destin ④
そのわずか数分前。
「かーっ!やっぱ珈琲はブラックに限るぜ」
自動販売機で購入した珈琲を一気飲みし、サンジは、これぞ大人の味だな、と呟いた。
もちろん、ゾロの分のブラックも購入している。
ゾロは甘いものが苦手だからだ。
別にサンジも苦手という訳ではないが、以前微糖を飲んでいたとき、
『テメェはブラックも飲めねぇのか。まだまだガキだな』
『はぁっ!?飲めるに決まってンだろ!クソマリモが大人の味語ってんじゃねぇ!』
ということで、ブラックばかり飲むようになったのだ。
初めは苦かったが、段々、この苦味がくせになり、今ではブラックしか飲まなくなった。
サンジはポケットから煙草を取りだし、火を点ける。
その時だった。
「さて、マリモの応援にでも行…ぅおっ!?」
「わっ!!」
自動販売機から一歩離れた瞬間、突如、何かが胸に飛び込んできた。
そのまま互いにドスンと尻餅をつく。
「あたたたー、何かにぶつかってもう………って、人やないかい!!」
標準語とは微かに違うイントネーションで叫ぶと、飛び込んできた胴着の男は急いで立ち上がり、手を差し出した。
「すんません、大丈夫ですか?えと、Are you okey?」
「………」
サンジは英語で尋ねられたのだが、外人は全部アメリカ人だと思っているのか、と無性に腹が立ち、顔をしかめた。
男はそんなサンジの言動にきょとんとしている。
それが余計にムカッとし、サンジは苦々しく口を開いた。
「Donc,je hais les hommes (だから男は嫌いなんだ)」
「え」
「Desole (こっちこそ悪かったな)」
それだけ言い残すと、サンジは男にくるりと背を向け、足早にその場を去った。
ひとり残された平次は虚しく呟く。
「…何語や」