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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 8

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 ガルシアは全て覚えがある。すべて彼から聞いた事、見た事である。それに忍者というものの存在を彼以外知らない。
「そいつが捕まっている牢屋はどこに!?」
「西の町外れさ、あ、ちょっと!」 ガルシアは全て聞かない内に駆け出した。
「兄さん!」
「やれやれ、一体何を慌ててるんだ?」
 ガルシアは走りながら思った。それは紛れもない、ガルシアがずっと望んでいた事実。
――シンは生きている!――
    ※※※
「食事だ」
 鉄格子の向こうから汚い色のパンと色の薄いスープが入れられた。
 黒髪の男はパンを手に取ると千切って恐る恐る口に運んだ。パンからはカビの匂いが口中に広まった。
「がぺぺ!何だこりゃあ!?」
 飲み込むことなど到底不可能だった。
 黒髪の男、シンは鉄格子を握り、喚いた。
「ざっけんじゃねえよ!毎日毎日、まともな飯はねえのか、ここにはよ!」
「うるさいチャンパが!残飯でも食えるだけありがたいと思え!」
 食事を提供した男は怒鳴った。彼も名をシンという。正確にはシンディランという名前だが、縮めてシンと呼ばれている。
「だから何度も言ってんだろ、オレ達はチャンパなんかじゃねえって!」
「まだ言うか、お前たちのその格好はどう見てもチャンパだ。大体あんな所に倒れてたんだ。チャンパの仲間だろ!」
 シンディランは聞く耳を持たなかった。話を聞け、出せ、と喚き鉄格子を叩くシンを無視してシンディランは隣の牢屋の前に立った。
「隣の奴は話にならない。なあ、いい加減正直に話してくれないか?お前達はチャンパなんだろ?」
 シンディランは鉄格子の間から食事を通しながら訊ねた。
 牢の中の男は後ろを向いている。腰元まで掛かる深緑の髪が揺れる、横に首を振ったのだ。
「…何度言われても、僕はチャンパじゃない」
 シンディランは鉄格子を蹴りつけた。
「人と話をしているのに向こうを向くのは止めろピカード、バカにしているのか!」
 牢の男、ピカードは振り向かない。
「シン、チャンパとかいう人達のせいで君の恋人が怪我をしたのは気の毒だと思うよ…」
 シンディランはまた鉄格子を蹴った。
「悪いと思うんならオレの目を見ろ。そして白状するんだ」
 ピカードは長髪を揺らして振り向いた。表情はムッとしている。
「何だその目は、何か文句あんのか?」
「もう、頼むからこれ以上僕を怒らせないでくれ…」
 シンディランは嘲笑った。
「ハッ、お前が怒るとどうなるんだ?地震でもって起きるってのか、じゃあこの前の大地震はお前のせいか。こりゃあチャンパどころの騒ぎじゃねえな!」
 ははは、とシンディランは笑った。完全にピカードを馬鹿にして。
「本当にもう止めてくれ、大人しくしているのも限界があるんだぞ」
 シンディランは挑発を止めない。
「面白い、地震でも何でも起こしてみろよ!」
 ピカードの中で何かが切れた。胸の奥からじわじわと怒りが沸き上がってくる。
「これほど言っても分からないんだったら…」
 ピカードは目を閉じて精神を集中し始めた。
「何だ、目なんか閉じて、何のつもりだ?」
 隣の牢のシンは慣れた力の流れを感じ、鉄格子の間に顔を挟み、何とか隣を見ようとした。
 ピカードは手をかざし、詠唱する。
『チルド!』
 シンディランの足元から氷柱が出現し、シンディランは足元を掬われて尻餅を付いた。
 シンは氷柱を見て驚いていた。
「ピカード、お前は…」
 シンディランは尻餅を付いたまま、驚きのあまり口をパクパクとさせていた。
「あ、あ、今のは一体…?」
 ピカードは冷たい目でシンディランを見やり、言い放った。
「君は…、何かを起こして欲しかったのだろ…?」
 シンディランの恐怖は限界を超えた。
「ば、化け物…!」
 言葉にはっとなったピカードの目は元に戻り、慌てて弁解した。
「ち、違うよ。僕は化け物なんかじゃ…」
「うわああああ!」
 シンディランは大慌てで牢屋から走り去った。
「おい待てよシン!別の飯持って来いよ!」
 シンは言った。
 たくっ、と徐に隣の牢に目をやるとピカードは鉄格子の前で立ち尽くし、わなわなと震えていた。
 後悔の震えだった。元より心の優しい男である。人を傷付ける事は絶対にしたくなかった。
 おまけに普通の人間に対してエナジーを使ってしまった。これが何よりも後悔が強かった。
「…シン、僕は最低な奴だよ。ついかっとなってあんな事してしまうなんて」
 これほど後悔するのだったらエナジーなど使わなければ良かったとピカードは呟いていた。
 これでシンは確信した。
「ピカード、お前やっぱり…」
 突然牢屋に誰かが駆け込んできた。
「何だよシン、もう飯持って来て…」
 牢屋に入ってきた者を見てシンは言葉を止めた。
 その男はよほど走ったのか息を切らし、シンを真っ直ぐに見つめていた。
 シンもその男の事はよく知っている。
「ガルシア…?」
「シン!」
 ガルシアは駆け寄った。シンは鉄格子の間から手を伸ばした。
「ガルシアーー!」
「シーーン!」
 ガルシアは奇跡的な再会を喜んでいた。
    ※※※
 大量の食器が積み重なっていく。また新たな料理が運ばれてくるとシンはものの数十秒で平らげた。
 口の周りに付いた汁も丹念に舐めとって空いた皿を掲げて代わりを要求する。
「お代わりどんどん持って来てくれよ?!いや?、シャバの飯はやっぱ旨いぜ!」
 すると宿屋の女将は笑顔で別の料理を運んできた。
「こんなに食べてくれるなんて、おばさん嬉しいわ」
 シンは料理を受け取るとすぐに食べ始めた。
「まだまだあるからどんどん食べてね」
 女将は去っていった。
「よく食べるわねえ…」
 シバは呆然とシンを見た。
「牢屋の飯は酷かったからな。カビの生えたパンとほとんどお湯のスープだぜ?ほんと、犬も食わねえよあんなもん!」
 シンはこう言ったつもりだったが、もごもごと口の中に食べ物を詰めたままで周りのガルシア達には聞き取れなかった。
「…ちゃんと飲み込んでから話しなさいよ、汚いわね」
 それから数回代わりをもらった後、シンはようやく満腹になった。
「あ?、食った食った。ほんと、腹減って死ぬかと思ったぜ」
 シンは膨れ上がった腹を満足げにさすった。
「なあシン、そろそろ聞かせてくれないか?どうしてお前は生きているのか…」
 あれからガルシアはシンディランに事情を説明し、シンの身柄を引き受けた。それから宿屋へ来てガルシアは事情を聞こうとしたが、空腹で何も話したくないとシンは夕食が終わるまで一つとして話さなかった。
「ん、そうだなやっぱ話さなきゃな…」
 シンは一息つくと話し始めた。
 シンが助かったのは奇跡としか言いようがない。リョウカとの血戦の末シンは自ら海へ身を投げ、今は既に死んでいるはずだった。しかし、彼が落ちた先に牢屋で共に囚われていた青年、ピカードの乗っている船が通りかかっていた。
 シンは海へ沈む前にピカードによって助けられた。その後シンは意識を取り戻した。ピカードから話を聞くと、彼はレムリアという所から来たという。
 レムリアでも異変が発生し、その異変で偶然にレムリアから外の世界へ放り出されてしまったと言っていた。