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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9

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第32章 数千年の封印


 ウェイアードの中心に位置するゴンドワナ大陸より、黄色い巨大な光が発生してから、世界のあらゆる場所で異変が起きていた。
 大地震や津波、ウェイアードの極東部に位置するジパン島イズモ村もまた例外ではなかった。
 ジパン島にある岩山、ガイアロック、イズモの者達には古くからフジ山と呼ばれている。
 その山の洞窟の奥、更に奥深くに祭壇がある。そこには遥か昔、勇者ミコトによって封じられたオロチの石像が奉られている。
 封印されてから数千年、決して解かれることはなかった。しかし、西の大陸、ゴンドワナにて灯台の光が発せられてから異変は起きた。
 地響きが祭壇を揺らした。オロチの石像も激しく揺れている。すると石像にひびが入り始めた。
 最初は頭からひびが入り、次第に足から、尾からひびが広がっていく。そしてついにひびはオロチの体全体を包み込んだ。
「グアアアアア!」
 おぞましい咆哮と共にオロチを包んでいた石は砕け散り、鋭い鱗に包まれた緑色の皮膚が露わとなった。
 オロチの復活と共に祭壇は全て吹き飛んでいた。オロチはゆっくりと首を動かす。
 金色に妖しく光る目が暗闇の中を蠢いた。数千年前と何も変わらない、祭壇の部屋は闇に包まれていた。
 オロチは火を吹き、近くの松明へ火を点けた。
――我、数千年の眠りより、再び目覚めたり!――
 揺らめく炎がオロチの姿をより鮮明なものにするのだった。
    ※※※
 イズモ村、村人皆が協力して田畑を耕し、狩りで採集をすることで自然と共に生活を営んでいた。アンガラ大陸やゴンドワナ大陸の生活様式からするとここは大分違う文化を築いていた。
 また、イズモ村では独自の呪術的信仰もあった。村の北部に位置するストーンヘンジがそうであった。
 かつて錬金術が存在した頃、ここでも大小差はあるものの全ての者がエナジーを扱っていた。しかし、錬金術は封印され、数千年という長い年月を経る内にエナジーを使える者はほとんどいなくなっていた。
 しかし、ごく僅かな者だけが未だにエナジーを持っていた。すぐ側に地のエレメンタルロックであるガイアロックがあるおかげでエナジーを授かることができたのである。しかし、全てが全てエレメンタルロックのおかげではない。先祖が優れたエナジストであった事が何よりの要因であった。
 そんなイズモ村では今、祭の準備に慌ただしかった。
 ウェイアードの極東、それも北東部に位置しており、季節の流れが一定となっており、近くのアンガラ大陸ではようやく秋にさしかかった所であるが、このイズモ村では既に秋も深まっていた。
 作物の収穫も進み、今年も豊作となった。その感謝を自然に捧げるための祭が執り行われようとしていたのだった。
 村の真ん中の広場で、物を運ぶ男達の肩がぶつかり合った。片方の男が運んでいた薪を落としてしまった。
「痛てえな、どこ見て歩いてんだよ」
 落とした薪を拾う男、スサは立ち上がって反抗した。
「てめぇこそどこに目ぇつけてんだよ!?」
 相手の強面の男はスサを睨み付けた。
「あぁ?やんのかコラ!」
「臨むところだタコ野郎!」
 人目をはばからず二人の男は殴り合いの喧嘩を始めた。
 スサは細身の体型であり、黒い長髪を後ろで束ねており、顔立ちも整った優男、もしくは美少年である。着ている物も周りの者に比べると綺麗なものである。
 対する男は小太りの体格のいい丸坊主の男であり、力も相当に強そうである。
 男は力一杯に拳を突き出した。スサは持ち前の身軽さを利用して簡単にかわした。力任せの一撃をかわされ隙だらけとなった男の腹にスサは一撃を与えた。
「ぐふ!」
 なんと見た目細身で非力そうなスサが体格の良い大男を圧倒していた。
 鳩尾を打たれた男はゆっくりと膝を付いていく、スサはそんな男に更に攻撃を加える。
 崩れかかった男の顔を顎の先から側転をするように蹴り上げた。これにより男は無理やり立ち上げられ、ふらふらと棒立ちになった。そこへ更に接近し、全力で腹に拳を入れた。
「どおりゃあ!」
 再び腹に一撃を受けた男はスサにもたれかかり、スサはその男を背負って後ろに投げ飛ばした。
 土埃を上げ、男は地面に叩きつけられた。
「ま、参った…」
 男は呻くように言った。
「まだまだ、このスサ様に舐めた口聞いた罪はまだまだ晴れないぜ!」
 立てよ、とスサは男の襟を掴み、無理矢理起こした。
「も、もう本当に勘弁…」
「まだだ、こっからが本当の喧嘩だ!」
「す、スサ!何をやっているのです!?」
 スサの後ろから女性の声で彼の名が呼ばれた。
 振り返るとそこにいたのは美しい女性であった。スサと同じく長い黒髪を持ち、美しくも妖しげな呪術的雰囲気の紫の着物を身に纏う女である。実際に彼女は村では呪術による占いをする事で有名であった。
「う、ウズメ様…」
「やべ!姉貴だ!」
 スサは男の襟を放すと一目散に逃げ出した。
「こら、待ちなさいスサ!」
 男にウズメと呼ばれた女性はスサの実の姉であり、女性ながら呪術によって村を治める長として村人から慕われていた。
 ウズメはスサを追ったが、既にスサは遠くまで走り去っており、追い付けそうになかった。一先ずスサは諦め、彼によって痛めつけられた男の様子を見ることにした。
「あの、大丈夫ですか?」
 男は呻くように言う。
「うう、痛ぇよウズメ様…」
 刀傷のようなものこそ負ってはいなかったが、スサに投げ飛ばされた事で体中擦り傷だらけであった。
「待っててください、今治してあげます…」
 ウズメは目を閉じ祈り始めた。大地の霊力を集めているのである。ウズメが呪術を使うときはいつもこうしていた。
 ウズメに霊力が集まると、彼女の体から光が発せられ、同時に自らの手を広げて男に向けた。
『キュアライト』
 優しい光が男を包み込み、その中で男の傷は塞がっていく。数秒の間光に包まれた後、傷が完全に塞がった男は起き上がった。
「お体はどうですか?」
「おう、すっかり治ったぜ!ありがとよ、ウズメ様!」
 男は嬉々として腕を振り回した。
「にしてもスサの野郎、よくもここまで痛めつけてくれやがったな!」
 男は見るからに怒っているようだった。
「どうかその事はお許しを、私の方からよく言って聞かせますので」
 ウズメは弟に代わって詫びた。
「まあ、俺じゃあ奴には勝てねえし、ウズメ様がそう言うなら許さねえ訳にはいかねえよな。ちゃんと言っといてくれよ」
「はい、この度は本当に申し訳ありませんでした…」
 ウズメが深々と頭を下げると男はぶつぶつと言いながら去っていった。
 スサは林の中へ逃げ込んでいた。草村に手足を伸ばして空を見上げた。遠い青空に雲が流れていく。
――やれやれ、こりゃ帰ったらまた姉貴にどやされちまうな――
 姉のウズメは普段の清楚な様子からは想像がつかないほど怒ると恐いのである。その上話がやたらと長いのだ、酷いときは昼間から夕方まで延々と説教を食らったこともある。
 そうならないためにスサはウズメに怒られるであろう時には夕暮れまで家には帰らないことにした。何より今夜は祭である、説教をしたくても夕方に戻ればそんな時間はないだろう、そこまでスサは考えていたのだった。