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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9

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「私は予感したのです。これから十日の内にオロチを倒す戦士が現れると…」
 それはどのような人物なのかまでははっきりしなかった。普段、ウズメが予測する時は未来に起こることがはっきり見えるのであるが、今回はほとんどぼやけていた。これまでにこのような事はなかった。迫り来る危機から来る恐怖感がウズメにあらぬ妄想を抱かせたのかもしれない、それでも今は予測の力を信じることしかできなかった。
「今は待つより他はありません…」
「そんな訳の分からねえもん、信じられるわけねえだろ!」
 屋敷の中の自室で怪我のため寝ていたスサが現れた。
「スサ!」
 呼ばれた途端スサは痛みに顔を歪めた。傷は昨晩オロチが去った後ウズメの力で回復を図ったが、完全には塞がっていなかった。
「スサ、まだ寝てなくては駄目でしょう」
 ウズメは言った。
「つつ…、クシナダが危ねえってのに、寝てなんかいられるか」
「スサ、その事ならば心配ないわ、直にオロチを倒す戦士は必ず…」
「そんなもん信じられねえっつってんだ!」
 スサは怒鳴り声を上げた。そしてすぐに痛みに顔を歪める。
「オロチはオレが倒す。そして、クシナダや村は、オレが守る!」
 言うとスサは屋敷を出ようとする。
「待てスサ、無茶だ。そんな傷で戦えるわけがねえだろ!」
 男は引き止めた。
「そうだぜ、今度こそ殺されちまうぞ!」
 別の男も続いた。
「じゃあお前ら指くわえて見てろってのか!?」
「そうは言ってねえだろ…」
 スサは皆に背を向けた。
「だったら黙ってろ、どうせお前らじゃオロチと戦うことなんかできやしないんだからな」
 スサ、スサ、と彼を呼び止める声でどよめきが起こった。そのどよめきをウズメの声が静めた。
「いい加減になさい、スサ!」
 スサは再び振り返った。姉であるウズメは顔を赤くして、眉を吊り上げてスサを見ていた。彼女が怒った時、いつもスサにこのような表情を向けていた。
「あなたが行った所でオロチに勝てるわけがないでしょう!」
 スサは反駁した。
「うるせえ!」
 スサはウズメに手を向け、波動を放った。波動はウズメの額に当たり、彼女の額の飾りを弾き飛ばした。
 飾りは空中を舞い、床へ落ちた。とつぜん目に見えない力でウズメの飾りが吹き飛び、辺りはどよめいた。
「いくら姉貴でも邪魔するってんなら容赦しない…」
 ウズメの中で何かが切れた。
「はあっ!」
 ウズメは両手をスサに向け、スサが発したものよりも更に強い波動を放った。
「ぐお!」
 スサは後ろに吹き飛ばされ、床に倒れた。
「姉に手を上げるとは、恥を知りなさい!」
 ウズメは床に転がる飾りを広い、額に戻した。
「しばらく頭を冷やしなさい。皆さん、今日はもうお引き取りください。私から申し上げる事はもう何もありません」
 集まった村人達はウズメの言うとおりぞろぞろと屋敷を後にした。本気で怒った彼女見たのは彼らにとって初めてであり、従った方が良いと思ったのだ。
 ウズメも部屋の奥へ去っていった。誰もいなくなった部屋でスサは床に倒れたまま呆然と天井を見上げていた。
 ふと、天井が滲み始めた。
「ちくしょう…」
 胸の傷が姉からの衝撃によって若干開いていた。いや、そんな痛みはスサにとってどうでもよかった。
 何よりも、情けない自分が悔しくて仕方がなかった。クシナダを守ってやれない弱い自分がたまらなく不甲斐無く、許せなかった。
 スサは誰一人いない部屋で重苦しいばかりの沈黙の中一人嗚咽を洩らすのだった。