーの無さを思い知るが、そんなことはどうでもいい。セイバーは言いづらそうに眉を潜め、できるだけ冷静さを意識しながら言った。
「いえ、今そんな状況ではないのです、マスター。今は、この状況を脱するべく、ランサーと勝手ながら共闘中です」
「は……ハァ?」
 おもわず間抜けた声が出る。意味がわからなかったが、まだ説明は続くようだ。
 さっきまでの涙を返してよ!! と心の内で叫びながら、共闘せねばならないというその状況が如何様なものなのか、想像する。
 しかし、その想像など不要だと、飛び上がる影を視界の外に感じた。
 それは年端もいかぬ少女に見えた。身長は百四十センチ代、目深にフードを被り、口元まで覆うほどの高い襟で顔は見えない。微かに紫色の前髪がはみ出す程度だ。
 黒のストッキング、ノースリーブのワンピースの下に長袖のシャツを着ているせいで肌色は皆無だ。なにより特徴的なのは、肩に取り付けられている削岩機のような大きな腕だ。
 その大きな武器は少女の細い肩では押しつぶされてしまいそうなほどに大きなシロモノだったが、その細腕に連動して大きな削岩機は稼働しているようだ。
 低い満月がその少女を照らし、そのはかなげな容姿が際立ち、美しく見えるのに、隣のセイバーは強い舌打ちを漏らした。
「早く捕まってください、ヤツは危険です!!」
 置かれている状況を、セイバーは理解していた。マスターを守るにも、両手を塞がれ、それを葉で促すしか無い。
 だが、苅音はその言葉にすぐに従えなかった。何故なら、彼女は自分のサーヴァントに絶対の自信を持っていたからだ。
 最優と呼ばれるセイバーの名を持つだけ或り、セイバーのステータスは平均のそれを遥かに上回る。
 試し切りとして警察署で見せてもらった宝具を見てからはその自信はより一層強まった。
 そんな自分のサーヴァントがここまで慌てているのに、動揺してしまった。或いは、楽観していたのかもしれない。
 セイバーなら、なんとかしてくれる。そんな気持ちがなかったとは、その時の苅音になかったとは言い切れない。
 だから、月を背にする少女の追撃を負った。
 削岩機の腹を合わせ、指で華を咲かせた。その中央は小刻みに震え、内包した膨大なエネルギーの余剰が滲み出る。
 その後一秒もなかった。
 削岩機が放つ衝撃波は円状に放たれた。セイバーは苅音の前に立っているが、それを貫き、苅音を穿ち、屋上の床に無残な穴を生むだろう。
 しかし、衝撃波は誰にも着弾することなく、強風と退化し、風に混ざり、消え去った。
 削岩機を担いだ少女――謎のサーヴァントはその眉を潜めたまま、屋上に足を降ろす。
 少しの間セイバーを見て、校庭側の屋上の縁に目を移した。
 そこには、血だらけのランサーが硬直した笑みでこちらを見ていた。

     ◯

 その後のことはあまりよく覚えていない。
 ただわかることは、自分はランサーを置いて逃げ出したということと、その後謎のサーヴァントは追って来なかったということだ。
 おそらく、ランサーが足止めしてくれたのだろう。今になってはわからないことだ。
 
 ベッドの中で眠る少年の顔を見る。左手に触れ、その甲に煌々と輝く令呪を指でなぞる。
 本来の聖杯戦争なら、これで生存の確認nができるのだろうが、今回はまったく性質が異なる。
 この聖杯戦争においてはマスターを用意に使い捨てには出来ない。サーヴァントと失っても、マスターに令呪が残っている限りはサーヴァントを行使する権利が残されるかもしれない。
 しかし、今はこれが望みだ。ランサーの生存を望む気持ちがいつの間にかに大きくなっていた。
「ランサーは……きっと生きてる」
 言葉にすれば、きっと叶いそうな気がした。
 背にしたドアが金切り声をあげて開くのを感じた。声色を少し曇らせながら、朝食の準備ができたと言って、去っていった。
 朝食とは言っても、既に9時を過ぎている。それでもまだ目覚めない少年は、一体なにを夢見ているのだろう。
 コレ以上セイバーに不安を掛けさせまいと苅音は足早に部屋を出た。
 
 足音が遠くなるのを確認してから、弦技は閉じたままにしていたまぶたをゆっくり開けて、外を見た。
 まだ春の時期のはずだったが、太陽は夏のように照りつけている。
作品名:Fate/fiction in library 作家名:ROM勢