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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 8

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 シバは訊ねた。するとマハは小さく首を横に振った。
「ワシはもう人にはなれぬ…」
 マハにはもう一つ失ったものがあった。元よりマハ達ヴァンパイアにとっての真の姿とは人の姿ではなく狼の姿の方である。更に彼は真実を現す力を持っている。手に入れた当初は彼も未熟であった、故に力を抑えられず、『イマジン』の真実を現す力に負け、人の姿でいる事ができなくなったのだった。
「ワシは『イマジン』と引き換えに人の姿を失った。それほどまでにこの力は強い、手に入れ、自由に使いこなせるようになるまでにワシはすっかりこれにやられてしまったのじゃ…」
 マハはシバを見つめた。
「シバ、と言ったか、お主もこの力を手に入れたようじゃが、努々負けてはいかんぞ…、真実を見抜くというのは実は恐ろしい事なのかもしれぬ…」
 シバには分からない事は数多くある。彼女は14年前に天よりラリベロの地へ降り立ったという。自身の出生についてはこのくらいの事しか教えられていない。自らに宿る予測の力を以てしても見通すことはできなかった。そもそも、何故自身に予知能力があるのかさえも分からない。
 それでもシバは知りたかった。
「あなたの言うとおり、真実を知るのって怖いことだと思うわ。私には分からない事、知りたい事があるの。確かにまだそれをみんなに言う覚悟も知る覚悟もできてないけど、それでもやっぱり知りたいの」
「シバ…」
 ガルシアにはシバの知りたい事というものは分からない。いずれ話すとだけ言われ、未だに告げられていなかった。
 シバは真っ直ぐにマハの目を見つめていた。するとマハは一息ついて、言った。
「何やら込み入った事情があるようじゃな。じゃが、同時にお主には強い意志があるようじゃ。その意志さえあれば、ワシのように『イマジン』にやられるような事はないじゃろうて。意志は強く持つんじゃぞ」
 シバは強く頷いた。
 ふと人間の姿に戻った子供ヴァンパイアが欠伸と共に目を覚ました。
「う〜ん、あれ?ボク寝ちゃってたの?」
 少年は辺りを見回した。
「目が覚めたようじゃな」
「あ、マハ様、おはようございます」
 言った後で少年ははっとなり、ガルシア達を警戒した。
「ああ、大丈夫じゃ。この者達にはワシらのように人には言えぬものがあるのじゃ」
 マハは少年の考えを見越して彼を諭した。
「じゃあ、ボクこの人達の前では隠れなくてもいいんだね」
「ああ、そうじゃ。皆心優しい者達じゃよ」
 少年は嬉しそうにはしゃいだ。
「夕べはお主の両親に何も告げずにお主をここに置いてしまった。心配しとった事じゃろう、ワシが家まで送ってやろう」
「はい」
 マハと少年は洞窟の外へ出ようとした。しかしマハは立ち止まり、ガルシア達を向いた。
「ガルシア、お主らもエアーズロックを登った後なのに一晩話して疲れたじゃろ。宿代はワシが払っておく、休んでいくのが良いじゃろう」
「ああ、わざわざすまない」
「気にするな、それではな…」
 マハは少年を連れて外へ出て行った。
 ガルシア達もマハの好意に甘え、宿へ向かうのだった。
    ※※※
 インドラ大陸南端の町、マドラ。
 長閑で平和な町はパヤヤームを頭とする海賊チャンパの襲撃以後、再び平和な日常を送っていた。
 しかし、ある夜、再び閑静な町は騒然とする事になる。
 牢屋ではあのレムリアの青年、ピカードがまだ囚われていた。
 彼がシンディランにエナジーを使ってから、シンディランはまともな食事を提供するようになっていた。その日も食事を終え、そろそろ眠ろうかとベッドに入った所だった。
 寝入り端に野太い男達の叫び声がした。それと同時に騒音がし始めた。それによりピカードはすっかり目が冴えてしまった。
「…うるさいなあ、何だろう。お祭りでもしてるのかな?」
 ピカードが呑気な事を考えている間、町は恐ろしい状態にあった。
 顔に独特の呪術的な絵を描いた色の黒い男達が町の家々を襲っていた。
 男達は全て腕や脚を露出した軽装である。肌の色やその呪術的フェイスペインティングからも南の蛮族達だと窺えた。
 彼らは家を襲撃しても特に何も盗んでいない。何かを探すように家を荒らしているが、チャンパの様に食物や金品といった物には一切手を出さなかった。
「あったか?」
「いや、ないぜ」
「まだまだ探せ、この町も駄目だったらまたアカフブ様にどやされるぞ」
「分かってるよ!」
 アカフブ、どうやらこの人物が彼らの長らしい。アカフブが狙う物は何なのか、それはすぐに分かることになる。
 蛮族達はついに町長の家にまでやって来た。町の家や店などは全て荒らし尽くし、彼らの手は町で一番大きい町長の家にまで伸びたのだった。
「おらあ!大人しくしてろ!」
 蛮族の一人が押し入るとすぐに数人が家に駆け込んだ。
「ひいい!」
 食事の後片付けをしていた家政婦達は驚き、逃げ出そうとした。
「動くんじゃねえババアども!」
「さっさと探せ」
「おう!」
 蛮族達はすぐに樽や木箱を破壊し、寝室に押し入って乱暴にクローゼットを開けたりと家中を荒らし回った。
「だめだ、ここにも無いぜ」
「ちきしょう、このデカい家になら絶対にあると思ったんだが…」
 このままではアカフブ様にどやされると彼らは焦り始めた。
「おい、あれ!」
 男が一人、居間の暖炉の上に大切に置かれた黒水晶を指差した。
「おお、きっとあれだ!」
 男が暖炉に近寄り、黒水晶に手を掛けた。
「待ってください、それだけは。主人の大切な預かり物なんです!」
 家政婦の一人が持っていかないように嘆願した。
「うるせえババア!引っ込んでろ!」
 蛮族は怒鳴りつけた。
「へへへ、これでアカフブ様もお喜びになるぞ」
 蛮族は黒水晶を手に取り、それを色々な角度から眺めた。美しい光沢を放っている。
「しばらく失敗続きだったからな。これでアカフブ様のご機嫌も直る」
「よし、目的の物は手に入れた。他の仲間にも伝えてずらかるぞ!」
 蛮族の男達は来たとき同様にバタバタと去っていった。同時に町の中にいた蛮族全てがマドラから去っていった。ほんの二、三十分程度の襲撃であった。盗品も長老がピカードから預かったという黒水晶ただ一つであった。
 その次の日の朝、町長達のお供の者が、パヤヤームが捕まりピカードの無実は証明されたので、町へと帰ってきた。
 ピカードはすぐさま釈放となった。
 牢屋にシンディランがやって来た。牢の中のピカードはまだ眠っている。
「おい、起きろピカード」
「んん…、何だいシン、もう食事かい?」
 シンディランは何も言わずに近づき、鉄格子の錠前を外した。
 鉄格子の扉を開かれるとピカードはきょとんとした。
「お前は今日で釈放だ」
 あまりに突然の事で釈放という言葉を理解するのに数秒かかった。しかし、言葉の示す意味を理解するとピカードの表情はぱあっと明るくなった。
「本当かい!?もう僕の罪は晴れたの!?」
「ああ、今朝早くに町長と一緒にアラフラに向かった共の者が帰ってきて、お前の罪は無いってよ」
「ありがとうシン!」
 ピカードはすぐさま牢屋を出た。そして真っ直ぐに町長の家に向かった。長老に預けていた黒水晶を返してもらうためである。