destin ④
「俺は着替えてくるが、お前はどうする?」
「あー、喫煙スペースにでも籠ってるわ。始まる前に呼びに来てくれ」
「わかった」
そう言ってゾロは更衣室へと消えていった。
結局、後輩と有名人との対面は叶わぬまま、間もなく試合が開始される。
まぁそのうち会えるだろうと、サンジは試合前に一服すべく道場を出た。
周囲には20人ばかりの刑事がいるが、全員がまだ若く、どちらかというとゾロの方が妙に貫禄がある。
あまつさえ、ゾロに一礼する者もいた。
やはり、高校時代の輝かしい功績のおかげなのだろうか。
「世界大会準優勝ってやっぱすげーんだな」
外に出たサンジは、あの寝腐れマリモからは想像できねーな、と肩を竦め、煙草を取り出す。
彼が吸うのは、フランスでもっともポピュラーな銘柄のひとつ、ジタンだ。
日本の映画『紅の豚』を観て、ポルコ・ロッソのダンディさに惹かれこの銘柄を吸うようになった。
「男はダンディかつクールに、な」
そう言い放つと、サンジはそそくさと厳つい男ばかりの道場から抜け出した。
道場を出てふとあたりを見渡すと、これほど和風・古風な旧家に、なぜか自動販売機が設置してあるのが目に入った。
「不釣り合いすぎだろ」
便利な世の中だからね、と微笑む師匠の顔が浮かぶ。
サンジは思わず苦笑した。
「アイツになんか差し入れでもしてやるか」
そう呟き、静かに佇む自動販売機の方へと足を運んだ。